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プレイ-獲物-

b0041912_0322510.jpg 演技派俳優アルベール・デュポンテルがハリウッドアクション並みのタフな役に挑戦している「プレイー獲物ー」。フランスとベルギーをを震撼とさせた実在の変質的殺人犯からヒントを得て制作されたサスペンスで、目を覆うようなシーンもあるため誰にでもお勧めできる映画ではないけれど、猛暑に観るにはぴったりのよく出来た作品です。

 エクサン・プロヴァンスの銀行強盗容疑で服役中のフランクは、早く出所して美人妻アナ(カテリーナ・ムリーノ)と言語障害のある幼い娘アメリとの暮らしに戻ることを目標に、看守や囚人仲間のイヤがらせに耐える毎日です。
 なにせ、銀行強盗で奪った金の隠し場所を知っているのはフランクだけなので、刑務所の連中は何とか彼に金の在り処を口割らせようと躍起になっていました。
 そんな中、フランクと同房の未成年者レイプ犯モレル(ステファン・デバク)の容疑が晴れて、釈放が決定 。これまでの経験から他人を信用しないのを信条にしているフランクでしたが、気弱で真面目そうなモレルにふと気を許し、アナへの重要な伝言を頼みます。

 しかし、面会に来た元警官から、冤罪で釈放された筈のモレルは、実は少女ばかりを狙う連続暴行殺人犯だったと知らされたフランクは、塀の中で身悶えすることに。しかもモレルは、出所前にフランクの所有物からDNAを収拾していて、自らの犯行の濡れ衣を着せるつもりです。

 ある日、千載一遇の機会を得たフランクは脱獄を決行。妻子の住む団地に駆けつけますが、既に二人の陰も形もありません。敏腕女性刑事(アリス・タグリオーニ)の追っ手が目の前に迫る中、やっとのことで金の隠し場所にやって来たフランクを待っていたのは、冷たくなったアナでした。
 妻も金も失ったフランクの怒りは頂点に達し、さらわれた娘アメリを救うため、モレルを捜す危険な旅が始まります。

 近年フランスで社会問題化している刑務所内での受刑者の自殺。あまりに増加しているため、各刑務所で受刑者の生活の改善が目標となっていますが、この映画のような看守によるいじめや虐待が横行しているなら、受刑者の自死が増加するのもむべなるかな。フランスの刑務所には絶対に入りたくないですね。
 でも、面会に来た家族と水入らずで過ごせるダブルベッド付きの寝室があるのもさすがフランス。もしかして、日本の刑務所にもこんな気の効いた配慮があるのかしら?

 凶悪指名手配犯と見なされ、モレルを追いつ警察には追われつの命をかけたフランクの追走劇は、コートダジュール地方の鷲ノ巣村でクライマックスに。地中海の風が間近に感じられるようなラストのニースの映像も印象的。
 不死身のアルベール・デュポンテルに乾杯したくなるような上出来サスペンスの監督は、最近注目されているエリック・バレットです。
 公式サイト  http://www.alcine-terran.com/prey/
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by cheznono | 2012-07-24 00:37 | 映画

星の旅人たち

b0041912_1285457.jpg ブログに書けないうちに終わってしまうかと思ったら、意外にロングランしている「星の旅人たち」。エミリオ・エステヴェスが実父マーティン・シーンのために制作したというこの作品、映画としての面白さは「サンジャックへの道」にかなわないけれど、リアリティ度は断然こちらに軍パイが。
 いつかサンチャゴ・デ・コンポステーラへ巡礼の旅に出てみたい人にはもちろん、聖地巡礼に参加した気分になりたいだけの人にもお勧めです。

カリフォルニアの眼科医トム(マーティン・シーン)は、40歳間近の一人息子ダニエル(エミリオ・エステヴェス)がピレネー山中で急死したという報せを受け、急いで渡仏します。
 ダニエルが南仏に旅立ったことも秘書から聞くまで知らなかったトムですが、息子がなぜサンチャゴ・デ・コンポステーラを目指したかったのか、自ら巡礼の道を辿ることで少しでもダニエルに近づこうと決心します。
思えば最後まで何を考えているのか理解できなかった息子。しかし、自分は彼に自身の価値観を押しつけていなかったか?父子の距離を縮める機会もないまま、あっけなく息子は逝ってしまった。

