クロワッサンで朝食を

b0041912_117279.jpg 意外にロングランした「クロワッサンで朝食を」。ついに終わってしまいそうなので、慌ててのレビューです。夢見る前向きコメディ「タイピスト!」は楽しい映画だけど、「クロワッサンで、、」は地味ながら心に残る佳作。パリのお一人さま異邦人には身に滲みる作品かも知れません。
 驚いたのは観客の年齢層。深刻な老老介護を扱った「アムール」なんて目じゃないくらいシニア世代が多かったのは、やはりジャンヌ・モローの圧倒的な威力のお陰でしょうか?

 雪景色のエストニアで、長い間介護して来た認知症の母親を見送ったばかりのアンヌ(ライネ・マギ)。既に子供達も自立しているため、雪に閉ざされた田舎町で一人、喪失感を抱えて途方に暮れていると、かつての職場の上司からパリに暮らす老婦人のヘルパーという仕事を紹介されます。
 若い頃、フランス語の勉強をしたアンヌですが、まだパリに行ったことがありません。
 心機一転、パリに渡ったアンヌを待っていたのは、16区のしゃれたアパルトマンに暮らす同郷の老婦人フリーダ(ジャンヌ・モロー)でした。エストニア出身という過去には触れたがらないフリーダは、まるで伯爵夫人のような態度でアンヌの一挙一動にケチをつけます。
 それでも、アンヌの雇い主ステファン(パトリック・ピノー)の説得で二人は徐々に歩み寄り、立場は違ってもアンヌはフリーダの孤独や老い行く焦燥感を理解できるようになるのですが。。

 故郷エストニアを愛し、エストニア人の誇りを大切にしているアンヌと、退路を断ってフランスに同化し、生粋のパリジェンヌ以上にフランス人らしく振る舞うフリーダ。二人とも憧れのパリで暮らしてはいるものの、結局はここが自分の究極の居場所かどうかわからない。

 30年近く前、今は亡き夫の経営していた店に雇われた移民の青年ステファンを愛人にして、カフェのオーナーとして独立させたフリーダ。母子ほど年の開いたステファンとの関係はとうに終わったものの、ステファンは施設に行きたがらないフリーダの面倒を見ていて、フリーダにとっては彼の存在が唯一の歓びです。
 しかし、ステファンは大恩あるとはいえ自己中心的なフリーダに振り回されることに食傷気味。それを見て取ったアンヌが、まだつたないフランス語で鋭い言葉を発します。「フリーダが亡くなるのを待ってるのでしょう?いいのよ、私も母が死ぬのを待ってたんだから」

 辛辣な言葉を放ってステファンやアンヌの反応を楽しみながら、自分の存在の影響力を計ろうとするフリーダには、50を過ぎたとはいえ、まだ人生半ば真っ只中の二人を羨む気持ちが見え隠れして、痛ましいような。その辺りのフリーダの複雑な感情もジャンヌ・モローにかかるとすごいリアリティで伝わって来ます。

 終盤、例えステファンがアンヌと関係を持ったとしても、やはりアンヌを受け入れ、このまま自分のそばにいてほしい、という覚悟の見えるフリーダに、紆余曲折を乗り越えて来た老マダムの貫禄を見て、思わずにんまりしてしまいました。
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by cheznono | 2013-09-13 01:20 | 映画