フェアウェル さらば哀しみのスパイ

b0041912_1301093.jpg あの名作「戦場のアリア」のクリスチャン・カリオン監督による東西冷戦時代の実話フェアウェル事件の映画化。今回も私の好きなギョーム・カネ出演と聞いて、もっと早く観たかったのに、あまりの暑さに気がくじけ、先週ようやく観て来ました。
 ペレストロイカに至る過程で、ソ連を揺るがしたスパイ事件があったとは、さすが今尚、体制に不都合なジャーナリストがロンドンの日本食レストランで毒を盛られたり、イギリス人ビジネスマンと結婚したロシア人美人妻が、実は国際スパイだったというようなお国柄だけあるけれど、暗澹とさせられる結末でした。
 でも、こうした事実を知って良かった。日本のような国に生まれて良かったと思いました。

 1981年、ブレジネフ政権下のモスクワ、フランスから派遣された民間人技師ピエール(ギョーム・カネ)は、上司からの依頼で、KGB幹部のグリゴリエフ大佐(エミール・クストリッツァ)が西側に流す機密情報を仲介するはめになります。大佐のコードネームはフェアウェル。
 万が一バレたら、自分はおろか愛する妻子をも危険にさらすことになる任務に巻き込まれたピエールは、上司に抗議して役目を降りようとしますが、次第にグリゴリエフ大佐に不思議な友情を感じ、彼が流す国家秘密をフランスに持ち込みます。
 時の大統領ミッテランは、その情報を持ってアメリカのレーガン大統領と対応を協議。西側はグリゴリエフ大佐に亡命を提案したり、情報漏洩への報酬額を交渉しようとしますが、どちらも大佐は拒否します。
 命がけで見返りを求めずに極秘情報を西側に流すグリゴリエフの真意がつかめぬピエールでしたが、「ソ連の体制を変えなくてはいけない、自分には間に合わなくても息子の時代には違う未来のある国にしなければ」と大佐に打ち明けられ、二児の父として共感を覚えます。
 折しも、ゴルバチョフがソ連にはペレストロイカ:改革が必要だと主張し始めます。 
 しかし、KGB当局の手がグリゴリエフ大佐とピエールに迫っていました。

 当時のモスクワでは、フランス人居住区の住人の日常生活も厳重にチェックされ、外出・帰宅時間、交際範囲なども把握されていて、寝室には隠しマイクが仕込まれていたというのが驚きです。
 グリゴリエフ大佐の私生活の問題も織り込みながら、機密情報を渡すためにピエールと会うシーンを丁寧に積み重ねて行きますが、後半はいっきに緊張が高まり、そして、あっという裏事情も明らかに。
 図らずも素人スパイになってしまったピエールの戸惑いと祖国を憂い息子を思うグリゴリエフの苦悩が、淡々と進むドラマの中で浮き彫りになって行く過程を、ギョーム・カネとエミール・クストリッツァが熱演しています。特にクストリッツァ監督が素晴らしい。この方、俳優として観るのは初めてですが、すごい存在感ですね。
 冒頭の雪原に出て来る狼が、中盤から大きな意味を持って来るのも印象深かったです。後半にグリゴリエフが暗唱する《狼の詩》には目頭が熱くなりました。 
  ゴルバチョフ書記長がペレストロイカを進めるのは、この事件から4年後。この映画のフェアウェル事件は、その後の鉄のカーテン崩壊に大きく貢献したと言われています。
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by cheznono | 2010-09-07 01:37 | 映画