夏時間の庭

b0041912_17173964.jpg フランス人よりもアメリカやイギリスの友達から「もう観た?とても良かったよ」というメールをもらった「夏時間の庭」、庭の新緑の香りがスクリーンの向こうから漂って来るような、心温まる作品でした。
 イル・ド・フランスの小さな町に住む母親の誕生会に集まった三人の子供と孫たち。久しぶりに集合した家族を前に、75歳を迎えた母エレーヌ(エディット・スコブ)は、著名な画家だった叔父ポールの画集に目を輝かします。叔父ポールの旧アトリエに暮らすエレーヌは、叔父が遺した作品や収集品の世話を生き甲斐にしていたるのでした。
 エレーヌは、パリに住む長男フレデリック(シャルル・ベルリング)に自分亡き後の家の処分と美術品の寄贈を頼みますが、将来も家族の家として守って行くつもりのフレデリックは耳を貸そうとしません。
 帰途に付くみんなを見送った後、「私が死ねば、家族の秘密も何もかも消えて行くの」とつぶやくエレーヌ。「子供たちの重荷にしたくはないわ。彼らにはそれぞれの人生があって、私の人生ではないのだから」という通り、長女のアドリアンヌ(ジュリエット・ビノシュ)はアメリカでデザイナーとして活躍中、末っ子のジェレミー(ジェレミー・レニエ)は中国勤務で、二人とも今やフランスで過ごす時間はごくわずかです。
 ポールの回顧展が無事済んだのを見届けたエレーヌが急逝し、子供たちは思いのほか早く、家と美術品の相続に直面します。唯一フランス在住のフレデリックは、愛着のある母親の住まいを守って行くつもりですが、海外に住むアドリアンヌとジェレミーは兄の思いを気遣いながらも家の処分を提案するのでした。
 
 そうした中で、母エレーヌが抱えたままだった《秘密》もあっさりと露呈し、子供たち三人は複雑な感情に包まれますが、それも全て過去のこと。
 母の死と共に家族の思い出の家が人手に渡り、自分たちの人生の大きな一部分が幕を閉じたのを、長男はとても感傷的に、でも妹と弟は新しい生活のスタートの追い風のように受け止めているのも興味深いし、そうした子供たちの反応を全て見越していたエレーヌには感服するばかりです。
 おのおの社会的に成功し、それぞれパートーナーと幸せな生活を築いていて、付かず離れずの三人が互いを思いやる様子はとても微笑ましく、観ている者を温かい気持ちにさせてくれます。
 母が言い残した通り、オルセー美術館への寄贈が決まった大叔父の収集品は、アールヌーヴォーで知られるナンシー派の家具や調度品が中心で、緑豊かな庭のある一軒家の生活用品として溶け込んでいたのに、いざ美術館で一つ一つオブジェとして展示されるとまるで別の品のよう。家具として、調度品として実用的に活用されるのと、美術館に鎮座して世界中の人々に見つめられるのと、果たして作品としてはどちらが幸福なのでしょう?
 監督は「パリ・ジュテーム」のオリビエ・アサイヤス。19世紀のアーティストたちへのオマージュをこめて、フランスの魅力を美しく映像化した手腕はたいしたものですね。芸術家や貴族の多いフランスで、こうした美術品を抱えている大きな家はまだたくさんあって、それぞれが歴史や物語を持っていると思うと、何だかわくわくしてしまいます。
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by cheznono | 2009-06-12 17:21 | 映画