すべて彼女のために

b0041912_0255160.jpg  この所、出演する映画が次々に高く評価されているヴァンサン・ランドン主演の「すべて彼女のために」。「ジョボーダンの獣」辺りからフランスシネマ界で流行っているフランス映画の精神とハリウッド的エンターテイメントをブレンドした作品の中でもこれは出色の出来なので、帰国したらこの映画が公開されていたのがとても嬉しかったです。

 高校教師の夫ジュリアン(ヴァンサン・ランドン)と幼い息子と幸せな家庭を築いていたリザ(ダイアン・クルーガー)がある日突然、逮捕されます。勤務先で彼女が上司と口論した日、職場の地下駐車場で上司が殺害され、たまたま居合わせたリザが犯人だと疑われたのでした。
 愛する妻の無実を信じるジュリアンは、男手ひとつで子供を育てながら、リザの釈放に尽力しますが、状況証拠からリザの有罪が確定。弁護士の努力もむなしく20年の禁固刑が言い渡されます。もともと持病を持っているリザは、絶望から精神不安定となり、ついに刑務所内で自殺未遂を図るほどに。
 リザが生きる希望をなくしてしまったことに動揺したジュリアンは、「脱獄人生」という自叙伝を執筆した脱獄の達人(オリヴィエ・マーシャル)に接触、脱獄の極意を伝授してもらいます。
 脱獄王のアドヴァイスに従い、偽造パスポートを用意して、命がけで多額の費用を手に入れるジュリアン。しかし、いくら脱獄が絶えないフランスとはいえ、実際の脱獄はたいていグループによる組織的な支援の賜物です。果たしてジュリアン単身で、最新構造の刑務所からリザを脱獄させ、無事に逃走することができるのでしょうか?

  後半は少し荒っぽい手口が続くものの、覚悟を決めたジュリアンが、目的達成のために裏社会と取引し、とりつかれたように表情が険しくなってゆく様子を演じるヴァンサン・ランドンは、さすがという感じ。サスペンスとしても一級の面白さだと思います。
 長編映画デビュー作とは思えないフレッド・カヴァイエ監督の手腕にはただただ感嘆するのみ。リザとジュリアンが熱々カップルだったこと、リザがなぜ逮捕されたか、実際にはどういう事件だったのか、などの大事なプロットをわずかなカットを挿入するだけで明確にしてゆく手法が実にうまいです。
 
 この映画を観て、最愛の家族が思いもかけない冤罪で投獄された時、いったい自分にどういう行動ができるか?を真剣に自問したフランス人も多かったとか。
 ただ、すべて彼女のために、という邦題の「すべて」には、ちと引っかかるものが。確かに原題は「Pour elle :彼女のために」だけど、中盤でジュリアンが呟くように《自分にも息子にもリザが必要》だから、また家族三人一緒になりたいがために全身全霊をつぎ込んで一世一代の賭けに出るわけで、それを「すべて彼女のために」とすると、必要以上に甘いニュアンスが加わって、全編に漂うキリッとしたリズムや緊張感が少しそがれるように感じられるのです。
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by cheznono | 2010-03-25 00:33 | 映画