黒いスーツを着た男

b0041912_23124942.jpg  全く別の世界に住む3人の男女の人生が深夜の交通事故をきっかけに複雑に交錯して行く、という構成を心理サスペンス風に描いたカトリーヌ・コンシニ監督の新作「黒いスーツを着た男」。
 この映画を《本格クライム・サスペンス!》と呼ぶにはかなり無理があると思いますが、人間の弱さとフランスの社会問題を絡めて心理劇風にアレンジした手法は興味深く、最後まで画面に引きつけられました。

 勤務先の自動車ディーラー会社社長令嬢と結婚式を控えたアラン(ラファエル・ペルソナ)は、独身を葬るバチェラーパーティでしこたま酔った帰り、深夜のパリで人身事故を起こします。
 しかし、親友でもある同僚二人に促され、そのまま車で逃走。それをたまたま、医学生のジュリエット(クロチルド・エム)が目撃していました。

 翌日、はねられた歩行者が気になったジュリエットが病院を見舞うと、生死をさまよう被害者の妻ヴェラ(アルタ・ドブロシ)が途方に暮れていて、ジュリエットは同情を禁じ得ません。何せ、被害者夫妻はモルドヴァからの不法移民で、滞在許可証を持ってないのです。
 ちなみにモルドヴァは、ルーマニアとウクライナに挟まれた小さい国で、旧ソ連の一つ。ルーマニアを凌ぐ貧しい国と言われます。

 同僚二人に証拠隠滅をして貰ったものの良心の呵責に苛まれたアル(アラン)は、匿名で被害者の病院を突き止めます。病室に忍び込み、昏睡状態の被害者に「絶対死ぬなよ。生きてくれよ!」と囁くアル。
 病院でアルを見かけたジュリエットは、彼こそひき逃げ犯と確信しますが、後悔のあまりか人目も気にせず嗚咽するアルを見て、通報を躊躇ってしまいます。
 ジュリエットは直接アルに接近し、ヴェラの経済的窮状を訴えるのですが。。

 この映画を好きになれるかどうかは、事故の目撃者ジュリエットの行動を理解できるか否かによるかも知れません。
「被害者も加害者も救おうなんて、一種の思い上がり、正気の沙汰ではない」という恋人やルームメイトの反応にひるみながらも深みにはまって行くジュリエット。彼女の行動を観客に納得させるには、アル役に相当のイケメンを持って来ないと、ということで選ばれたのがアラン・ドロン似と言われるラファエル・ペルソナで、確かにはまり役と言えるかも。
 貧しい母子家庭で育ち、修理工から営業トップに出世し、社長の不正取引にも手を貸して、ついに手にした後継者候補の椅子。それを裏付ける令嬢との婚礼も目の前なのに。。何とか事故から逃げ切りたい反面、拭いようのない後ろめたさに自滅の一歩手前まで追いつめられるという難役アルを体当たりで演じています。

 一方、被害者夫妻は、不法就労がばれると故国へ強制送還されるリスクがあるため、警察を頼ることもできません。重傷の夫が亡くなると、何とかその死をお金に換えようとするヴェラ。
 不法労働者は給料から社会保障費を天引きされても、その恩恵にあずかることが難しい現実。この上、夫の臓器を無償で提供させようなんて、フランスは冷たい、何もしてくれないと憤るヴェラに、フランス人の目は冷ややかです。
 不満があるならどうぞ祖国にお帰りを、故郷の生活よりマシだからパリにしがみつくのでしょう?という本音が見え隠れするフランス側。欧州危機の只中で、より顕在化している社会のひずみが弱い立場を直撃するわけですが、ヴェラも夫を無駄死にさせるわけには行きません。

 心打れたのはパリのモルドヴァ人社会の連帯感。つましい暮らしの中、互いに助け合いながら、異国での理不尽な出来事に今できる精一杯の対応をしようとする仲間の存在は、ヴェラのこれからに希望を感じさせてくれます。

 事故の加害者、目撃者、被害者の三人が三様に泥沼にはまる経過には好き嫌いが分かれそうですが、独特の魅力を放つ作品です。 
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by cheznono | 2013-09-18 23:14 | 映画