グラン・トリノ

b0041912_265439.jpg 見終わった後、静かな感動がじわじわと湧いて来た「グラン・トリノ」、面白さでは「チェンジリング」の方が勝っているように感じましたが、完成度が高いとはこういう作品のことを指すようですね。日本でもフランスでもこれだけ評価の高い映画は滅多にないでしょう。
 妻を亡くしたばかりのウォルト・コワルスキー(クリント・イーストウッド)は、頑固で気難しい典型的な偏屈老人。息子夫婦の心配をものともせず、牧師の助言にも耳をかさず、愛犬と独居を続けています。隣に住むアジア系移民の家族の存在も、人種差別主義者のウォルトには目障りなだけ。かつてフォードの城下町として栄えた一帯も今はすたれてしまい、アジア系の移民が増えているのが気に入りません。
 若い時、朝鮮戦争に出征し、復員後はフォードの工員として勤め上げたウォルトが何より大事にしているヴィンテージカー、グラン・トリノがある夜、隣のアジア系の少年タオに盗まれそうになり、それがきっかけで不本意ながら隣の一家との奇妙な交流が始まります。
 タオの一家は少数民族モン族の出身で、ベトナム戦争のおりに迫害を逃れてアメリカに亡命して来た後、タオと姉のスーが生まれたのですが、今は英語の話せない母と祖母との4人暮らしです。
 アメリカ的物質主義に染まっている自分の息子や孫に対して、家族の絆が濃厚で、気立てが優しく、異国においても伝統を守り続けるモン族の一家とかかわることで、ウォルトの差別的な気持ちが消え、真面目でシャイなタオと利発なスーの姉弟と親しくなって行きます。
 それまでの偏屈な態度が嘘のように、タオとスーの父親代わりのような気遣いを見せるウォルト。彼のお陰で仕事を覚えたタオは生き生きとして来たし、気が強く物怖じしない姉のスーもウォルトに信頼を寄せています。しかし、姉弟の従兄はアジア移民たちの不良グループの一員で、タオを自分たちのグループに巻き込むべく、あれこれ嫌がらせをしかけてくるのでした。

 他人はもちろん、息子一家とも壁を作っていたウォルトが、見下していた移民であるモン族の一家の人柄にほだされて心を許し、若い姉弟を見守る父性愛のような感情を示し始める辺りが丁寧に描かれています。アジア移民によるウォルトの劇的な変化は、同じアジア人としてとても微笑ましく見ました。
 けれど、ここでも移民系の女の子は向上心を持って大学に進み、男子は不良になりがちというフランスの移民社会と似たような現象が語られます。しかも、不良グループがなぜか同じ移民仲間に対して悪さを働くという図式まで似ているところがやるせないです。
 戦争体験を引きずるウォルトの心境や一人で果敢に周囲の女性蔑視的の男性陣とやり合うスーの向こう気の強さ、ウォルトと出会ったことで成長して行くニートのタオの姿など、さりげない毎日の暮らしの中で、それぞれの個性を際立たせた描き方はさすがの手腕。
 イーストウッドの作品はいつもアメリカ社会の抱える問題や矛盾を冷徹に見つめている点に関心させられますが、米国を代表する産業だった自動車会社が危急存亡の今、フォードの自動車工だった主人公の老後は、アメリカの自動車産業に従事して来た人々にとって、特に感慨深いものがあるかも知れません。
  多民族との共存が進む世界で、その長所と奥深い問題とを同時に考えさせられる一作でもありました。
[PR]
by cheznono | 2009-05-07 02:07 | 映画