つぐない

b0041912_141044.jpg 今週は遅ればせながら「つぐない」と「ランジェ公爵夫人」の二本立てを観て来ました。両方ともこの春、泣く泣く見逃してしまった映画です。予想に反して、バルザック原作の「ランジェ公爵夫人」よりも「つぐない」が、より強烈な印象を残す作品でした。イアン・マキューアンの原作「贖罪」も是非手にしたいです。
 舞台は1935年夏の英国。マナーハウスに暮らす中産階級タリス家の次女プライオニーは、13歳にして早くも戯曲を書き上げる程の早熟な少女でした。彼女の美しい姉セシーリア(キーラ・ナイトウェイ)は、ケンブリッジ大学から戻って来た所で、田舎の夏に退屈しつつも、家政婦の息子ロビー(ジェームス・マカヴォイ)を強く意識しています。子供の頃から一緒に育ったロビーは、ケンブリッジ大から医学の道へ進むつもりでいる優秀な青年でした。
 使用人の息子とは住む世界が違うとつんけんしながら、庭でロビーを挑発するような行動を取るセシーリア。それを窓から偶然目撃して、ショックを受けるプライオニー。実は、プライオニーも密かにロビーに憧れていたのです。
 惹かれ合いながら、互いを意識し過ぎてぎこちない間柄のセシーリアとロビーでしたが、ロビーが書いた手紙がきっかけで一気に親密になり、熱情に任せて図書室で愛を交わします。しかし、プライオニーがまたしても二人を目撃、彼女にはあたかもロビーが姉を襲っているようにも見えて、強く動揺するのでした。
 その夜、タリス家に身を寄せていた従姉妹のローラが、庭の暗がりで男に押し倒されます。悲鳴に駆けつけたプライオニーが、捜査官に「この目でロビーを見た」と証言したため、ロビーはセシーリアの目前で連行されてしまいます。この残酷な証言によって、ロビーとセシーリア、そしてプライオニーの運命は、決定的に狂ってしまうのでした。
 4年後、刑務所に残るか戦場へ赴くかの二者択一を迫られたロビーは従軍を選択し、北フランスで負傷します。当時、ナチスドイツ軍の猛攻撃におされた英仏連合軍は、北フランスで大苦戦を強いられ、ベルギー国境に近いダンケルクで、35万人に上る兵士の撤退を決意。そんな中、既に部隊とはぐれ、仲間二人と苦労するロビーの心の支えは、セシーリアが繰り返した「戻って来て!」というささやきでした。セシーリアは、ロンドンの病院で負傷兵の世話をする看護士をしながら、ロビーの帰りを待ち続けています。果たして、ロビーは無事にセシーリアと再会できるでしょうか?
 こう書くと全くのメロドラマのようですが、ストーリーは、ロビーに無実の罪をかぶせてしまったプライオニーの視点から語られます。しかし、観客にそれがはっきりするのは、作家として成功し、今や年老いたプライオニーが最後に発表した自伝小説について、衝撃的な解説をした時でした。
 ヴィクトリア様式の優雅なマナーハウスで、若い二人の不器用なロマンスが描かれる前半と、負傷したロビーがさまよう戦場の地獄との対比が際立つ映像ですが、特にダンケルクの海岸シーンが圧巻です。欧州を席巻したドイツ軍に敗退した英仏軍が、ダンケルクに撤収し、数万の兵士を犠牲にして、35万人の兵士を海から脱出させた大作戦で、帰還の船を待つ英仏の兵士の大群を見たロビーの仲間が「まるで聖書の出エジプト記のようだ」と呟いたのが印象的でした。ダンケルクの撤退後、仏軍は弱体化し、ドイツ軍は一気にパリ占領へと突き進みます。
 13歳の夏に、取り返しのつかない過ちを犯したプライオニーの、生涯を通じての贖罪の思いが観客に届くかどうかは、観る人の受け止め方によると思いますが、この作品は一人の少女の「つぐない」というよりも、世界大戦という時代状況に翻弄された世代へ捧げられたオマージュなのではないでしょうか? 
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by cheznono | 2008-09-14 01:43 | 映画