灼熱の魂

b0041912_044359.jpg 新年明けましておめでとうございます。2012年が穏やかな良い一年となることを心から祈っております。

 2011年の観納めは、ケベックとフランス合作映画「灼熱の魂」。ニースの大のシネマ好きの友達が、「これまで観てきた中で、一番とも云える映画」と絶賛していた作品なので、気合を入れて観に行きました。
 原題は「炎上」。ひりひりするような激情の意味もあるこのタイトル、冒頭でなくラストに作品タイトルが現れる映画を観たのは初めてかも知れません。

 2010年カナダ。双子の姉弟ジャンヌとシモンの母親ナワル・マルワン(ルブナ・アザバル)が、急逝に近い形で世を去ります。中東出身のナワルは、双子に奇妙な遺言と2通の手紙を遺していました。
 手紙は、内戦で死んだと聞かされていた父親と、存在さえも知らなかった兄宛て。二人を探し出して手紙を届けるようにという母親の遺志を尊重するジャンヌは、若き日の母ナワルの過去をたどるべく中東へと旅立ちます。

 1970年、中東の田舎。キリスト教徒のナワルは、異教徒の青年と恋に落ち、密かに赤ん坊を産み落とします。しかし、青年はナワルの家族に殺され、赤ん坊は孤児院に。村の面汚しだと糾弾されたナワルは、都会に逃れて大学に進学。仏語を習得します。
 やがて、キリスト教vsイスラム教の対立激化から内戦が勃発。大学も封鎖されたため、今こそ愛児を取り戻すチャンスと思い込んだナワルは、軍の包囲網をくぐって、ひたすら山あいの孤児院を目指します。
 けれど、やっとの思いでたどり着いた孤児院は、キリスト教徒によって焼き払われた後でした。子供たちはどこへ?

 孤児たちが連れ去られたという難民キャンプに向かうため、イスラム教徒に紛れて長距離バスに乗ったナワルですが、バスはキリスト教徒たちに襲われて炎上、ナワルも危うく焼き殺されそうになります。
 この強烈な体験が平和主義のナワルを大きく転向させ、クリスチャンだったはずがイスラム勢力に手を貸すことに。しかし、彼女のこの決断はとてつもない代償と犠牲を伴うものでした。

 20代の双子の姉弟が、想像もしなかった母親の若き日を、わずかな手がかりを頼りに少しずつたぐり寄せて行きます。
 まるで十字軍を思わせるような宗教対立の根深さと女性蔑視の中、はがねのような強い意思で運命に立ち向かった母親の壮絶な過去をたどる双子の気持ちの揺れが、観ている者にも痛いように感じられました。

 国内事情や歴史的背景などの説明を極力排除しているため、ややわかりにくい部分があるのは否めませんが、宗教対立による激しい憎しみの連鎖による悲劇を経験したナワルが、恩讐を越えて綴った最後の手紙には衝撃と感動が凝縮されています。
 ラストに現れる映画タイトルが、ずしりとそれはそれは重く迫って来る作品です。

 監督はドゥニ・ビルヌーブ、原作はレバノン系カナダ人の劇作家による舞台戯曲だそうで、ギリシャ悲劇を彷彿とさせるショッキングなプロットも舞台劇ならまた少し違った印象を受けるのかも。とはいえ,この作品がもたらすメッセージはいささかも変わらないでしょうが。 
 公式サイト:http://shakunetsu-movie.com/
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by cheznono | 2012-01-02 01:04 | 映画