エディット・ピアフ 愛の讃歌

b0041912_082836.jpg この春、フランスのメディアは、この映画の話題で持ち切りでした。まゆ毛を全部抜き、額の髪をそって熱演した主演のマリオン・コティアールが、素晴らしかったです。エディット・ピアフはフランス版美空ひばりのような人という認識しかなかった私ですが、この作品のお陰で、天性の歌唱力に恵まれた女性がたどった、太く短く数奇な運命を大まかにでも知ることができ、以来、「ばら色の人生」や「愛の讃歌」も以前とは少し違って聴こえるようになりました。
 映画はピアフがどん底の幼少期から、歌手としてデビューを果たすまでを、比較的丁寧に描いています。すさまじい環境での生い立ちはとても見応えがありました。
 パリの下町の貧しいカップルの子供として生まれ、父親はすぐに第一次大戦に出征してしまったため、母親は路上で歌ってはその日暮らしをする毎日。 戦争から戻った父親が母娘の惨状を見かねて、ピアフを連れて郷里に戻ります。幼いピアフを冷ややかに迎えた祖母は、なんと娼館の経営者。父親はまたどこかへ消えてしまいますが、娼婦の一人がピアフを実の子のように可愛がってくれたため、孤児のようなピアフはつかの間の安らぎを感じます。
 そこへふらりと父親が戻って来て、嫌がるピアフを連れ、父娘大道芸人として流浪の旅を続けます。やがて、パリに戻ったピアフは、母親と同様に街角で歌っては日銭を稼いではテキトーな暮らしを送りますが、その歌唱力に目をつけた名門クラブのオーナー(ジェラール・ドパルデュー)が彼女を自分の元でデビューさせる決心をします。ピアフが20歳の時でした。
 この辛い生い立ちが彼女の性格を決定づけたと言われていますが、まだピアフの関係者も存命なため、この作品には賛否両論があるようです。ピアフの秘書だった女性は、本物のエディット・ピアフは映画の人物像とはかなり違っていて、もっとエキセントリックで人を蹴落とすのにも躊躇しなかったと苦言を呈したと聞きます。でもまあそれはそれで、ピアフの伝説はこのままで良いんだよと言ったような感想も多いでしょう。
 デビューを果たしてからも苦労は続き、大スターになっても事故や悲劇に見舞われて、次第に身体がボロボロになって行くピアフですが、晩年の代表歌「私は何も後悔しないわ(邦題:水に流して)」を貰って、これこそ今の自分が一番歌いたかった歌と喜ぶピアフが印象的でした。あれだけ苦労を重ねても、「いいえ、私はいっさい何も後悔しないわ、代償も払って一掃したから、もう忘れたわ、過去なんてどうでもいいの、私はまたゼロから始めるのよ」と歌うピアフ。
 私もこの歌がすごく好きです。歌詞にはフランス的なご都合主義が匂わないではないけれど、この歌を聴くと元気が貰えます。47年間の生涯に何人分もの運命を一人で生き抜いたようなピアフが歌うからこそ、「いいえ、私は何も後悔しないわ」の深みが心を揺さぶるわけですが、ごく普通の人生であっても、こういう気持ちでいられたらと、この曲を聴く度に願っています。 
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by cheznono | 2007-10-01 01:36 | 映画