フランスの借家人退去事情

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  3月初旬にカンヌ行き長距離バスに乗って、ヴィルヌーブ・ルベまで買い出しに出かけた時のこと、満員のバスの後ろの席で、携帯電話で夢中でしゃべっている女性がいました。初めは何だかいやにうるさいなと思いつつもさして気にしなかった私ですが、大声の会話は長々と続きます。
「だからねムッシュウ、あなたもソーシャルワーカーに相談するか、自力で見つける努力をして下さい!私だって子供二人抱えて必死なの。とにかくあと1週間しかないんだから、何とか住む所を見つけなきゃ」と穏やかならぬ内容に思わず振り返ってみると、声の主は40代くらいの普通の身なりのマダムでした。
  フランスでは11月1日から3月15日までの4ヶ月半の寒い期間、たとえ家賃を滞納しても、借家人がアパルトマンを追い出されることはありません。寒空に住居を追われ、急遽派遣村で年越しを余儀なくされるということは、フランスでは起こらないように法律によって規制されています。
 毎年、このアパルトマン強制退去停止期間が終わる3月半ばを心待ちにする家主と、途方に暮れて迎える家賃未納の借家人はかなりの数に及びますが、今年は金融危機の真っただ中。失業などで1ヶ月以上の家賃未納の所帯はなんと180万、そのうち深刻なケースは約50万世帯と言われています。
 事態を憂慮した住宅担当大臣が「強制退去停止期間が過ぎても借家人をホームレスにしない」と幾つかの対策を示して家主に呼びかけましたが、家賃収入を当てにしている家主側が聞く耳を持たないのは明らかだと、住まい退去に該当する世帯を支援する30余りのNPO団体が、3月初めからあちこちでデモを打っています。
 こうした支援団体は、未納借家人を住居から追い出さないことや高過ぎる家賃の是正を要求。強制退去停止期間の終わった先週はパリで山のようにマットレスを積み上げて、政府や家主に抗議を訴えていました。

 私がバスの中で聞いた会話は、その借家人退去停止期間が切れる1週間前。くだんの女性も子供二人と一緒に住まい退去を迫られているらしく、やっと電話の相手を説得して大声の長電話がすむと、また携帯を手に今度はさすがに声を落として話し始めました。「うちのお隣のムッシュウも困っていて、今電話で話したんですけど、、私は500ユーロまでなら払えますから、ワンルームで良いのでなんとか見つからないでしょうか?」フランスも住まいを借りる時には通常2ヶ月分の敷金を払わないといけないし、何年にも渡る給与証明や保証人を求められたりと賃貸契約にこぎつけるにはかなりの労力と資金が求められます。なので、いったん住まいを追い出されると次を見つけるのは至難の業。誰かの支援か補助がないとまず難しいのが実情です。
 「それにしても、個人的な深刻な話を、なんでバスの中であんな大声で電話してたのかしら?」といぶかう私に、同行の友達は「子供を抱えて自分が住まい退去の瀬戸際にいるということを皆にわかってほしかったんじゃないかな?」なるほどね。このひと言で、自分なら恥ずかしいからこういう話を公共の場所で電話するなんて考えられないと思った私は、とても日本的だったんだと思い知りました。
 普段は皆バラバラ、自分勝手に行動している人間の多い国という印象のフランスですが、困窮している人を前に団結する姿勢にはいつも関心させられます。30を越す支援団体が、借家人退去を止めさせようと全国で運動していることは毎日報道されているので、バスの中の女性も自分の問題を知らない乗客たちと分かち合いたかったのですね。あれからちょうど2週間、くだんの女性が無事に子供たちと新しい住まいに落ち着いていると良いのですが。。
  *写真だけは明るくマントンレモン祭。
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by cheznono | 2009-03-23 01:42 | 不思議の国フランス