あの日 あの時 愛の記憶
2012年 09月 06日1976年のニューヨーク。研究者として成功した夫(デヴィット・ラッシュ)の大事なホームパーティの日、ハンナ(ダグマー・マンツェル)はBBCのインタビュー番組を偶然観かけて、愕然とします。
テレビで強制収容所時代の恋と脱走の経験を語っていた人こそ、ハンナをアウシュビッツから救い出してくれたかつての恋人トマシュ(マテウス・ダミエッキ)でした。
今は優しい夫と娘とブルックリンで何不自由ない暮らしを送るハンナですが、20代の初めにユダヤ系ドイツ人のためアウシュビッツへ収容され、過酷な強制労働に耐えた過去が。
ハンナ(アリス・ドワイヤー)が奇跡的に脱走できたのは、政治犯として収容所で働いていたトマシュのお陰でした。一時はトマシュの家族にかくまわれるハンナですが、レジスタンス運動のパルチザンとして任務に戻ったトマシュとは離れ離れに。
トマシュの母親(スザンヌ・ロタール)に息子に災いをもたらす存在として忌み嫌われたハンナは、身重の身ながら一人で厳寒のポーランドを彷徨い始めるのでした。
映画は30数年前に亡くなった筈の命の恩人で恋人だったトマシュが生きていると知り、動揺と混乱の中、ホームパーティを打っちゃってトマシュの連絡先を捜し始めるハンナを焦点に、過去の壮絶な体験が挿入される形で進行します。
ハンナを心配する夫と娘を拒絶し、トマシュとの遠い記憶をたどりながら、ひたすら彼の連絡先を問い合せるハンナがじっくりと描かれますが、印象深いのはむしろ強制収容所という極限状態の中でハンナを見初め、大いなる危険を冒して関係を持ち、ひいては命がけで彼女を守る政治犯トマシュの若い情熱と機知に富んだ脱走作戦の方でした。
トマシュと共にレジスタンス活動に投じた兄夫婦に起こったことに象徴されるように、ソ連に侵攻され、ナチスドイツに占領された当時のポーランドの厳しい状況を踏まえると、ポーランド語を話せないハンナが一人生き延びて、米国に渡ったのはまさに奇跡としかいえません。
しかし、何度も強調されるハンナが身籠ったトマシュの赤ちゃんはどうなったのでしょう?推して知るべし、という演出なのでしょうが、トマシュの母親や義姉がハンナの妊娠に気づかなかったとは思えないし、30数年後にハンナからその事実を打ち明けられるトマシュの気持ちにも触れられないのはちょっと不思議です。
とはいえ、壮絶なストーリーと長い時の流れを、わずか2時間弱に収めたパメラ・カッツの脚本はたいしたもの。うら若き娘時代に悲劇的な運命を背負わされたハンナが、トマシュと夫という二人の卓越した男性の深い愛情に恵まれたことは、観客にも強い希望をもたらしてくれるように感じました。
監督はアンナ・ジャスティス、公式サイトは http://ainokioku.jp/