トムはダニエルのリュックを背負い、道すがらダニエルの遺灰を要所要所に置きながら、自戒の思いも込めて息子が歩こうとしていた800kmの道程を進みます。
 途中、人の良いオランダ人(ヨリック・ヴァン・ヴァーヘニンゲン)、ヘビースモーカーでシニカルなカナダ女性(デボラ・カーラ・アンガー)、アイルランド人の旅行ライター(ジェームズ・ネスビット)に出会い、互いに共感したり、反発し合ったり、うんざりしたりしながらもやはり旅は道連れ、4人は共に聖地を目指すことに。
 昔も今も800kmを一月余りかけて徒歩で打破するのは過酷な旅。トムは所々で、亡き息子の穏やかな視線を感じながら、一歩一歩巡礼路を歩んで行くのでした。

 いつかわかり合えると思っていたダニエルのまさかの事故死に動揺し、胸の中で亡き息子と対話しながら一人静かに巡礼するつもりだったトムが、思わぬ旅の同伴者たちをうっとうしく感じながらも次第に彼らと固い連帯感を紡いで行く過程が自然で、無理がありません。
 取り立ててドラマチックなことは何も起こらず、巡礼途中のエピソードも実際にありそうなことばかりで、自分がそこにいても違和感なく溶け込めそうな現実感が心地良いです。
 4人がついに大聖堂にたどり着いた時の達成感も実に爽やか。長い巡礼で、身体も心も浄化されたような気分を観客にもお裾分けしてもらえる感じで、気持ち良く家路に着くことができました。

 「アーティスト」でハリウッドを湧かしたジャン・デュジャルダンが企画して、ジル・ルルーシュと主演した浮気者の映画「プレイヤー(les infideles)」。はて、日本で受けるかなあ?と思ってたら、やっぱりあっさり終わってしまいましたね。確かにフランスではヒットしたし、面白い映画ではあるけれど、ちょっとやり過ぎのような。
 ともあれ、この10年ノリに乗ってるジャン・デュジャルダン、才能あふれる彼の次回作に期待したいです。 
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by cheznono | 2012-07-15 01:39 | 映画

b0041912_033335.jpg 去年のカンヌ国際映画祭でオープニングを飾った時はぼちぼちの受けだったのに、劇場公開された途端、多くのフランス人が魅了された映画ミッドナイト・イン・パリ。アカデミー賞では最優秀賞脚本賞を受賞。
 ベルエポックからデザネ・フォルにパリに集った芸術家達の活気ある会話にわくわくさせられる映画で、とりわけ、ロストジェネレーションの作家達の小説に夢中になった経験のある人にはたまらない魅力を放つ作品だと思います。

 しかし、この邦題はちょっと耳ざわり。真夜中のパリの方がしっくりするのでは?パリのミッドナイトならまだしもミッドナイト・イン・パリだと何というかオー・ド・トワレのような違和感が。(eau de toiletteはオー・ド・トワレットが近い発音なのに、なぜか日本ではオー・ド・トワレで定着。トワレットだとトイレをイメージしてしまうから?単数系のトワレットは身支度とかお化粧の意なのですが。)

 ハリウッド映画で脚本家として成功したギル(オーウェン・ウィルソン)は、婚約者イネズ(レイチェル・マクアダムス)とその両親と共に大好きなパリにやって来ます。
 ギルは映画のシナリオから卒業して、本格的な作家への道を模索中。でも、せっかくのパリ滞在なのに、ロマンティストの文学青年ジルと実業家の娘で典型的なマテリアルガールのイネズとは価値観のずれが目立ち始めます。

 深夜、一人でホテルに戻ろうとしたジルは道に迷ってしまい、たまたま通りかかった黄色いプジョーに拾われます。行き着いた先は、なんとジャン・コクトーを初め、スコットとゼルダ・フィッツジェラルド夫妻やヘミングウェイが集う1920年代のクラブでした。
 翌晩もタイムトリップしたギルは、モディリアーニやピカソのミューズ的な謎の美女アドリアナ(マリオン・コティアール)と出会い、惹かれて行きます。
 小説家を目指すジルは、尊敬する作家たちの会話に多いに刺激されますが、ピカソとうまくいっていないアドリアナと心を交わした途端、一緒に19世紀のベルエポックまで遡ることに。

 過去の著名なアーティストたちとアドリアナに刺激され、ジルはこれからの人生に向けて大きな決断を下します。

 ウッディ・アレンの魔法で、文化と歴史を彩ったアーティストたちのサロンに紛れ込む楽しさは映画ならではのもの。
 夜な夜ないなくなるギルの行動を怪しんだイネズの父親が、ギルにつけた探偵(なんとガド・エルマレ)が、タイムスリップし過ぎてブルボン王朝のヴェルサイユに紛れ込んでしまうのもご愛嬌です。
 
