潜水服は蝶の夢を見る

b0041912_11255320.jpg 仕事に恋にとパリの生活を楽しんでいたモード雑誌ELLEの編集長ジャン‐ドミニークでしたが、42歳で突然、脳梗塞に倒れ、全身麻痺となってしまいます。身体は植物状態で、もう話すこともできませんが、ジャン‐ドーの意識ははっきりしていて、観る側はこん睡状態から目覚めた彼の限られた視界を同時に体験する形で映像に引き込まれてゆきます。
 カンヌやゴールデングローブ賞で2部門を受賞した「潜水服は蝶の夢を見る」は、ジャン‐ドーが片方の瞳の瞬きだけで語った自伝の映像化で、生きとし生けることの不思議さ、大切さを改めて考えさせられる秀作でした。主役のマシュー・アルマリックもみごと。彼以外には考えられない程ですが、当初はジョニー・デップが第一候補だっとというから驚きです。
 北フランス、ベルクの海岸沿いの病院で療養するジャン‐ドーは、意識が回復した段階で医師からはっきり、今の状態は医療技術のお陰による延命、と告げられます。でも、「希望は持ち続けて」と励ます医療スタッフたちに囲まれ、初めは死にたいともらしたジャン‐ドーも、美人の言語療法士に機能の残る左目を使ったコミュニケーション方法を教わって、生きることに前向きになって行くのでした。
 唯一動く左目の瞬きで仏語の単語を綴って行くコミュニケーション方法で、自伝の出版にも意欲を示すジャン‐ドー。身体は全く動かなくても、彼の豊かな想像力や記憶は変わらず、色気やユーモアもそのまま。辛抱強い筆記者との共同作業で、病室での介護の日々、子供たちや老親への思い、恋の思い出などを集合させ、大いなる生の喜びを文章にして行きます。
 病室で彼を見守るのは、子供たちの母親であるかつてのパートナー、セリーヌ。ジャン‐ドーに思いを残す優しい彼女の前で、恋人からの電話に心をときめかすジャン‐ドー。しかし、恋人は麻痺した彼を見るのは忍びなく、以前の生き生きした彼でないと会いたくないと残酷です。
 三人の子供に恵まれ、仕事も順調、恋人にも不自由なく、スポーツカーを乗り回していたジャン‐ドーが、突然奪われた身体の自由。この映画は、生命の強さと同時に、明日をも知れない運命の不確かさを突きつけて来ます。しかし、何より私が感動したのは、彼を支える医療チームの素晴らしさでした。
 普段は段取りや手際の悪さが目につくフランス社会ですが、全身が麻痺して手も口も動かせない患者を多くのスタッフが介護し、家族や友人よりも支えてゆく様子には目を見張らざろう得ません。一本の木のようになってしまった身体ですが、意識のあるジャン‐ドーを尊重し、人間性を保つことに尽力するチームワークには感嘆します。日本もこういう医療看護体制が整う日が来るでしょうか? 
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by cheznono | 2008-02-13 13:29 | 映画