ノーカントリー

b0041912_023722.jpg アカデミー賞4部門獲得、コーエン兄弟最高傑作、でもちょっとえぐそうな作品なので覚悟して観に行きましたが、その暴力的なリアリズムは想像を上回っていました。
 アイルランド系のアメリカ人原作者コーマック・マッカーシーによる原題のNo country for old men(年寄りに居場所はない)は、アイルランドの詩人イエーツの詩から来ているのですね。映画は、トミー・リー・ジョーンズ演じる保安官ベルの語りから始まります。
 1980年のテキサス州、メキシコ国境に遠くない荒野で、溶接工のモスは偶然、数台の車や軽トラックに散らばった遺体を発見します。麻薬の取引を巡った銃撃戦の惨劇後で、生存者は虫の息のメキシコ人が一人。しきりに水をほしがる彼を見捨て、モスは現場に残された200万ドル入りのケースを抱えて自宅に逃げ帰ってしまいます。
 その夜中、メキシコ人のために水を積んだモスは、暗闇を再び現場に向かうのですが、この行動から不気味な殺し屋シガーに狙われる羽目に。しかも、モスがかすめた札束にはGPSのような発信機が隠してあったのです。
 命の危険を感じたモスは、妻をオデッサの実家に向かわせ、一人逃亡の旅に出るものの、執拗に彼の後を追うシガーの影がつきまといます。一方、昔かたぎの保安官ベルは、モスの身が危ないことを察知して、独自に捜査を始めるのですが。。
 ベトナム帰還兵の大胆さを持つモスの逃走劇とシガーの追跡は、冷徹なリアリズムと緊張感にあふれ、息もつかせない展開を見せます。自分の決めたルールに従って、無感情に人を撃つ殺し屋シガーの行動は、常人には全く理解不能、正義感の強い哲学的な保安官ベルの人生観とは対照的な冷酷さが異様です。
 保安官ベルが、「最近の犯罪は理解を超えている。理由なく殺人を犯す。」と虚しい表情を見せる場面がありますが、これは今、毎日のように起きる日本の犯罪に通じるものがあって、背筋が寒くなりました。第一、映画的技法は卓越しているとしても、こういう作品を名立たる各映画祭が絶賛するところに、先進国の闇を感じずにはいられません。
 逃走・追跡劇の合間に、ベルを通して、人間の本質や現代社会の教訓などがセリフに盛り込まれているし、引退を控えたベルが語る父親の夢が死生観に繋がる感もありますが、何とも殺伐とした気持ちになる作品でした。
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by cheznono | 2008-04-11 01:44 | 映画