 映画の公開当時は大統領夫人だったカーラ・ブルーニ・サルコジが出演しているのも話題になりました。モデル出身の歌手カーラ・ブルーニは、ベテラン女優ヴァレリー・ブルーニ=テデスキ(脚本家と監督の経験もあり)の父親違いの妹なので、演技の才能も期待されたのですが、意外に出番はわずか数シーンだけ。
 噂では、カーラ・ブルーニの演技があまりに拙く、ウッディ・アレンは何度も撮り直した挙げ句にやむなく彼女のシーンを大幅に削ることにしたとか。
 華麗な恋愛遍歴が何かと話題になるカーラ・ブルーニ、昨秋は念願の女の子を出産してますます注目されました。本当に大統領との間の赤ちゃん?という囁きも何のその、落選後は普通の人に戻ってお金儲けを目指したいという前大統領とモロッコに超豪華な別荘を物色中らしいです。
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by cheznono | 2012-06-22 00:45 | 映画

ル・アーブルの靴みがき

b0041912_0135749.jpg 静かにロングラン中の「ル・アーブルの靴磨き」。レビューが大幅に遅れてしまったので、ジョージ・クルーニーの「ファミリーツリー」について書こうかなと迷いましたが、「ファミリーツリー」はDVDで充分という気もするので、やっぱり「ル・アーブル」の方を選んでみました。

 アキ・カウリスマキ監督によるノルマンディ地方らしい下町人情劇と詩情あふれる美しい映像を使って、静かに政府の移民政策を批判している佳作です。

 若い頃はボヘミアン的作家だったマルセル(アンドレ・ウィレム)ですが、今は港町ル・アーブルで靴磨きをしながら、北欧出身の妻アルレッティ(カティ・オウティネンと)と愛犬ライカと共に、つましくも穏やかな日々を送っています。
 ある日、アフリカから密航して来た少年イドリッサに遭遇。不法移民を厳しく取り締る政府の意向で、躍起になって少年を追う警察の手からイドリッサを守るべく、マルセルの生活は一変します。

 そんな折り、妻アルレッティが不治の病で入院。医師から余命宣告を受けたアルレッティは、夫には事実を隠すよう願うのでした。

 イドリッサの母親がロンドンにいることを知ったマルセルは、密かに彼をロンドンに送り出そうと資金集めに奔走します。それまでお金にシブいマルセルを煙たがっていた近所の人達も、少年の苦境を知るや驚くべき連帯感を発揮して、マルセルの努力に支援を惜しみません。
 しかし、人好きのしない敏腕刑事(ジャン=ピエール・ダルッサン)が、マルセルたちの動きを察してさぐりに現れ、追っ手が迫っていることを匂わせます。

 ほぼ同じテーマを扱って大ヒットした「君を想って海をゆく」のリアリズムに対して、「ル・アーブル」は下町の人情ドラマをファンタスティックに料理した作品ですが、それでも現実にこういうことが起こり得るかもと思わせる力が秘められています。

 何より、ノルマンディの港町の片隅で地道に生きる人々の暖かいつながりと1つ1つのシーンが絵画のような美しさが印象的で、観る者の心を捉えます。「キリマンジャロの雪」のような役が多いお馴染みジャン=ピーエル・ダルッサンが、癖のあるやり手刑事を難なく自分のものにしていて、この映画に何とも言えない味を添えているのも魅力的。

 自身もハンガリー移民の父とイタリア人妻を持ちながら、極右政党をしのぐほどの強弁な移民政策を取って来たサルコジ大統領が去り、移民問題に穏やかなオランド大統領に変わった今、イドリッサのような難民の置かれた苦境が少しでも改善されることを祈らずにはいられませんが、時は欧州危機の真っただ中。失業率が高止まりするフランスで、移民に対する国民感情もこれまで以上に複雑なものがあるのは否めないかも知れません。

 ちなみにマルセルの愛犬ライカは去年のカンヌでパルム・ドッグ審査員特別賞を受賞。パルムドッグ賞そのものは「アーティスト」のあの芸達者ジャックラッセル:アギーが受賞。アギーはアカデミー賞の金の首輪賞も受賞しているから、ダブル受賞ですね。
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by cheznono | 2012-06-11 00:24 | 映画

