セントアンナの奇跡

b0041912_1345361.jpg これはとても衝撃的な映画でした。見終わった後もはっきりと現実に戻るまでかなり長い時間を要したほど。でも観て本当に良かったと思います。スパイク・リー監督の大作「セントアンナの奇跡」は、強い反戦映画であると同時に言葉の違いを超えた人間ドラマであり、更に反人種差別やミステリーなどさまざまな要素を実にうまく料理した作品で、2時間43分を長く感じることはありませんでした。
 
  1984年のニューヨークで、定年間際の郵便局員が窓口に切手を買いに来た男を問答無用で射殺。凶器に使われたドイツ製の古いピストル、犯人の部屋から出て来た国宝級のイタリアの彫像の頭。真面目な黒人の局員がなぜ突然発砲したか?黙秘を続ける男の記憶は40年前の戦場に遡ります。
 1944年のトスカーナ、既に連合国軍に降伏していたイタリアの各地を占領しているドイツ軍を追い払うべく進軍したアメリカ軍の黒人部隊が、白人指揮官の差別的な戦略の犠牲になり、生き残った4人の黒人兵士が命からがら山あいの鷲ノ巣村に逃げ込みます。途中で助けた8歳のイタリア少年アンジェロの身の安全を優先した結果でした。
 4人の兵士たちは黒人への偏見がない村人たちの間で居心地の良さを感じますが、やがてパルチザンたちがドイツ人の脱走兵を捕虜にして、村へ戻って来ます。ドイツ人捕虜はアンジェロを見て、なぜか泣いて喜びますが、アンジェロは緊張を隠せません。「ヤツが怖いのか?」黒人兵がアンジェロに尋ねると、首を振って、「本当に怖いのはあの人」と別の誰かを指差すアンジェロ。
かくて、ドイツ軍に半ば包囲されている村で、パルチザンとファシストの入り交じった村人たちに、アメリカ兵4人と少年アンジェロ、そしてドイツ人捕虜いう奇妙な共同生活が始まるのですが、それはあっという間に終わりを告げてしまうのでした。

 スパイク・リー監督は前半、黒人部隊とナチスドイツ軍の激戦に長い時間をかけて、当時のアメリカで黒人兵の置かれた立場を描き、彼らが直面していた救いようのない差別が浮き彫りにされます。その後、偏見のないイタリア人たちとの触れ合いと対比して、オバマ大統領の登場した現在もまだ色濃く残る人種差別の無意味さを描く手法はさすがと思いました。
 何よりショックだったのは、ドイツ兵がイタリアの民間人を容赦なく殺してしまうことでしたが、当時、パルチザンによるナチス攻撃に手を焼いたドイツ軍は、報復処置として多くの民間人を殺害していたのですね。
 そんな戦況でもナチスの戦略に疑問を感じ、良心を失わないドイツ兵がいたし、過酷な状況の中でも言葉の通じない少年を命をかけて守る人々がいたということがやがて奇跡に通じるところに、この作品の暖かさが強くにじんでいます。それにしてもなんと史実の惨いこと。この映画を観なかったら、一生知らないままでいたかも知れない事実には戦慄を覚えます。
[PR]
by cheznono | 2009-08-19 01:36 | 映画