ヴェラ・ドレイク

b0041912_1451920.jpg 1950年、ロンドンの下町でつましい生活ながら暖かい家庭を育み、いつも微笑みを絶やさずに家族を愛しみ、周囲のあらゆる人に暖かい手を差し伸べる女性ヴェラ・ドレイク。実は彼女は信頼している心優しい夫にも内緒で、望まない妊娠で困っている女性のため密かに中絶の手助けをしていました。もう何十年も続けて来た「困っている女性達を助ける行為」、でもある日、ヴェラの処置後に重病に陥ってしまった女性が運ばれた病院から警察に通報があり、娘の婚約を祝う最中の幸せなドレイク家に令状を持った警官達がやって来ます。
 まず、カトリックではないイギリスが妊娠中絶を合法化したのは、フランス同様に70年代だったということを知ってとても驚きました。米国も保守的な州では未だに違法ですが、英国はカトリックの濃厚な国アイルランドの女性達が隠密に中絶手術を受けるため密かに渡って来る国という歴史が有名なのに、そのイギリスでも中絶が70年代まで非合法だったとは。。
ヴェラが女性達に使う石鹸水と粗末な器具にも胸が詰まるようでした。30年余り前まで、こんなに単純な民間療法で堕胎をせざるを得なかった庶民達に対し、中産階級の令嬢は、望まない妊娠で死ぬほど悩んでも、結局はお金の力で専門の医師が手術を行っていたという対比も衝撃的です。
 マイク・リー監督は今回も台本を使わずに俳優達のアドリブで作品創りをしたようですが、ニースで一緒に観たイギリス人によれば、この映画の描く50年代の労働者階級の暮らしぶりやヴェラの違法行為を知った後の家族のリアクションもまさしく現実そのままと云えるくらいうまく再現しているそうです。イメルダ・スタウントンのヴェラが乗り移ったとしか思えないような演技を初め、圧倒的なリアリティでそれぞれの心の動きを表現している俳優陣には心からブラボー!を送りたいと思いました。ヴェラの取調官でさえ、心の内では彼女の行為に理解を示し、心の葛藤を抑えて警察としての役目を果たす姿にも司法の持つ矛盾を考えさせられます。観終わった後しばらくは気持の整理がつきかねるほど、複雑な思いにさせられた作品でした。
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by cheznono | 2005-08-08 01:51 | 映画