マルタの優しい刺繍

b0041912_21234633.jpg 10月からロングランで、東京では先週末に上映が終わった「マルタの優しい刺繍」。スイスで歴史的大ヒットを飛ばしたというこの作品、日本でも2008年のミニシアター観客動員数1位と聞いて、最終日に観てきました。3ヶ月も上映されていたのだからとのんびり構えていたら、殆ど満席でびっくり。単館上映でこれだけ好評な作品なのは、高齢化社会の進む中で、伝えたいメッセージが明確だからでしょうか?
 スイスは女性と男性の平均寿命が8歳違うそうですが、主演を演じた80歳のマルタ役のシュテファニー・グラーザーが、実際はもう90歳近いというのも驚異的。はにかみがちな少女を思わせるとってもかわいい女性を極めて自然に演じていました。

 首都ベルンに近い美しい村で雑貨店を営んでいた夫を亡くして以来、マルタは半鬱状態。仲良し4人組の老女たちの中でも、心は上の空、牧師の息子夫婦にもさじを投げられています。
 仲良しのシングルマザー、リージと老人ホーム暮らしにうんざりしているフリーダ、半身不随の夫の介護をするハンニは、何とかマルタを励まそうと、かつて刺繍が得意だったマルタに合唱団の旗を修復する役目を回した所、きれいな布地を前に急にマルタの顔が輝き出します。若い頃、マルタは美しい下着の縫い子をしていて、いつかパリに出て、ランジェリーショップを開くのが夢だったのです。
 夫の残した雑貨店をランジェリーショップに変身させたいと夢見るマルタをアメリカ帰りというふれこみのリージが後押しします。すっかりその気になって、きれいな下着を縫い始めるマルタ。しかし、レースをふんだんに使ったブラやパンティをマルタのような老女が販売するなんて、はしたなくてとんでもない、と息子で牧師のヴァルターや村の青年団長フリッツは猛反対。そればかりか友達のフリーダやハンニまで、笑い者になるわと顔をしかめて反対するのでした。
 平和で保守的な村の生活ですが、それぞれが問題と直面しています。終止マルタを応援するリージは、その昔、愛する人を追って渡米し、一人娘を連れて村に帰って来たという過去に何か秘密がありそうだし、美容院を経営する彼女の娘は不倫中、ハンニの息子でマッチョの典型のようなフリッツは、嫌がる両親をホームに追いやろうとしています。
 そんな中、果たして80才のマルタは、無事にランジェリーショップをオープンして、繁盛させることができるでしょうか?
 
 この所、スイス航空で日仏を往復する機会が多いため、チューリッヒ空港で乗り換えするだけとはいえ、何となく親近感を感じていたスイス。金融危機までは裕福でモダンな小国というイメージだったスイスですが、意外に男尊女卑が強く残っていると聞いたことがあります。この映画を見ながら、目にしみるような緑の自然や家並みが美しい風景の影で、こんなにも古い価値観が当然のように息づいているのかと頭を叩かれたような衝撃を受けました。
 一緒に観た友達も現代が舞台とは思えなかったと言ってましたが、私もあまりにも保守的な男性陣には気分が悪くなるほど。価値観が古いわりに、二組の母息子のひやっとするような関係もラテン系の南仏などでは想像しにくい距離感です。
 けれど、マルタの挑戦で村のみんなのめちゃ固い頭も変化が見られる所に救いがあるし、最愛の伴侶を見送って何も手につかなかったマルタが、再び生き甲斐を見つけ、わくわくしながらランジェリーを作り上げる時の笑顔が素敵です。「年齢は関係ない、幾つになっても自分の夢に向かって前向きに挑戦し続けるべき」という力強いメッセージが、美しい村に快く響くラストでした。
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by cheznono | 2009-01-21 21:24 | 映画