もうひとりの息子

b0041912_0594842.jpg 重く難しいテーマを可能な限り明るく理想的に料理した感じの映画「もう一人の息子」。根の深い民族対立とアイデンティティーの問題を扱いながら、これだけ希望的な展開に持って行ったロレーヌ・レヴィ監督の手腕はたいしたものです。例え現実は遥かに厳しいものであったとしても。

 テルアビブで幸せな毎日を送っていたフランス系イスラエル人一家。しかし、父(パスカル・エルベ)は国防軍大佐、母(エマニュエル・ドゥヴォス)は医師という恵まれた家庭で育った18歳のヨセフ(ジュール・シトリック)が、兵役検査の結果、両親の子ではあり得ないと判明したことで、一家は多いに揺さぶられます。
 ヨセフの出生時、病院は湾岸戦争の爆撃で混乱していたため、別の赤ちゃんと取り違えられてしまい、しかも相手はイスラエル占領下の自治区に暮らすパレスチナ人一家でした。
 ユダヤ教徒として宗教を強く意識しながら成長したヨセフは、分断された向こう側に暮らすパレスチナ人の子供だったと知って、これまで信じて来たものが全てひっくり返るという衝撃に苦しみます。

 相手のパレスチナ一家も実の息子が自分たちの土地を奪い差別的な生活を強いている敵側でイスラエル人として育てられたことに大きなショックを受け、途方に暮れます。医学部を目指してパリにバカロレア留学させた自慢の次男ヤシン(マハディ・ザハビ)がユダヤ人の子だったとは。

 とても容易には現実を受け入れられない父親同士に対して、母親たちは歩み寄りも早く、互いの息子の写真を見ただけで愛情が自然に湧いて来るほど。さすが生みの親です。

 休暇で戻って来たヤシンは、人種の坩堝のパリの高校で教育を受けただけあって、ヨセフのようなアイデンティティーの喪失の危機を迎えることなく、むしろこの機会を利用して育ての両親に少しでも報いようとする余裕を見せます。このヤシンの明るさや積極性が事の重大さを和らげますが、反対にヤシンの兄は強烈な拒絶反応を示し、阻害された民族の抱えた苦悩と恨みの深さが否が応でも浮き彫りに。。

 葛藤を経てヨセフとヤシンの間に芽生える友情や両家の交流は、まるで家族が2倍に増えたごとく。それぞれが民族間の憎悪を超えて行く人間ドラマは爽やかな余韻を残してくれます。

 それにしても、神から与えられた土地と信じるイスラエル人側の街の繁栄と、対照的な先住のパレスチナ人自治区の暮らしぶりの格差が印象的でした。しかも、パレスチナ人がテルアビブに入るには入手困難な通行証が必要なのに、イスラエル人が分断壁を超えるのは簡単です。
 一方で、パレスチナ自治区の住人たちが強い連帯で結ばれ、自分たちのルーツや文化を大切に継承している姿には感動を覚えました。

 楽観的過ぎるという批判もあったというこの映画ですが、ロレーヌ・レヴィ監督はフランスの人気作家マルク・レヴィ原作の映画「Mes amis mes amours(我が友、我が愛)」(邦訳は「僕のともだち、あるいは、ともだちの僕」)の脚本と監督だったのですね。独創的な家族の物語を明るいタッチで、という点では共通性があるかも知れません。

もうひとりの息子:公式サイト:http://www.moviola.jp/son/
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by cheznono | 2013-11-13 01:02 | 映画