そして、私たちは愛に帰る

b0041912_1462351.jpg どことなく、この映画はきっと日本では公開されないかも、と感じた作品が、私の予想に反して年末から新春にかけて、次々に公開されるので、嬉しい驚きです。その中で今週はスペイン映画「永遠の子供たち」とドイツ映画「そして、私たちは愛に帰る」が話題になっていますね。
 そのうちの観て良かった方、「そして、私たちは愛に帰る」。人の心をがっしりつかむようなこの邦題がいやでも目を惹きます。フランスでは「向こう岸から」、英語タイトルは「天国の片隅で」。欧州社会とトルコの微妙な間柄を背景に、三組の親子の愛憎が交錯し、その絆の強さを問い直す構成です。
 ブレーメンで定年を迎えたアリは、同郷のトルコ出身の娼婦イェテルを身請けし、同居を始めたのもつかの間、嫉妬からイェテルを殴って死なせてしまいます。だらしない父親に反発して来たアリの一人息子ネジェットは、ハンブルグの大学講師。過失致死で逮捕された父親を見限ったものの、トルコに残した一人娘アイテンに、身を削って仕送りしていた故イェテルを不憫に思い、彼女の一人娘を探し出すべくイスタンブールへと旅立ちます。
 けれど、反政府活動に手を染めていたアイテンは、靴屋で働いている筈の母イェテルがいるドイツに不法入国していました。住む場所もないまま、ハンブルグの女子大生ロッテと知り合ったアイテンは、ロッテの家にかくまってもらいますが、彼女の厳格な母親スザンヌとは衝突してしまいます。スザンヌにしてみれば、アイテンが傾倒しているトルコの人権問題も「やがてトルコがEUに加盟すれば、全て解決すること」で、言論の自由も危ういトルコの現実は、遠い世界の話なのでした。
 アイテンを探すため、講師の座を捨てて、イスタンブールでドイツ系の本屋を始めるネジェット。一方、アイテンは不法滞在がばれてトルコに強制送還となり、故国で投獄されるはめに。アイテンを救いたい一心で、ロッテもイスタンブールに渡ります。そんな娘の行動が理解できないスザンヌ。
 そこへ悲劇が起こり、娘の気持ちに近づくため、スザンヌもイスタンブールに向かうのでした。
 
 それまで、全くトルコの抱える問題に目を向けていなかったスザンヌが、娘のためにイスタンブールに渡り、娘の足跡をたどりながら、彼女の意思に寄り添う決心をしたことから、映画は彼女の心の動きを静かに、でも丁寧に描き始めます。強い喪失感を抱えたスザンヌが、娘の行動を追体験することで、観客もスザンヌの深い悲しみを共有するような気持ちになって来ます。
 ドイツで生まれ育ったネジェットが、アイテンを探しながら文化の違うトルコに自分のルーツを見出して行く様子も興味深いし、お互いの背景を知らないスザンヌとネジェットの交流も胸に沁み入るものがあります。
 「死」によって、初めて本当に相手を理解し始める親子の姿が、とても印象的で、3組の親子の複雑な足跡を若い監督がみごとに交差させています。社会派+親子の別離や愛を織り込んだ、厚みのあるこの作品、2007年のカンヌ映画祭で高く評価され、フランスメディアもこぞって絶賛していました。自身もドイツ育ちのトルコ移民2世であるファティ・アキン監督、ドイツとトルコ両国の問題をニュートラルな立場で浮き上がらせた手腕は先が楽しみです。
 
 因みに「永遠の子供たち」の方は、とても雰囲気のあるクラシックな映像で、初めは引き込まれましたが、サスペンス調がオカルト的になって来た頃から辛くなり、結局はかなり後味の悪い思いをしました。なぜ、この作品がスペインで大ヒットして、日本まで来たのか?ちょっと不思議。こういう映画で一年を締めくくるのは避けたいと思うのですが。
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by cheznono | 2008-12-28 01:47 | 映画