麦の穂をゆらす風

b0041912_0421476.jpg この5月にカンヌ映画祭に通った時、私たちが観る事ができたのは殆どが《ある視点》の部に選ばれた作品で、同時に隣の赤じゅうたんの会場で上映されている公式作品の方は終盤に1つ観れただけでした。なので、赤じゅうたん会場の作品の噂は、運良くフリーパスと招待状を持っている知り合いに聞いたり、メディアの報道を頼ったりしていました。
 その映画祭の最中、フランスのマスコミが予想していたパルムドールは、ペドロ・アルモドバル監督の「ヴォルヴァー」やソフィア・コッポラ監督の「マリー・アントワネット」、そして「息子の部屋」でパルムドールを受賞したナニ・モレッティ監督の「カイマン」辺りで、ケン・ローチの「麦の穂をゆらす風」は一応候補に挙がっている程度の扱いでした。中でも、以前から人気のスペインのアルモドバル監督は今年のパルムドールの最有力候補。フランスの監督の作品がパッとしなかったせいか、メディアはしきりにアルモドバル監督がいかにパルムドール受賞に近いところにいるかを連日報道していたのです。
 で、ついに最終日、結果はウォン・カーウァイ審査委員長の元、満場一致でケン・ローチの「麦の穂をゆらす風」が選ばれたのに、フランスメディアの冷たかったこと。普段はとても温厚なイギリス人の友達が、「フランスのマスコミって本当に子供っぽい!」と怒り出すくらい、フランスではケン・ローチの受賞の報道を最低限に抑え、代わりに落選して傷心のアルモドバル監督を映しては、ペネローペ・クルースの監督を慰めるスピーチを繰り返し流したわけです。オリンピックの開催地もロンドンに取られたせいか往年のライバル・イギリスへの反発と、地続きのスペインへの親近感との差が露骨に出たという感じでした。 
 アルモドバル監督の「ヴォルヴァー」は、カンヌの後すぐに一般公開されたので、ニースで観ました。面白かったけど、これでもかのえぐいエピソードがてんこ盛りだったから、思わずテレビのソープオペラを連想したくらいです。そして既にカンヌから半年以上経った今、「麦の穂をゆらす風」を観て、これはまるで「ヴォルヴァー」や「マリー・アントワネット」が太刀打ちできる作品ではない、カンヌで満場一致だったのは当然の結果だった、ということがわかりました。確か数年前に「スウィート・シックスティーン」が公開された時は、フランスでも高く評価していたのに、なぜ今回はケン・ローチにこんなに冷ややかな態度を取ったのでしょう?アイルランド問題で加害者側であるイギリス出身の監督が、史実を冷静に見つめた画期的な作品であるこの映画を、どうしてフランスが素直に評価できなかったのか不思議ですが、自国がアルジェリアなどで行って来た非人間的な行為を思い出させられて、直視できなかったのかも知れません。。イギリス国内ではかなり物議をかもしたという内容ですが、日本も過去の事実を修正することを試みる前に史実を冷静に振り返るべきで、それこそが先進国の責任ではないかと確信させられるようなこの映画、ケン・ローチの「もし、われわれが過去についての事実を語らなければ、将来についても事実を語れなくなるじゃないか」という言葉が胸に沁みる作品でした。
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by cheznono | 2006-12-09 01:54 | 映画