あしたのパスタはアルデンテ

b0041912_2325694.jpg 今週の1本は南イタリアの麗しい町とラテン的ブルジョワ一家の暮らしぶりが楽しめる「あしたのパスタはアルデンテ」。図らずもダブルカミングアウトする兄弟とその家族の話で、兄弟たちの祖母をキーパーソンに、周囲の期待に背いても自分の望む人生を歩むべきというメッセージを発信する佳作です。

 イタリアのかかとの部分にあたるバロック様式の町レッチェ。祖母の代からパスタ会社を営むカントーネ家で、長男アントニオ(アレッサンドロ・プレツィオージ)の社長就任を祝う身内の晩餐会が開かれます。
 ローマでボーイフレンドと暮らす末っ子の文学青年トンマーゾ(リカルド・スカマルチョ)も実家に帰省。旧弊な父親から勘当されるのを覚悟でカミングアウトする決心を固めています。 
 ところがトンマーゾの決意を知った兄アントニオが、家族の前で先にカミングアウトしたために、寝耳に水の一同は唖然呆然。怒りに任せて即座にアントニオに勘当を言い渡した父親は、ショックのあまり心臓発作で病院行きに。
 自慢の跡継ぎ息子だった長男を勘当、長女の夫は気に喰わないナポリ男とあって、父親の期待はいっきにトンマーゾへ向かいます。兄に出し抜かれた形のトンマーゾは、カミングアウトはおろか恋人の待つローマに戻ることもできず、共同経営者の娘で勝ち気なアルバ(ニコール・グリマウド)と共に、パスタ工場の経営を押し付けられる羽目に。
 作家になる夢とローマの恋人を思いながら、仕方なく会社経営の修行をするトンマーゾと、同性愛者と知りながら彼に惹かれるアルバが微妙な関係になった頃、突然ローマから恋人マルコとゲイ仲間が尋ねて来たからびっくり、何も知らない両親の手前、トンマーゾは窮地に立つことに。。

 あらすじと変な邦題を見る限り、ラテン的どんちゃんコメディかのようですが、そこは自身もホモセクシャルであるベテラン、フェルザン・オズペテク監督の作品、イタリアといえども南部の地方都市でのゲイの住み難さや偏見との葛藤、疎外感や苦悩、家族との調和の難しさをユーモアにくるみながら上手に描いています。

 家業を継ぐのが当然のこととして期待され、同性愛を押し隠して来たアントニオが、ローマの大学に進学して自由を謳歌していた弟をうらやんでいたこと、男好きの叔母の若い頃の駆落ち話などワンシーンで語られるエピソードや、とりわけ祖母の秘められた恋が美しい映像と共に織り込まれて、この映画を重層的にしているのが魅力的です。
 自分の時代にはかなわなかったけれど、たとえ肉親であろうとも他人の望む人生を選ぶことはないと孫を励ますおばあちゃんは、嫁ぐ前から愛していた夫の弟と天国で添い遂げるつもりなのかも。

 北イタリアでは山あいの小村でもホモセクシャルを表す虹色の旗が窓に翻っているのをよく見かけるので、南イタリアではここまで世間体を気にするのかと意外でした。
 もっとも、大都市ではゲイカップルが1割近いと言われるフランスでも、地方出身のゲイの男性が、「地元では差別が強くて暮らし辛かったけれど、パリのマレ地区に行って初めて解放された気持ちになった」などと語る様子が5月17日の同性愛差別反対の日に放送されていたので。まだどこかカトリックの呪縛が根強いのか、そもそも少数派を差別したくなるのが人間の悲しい性なのか。
 でも、映画のラストには、古い価値観から抜け出して多様性に寛容となる兆しが見られ、カントーネ一家も私たちも、明るい希望に包まれます。
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by cheznono | 2011-09-11 23:16 | 映画