クラッシュ

b0041912_111666.jpg フランスのドーヴィル映画祭でグランプリを受賞した「クラッシュ」。ミリオンダラー・ベイビーを手掛けたポール・ハギス監督の群像劇で、去年の秋ニースに戻った時にまずこれを観るべきと一押しで勧められた作品です。
 クリスマス前のロサンジェルスで、道路脇に黒人の若者の遺体が見つかり、その前日のさまざまな人種による出来事が断片的に紹介されます。何度も泥棒に入られてイラついているイラン人の商店経営者、その商店の鍵を付け直す依頼を受けるヒスパニックの鍵修理工。白人の地方検事とその妻は黒人のチンピラ2人に車を略奪されてしまい、ツンとした検事の妻はますます過敏でヒステリックになって夫はもてあまし気味。車の中に自宅の鍵を入れていた検事夫妻は、家が強盗に合うのを恐れてやはり鍵の修理工を頼みます。治安の悪い地域に住む修理工は帰宅すると、辺りの銃声に脅える幼い娘に「防弾マントの役目をする透明な服を着せてあげる」と言い聞かせてなだめます。
 車を盗んだチンピラ二人は夜道を焦って韓国人の男性を轢き逃げし、夜のパトロール中の白人警官二人は楽しげにドライブしていた黒人のTVディレクターとその妻を止めて、ベテランの刑事は黒人の妻にいわれなき屈辱を与えます。それを見ていた若い警官は人種差別的な先輩の態度に強い怒りを感じるのですが。。
 人種の坩堝のようなロサンジェルスで、普段は別世界の人間として暮らしている人達が、事故や犯罪がきっかけで接点を持ち、相手に対する偏見が強く出たり、憎悪を深めて行く過程が無理なく描かれます。そして、その点が私はとても怖いと感じました。他の民族と同じ地で生活するということがこんなに殺伐として疑心暗鬼な、しかも銃社会を作ってしまったなんて、何ともやるせない気持がします。
 フランスも白人、黒人、アラブ系、アジア系やその他が共存している他民族国家で、その分人種差別も根強く、白人であっても両親がフランス人でない人達が感じる見えない差別は結構強いものがあります。秋に世界を騒がせた暴動や最近のムハンマドの風刺画掲載問題も人種的な偏見や相手の文化に対する無知や無関心が根底にあるので、この映画は人ごとではないリアリティを持ってフランス人に高く評価されたのでしょう。ただ、フランスは銃規制をしているから、銃社会のアメリカとは犯罪の質も全然違うと言えるかも知れません。
 「クラッシュ」は、それでも個人個人が一生懸命に自分の人生を生きていることがしっかりと描かれ、幾つかのエピソードも希望のある展開を見せるところに救いがあり、他民族社会の将来への期待もにじませている点が魅力でした。
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by cheznono | 2006-02-19 00:57 | 映画