ある秘密

b0041912_021729.jpg 去年のカンヌでグランプリに輝いた「少年と自転車」では、母国ベルギーを舞台に養護施設から預かった男の子に類いまれな母性愛を発揮していたセシル・ド・フランス。そのセシル・ド・フランスの美しさが輝いている映画「ある秘密」が、東京のシアター・イメージフォーラムでフランス映画未公開傑作選の1つとして公開されています。
 フィリップ・グランベール原作のベストセラー(高校生の選ぶゴンクール章受賞作品)の映画化で、今春亡くなったクロード・ミレール監督の最後の作品。2007年秋のフランス公開時に観た時はものすごい衝撃を受けました。

 セシル・ド・フランスの相手役にパトリック・ブリュエル(歌手兼俳優でポーカーの名手でもある)、リュディヴィーヌ・サニエ(フランソワ・オゾン監督の秘蔵っ子)、マチュー・アマルリック、ジュリー・デュパルデューと豪華キャストで繰り広げられるヒューマンドラマは、息を詰めるような緊張感の漂う傑作です。

 1985年パリ、戦後生まれのフランソワ(マチュー・アマルリック)が孤独で劣等感に苛まれた子供時代を振り返るところから物語が始まります。
 スポーツマンの父マキシム(パトリック・ブリュエル)と水泳が得意な美しい母タニア(セシル・ド・フランス)というユダヤ人カップルの一人息子フランソワは病弱でスポーツが苦手、華やかな両親の陰でコンプレックスを感じながら成長します。
 父が自分を見る目に不肖の息子であることを否応なく感じるフランソワは、空想の中でスポーツ抜群の「兄」を作り出し、両親の期待に軽々と答える理想的な子供の「兄」を密かな心の友にしていました。
 ある日、自分に兄が実在していたことを知って愕然とするフランソワ。両親が自分にひた隠しにし、周囲にも封印していた過去に迫って行きます。

 実は父マキシムには戦前、アンナ(リュディヴィーヌ・サニエ)という妻がいました。なのに二人の結婚式の当日、タニアに初めて会ったマキシムは一目で惹かれます。けれど、タニアはアンナの弟の奥さんでした。
 マキシムとアンナにはシモンという息子が生まれ、みんなに可愛がられます。シモンは運動神経抜群で父親の自慢の息子でした。やがて、ヒットラーの台頭が始まり、第二次大戦が勃発。フランスにもナチスのユダヤ人弾圧が暗い影を落とします。
 ナチスのユダヤ人狩りから逃れるため、マキシムは入念に計画を練ります。一方で、ユダヤ人迫害への恐怖に加え、夫のタニアへの気持ちに気づいたアンナは精神的に追い詰められて行くのでした。

 繊細で線の細い妻アンナと穏やかな家庭を営みながら、気が強くて華やかなタニアを諦め切れないマキシム。危うい均衡を保つマキシムの一家が否応なく戦争とユダヤ人弾圧の暗い世相に巻き込まれて行き、やがて悲劇につながる様子がサスペンス調に描かれます。

 両親に引け目を感じているとはいえ、今も熱々の両親のもとで平和に暮らしていた少年が、今の穏やかな暮らしやひいては自分の誕生までも、両親がひた隠しにしている過去の出来事と大きな犠牲の結果としてそこにあるということを知り、内省的な大人への成長を遂げるきっかけとなるプロットが実にうまく構成されていて、忘れがたい印象を受けた作品です。

公式サイト  http://www.eiganokuni.com/meisaku5-france/
フィリップ・グランベール著「ある秘密」新潮クレストブックス
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by cheznono | 2012-05-18 00:08 | 映画

別離

b0041912_20224289.jpg ベルリン映画祭で金熊賞、米アカデミー賞で外国語映画賞など数々の映画賞を獲得したイラン映画「別離」。 イランと言えばアッバス・キアロスタミ監督の「友達のうちはどこ?」や「桜桃の味」の世界と思い込んでいたけれど、時代は着実に変わっていたのですね。
 パリ在住というファルハディ監督の話題作は、イランに対する私の先入観を180度変えてくれました。 

 テヘランに住む銀行員ナデル(ペイマン・モアディ)と妻のシミン(レイラ・ハタミ)が離婚調停を申し立てます。
 一人娘テルメーの教育ために海外移住の準備を進める妻に対して、夫はアルツハイマーの老父を置いてイランを出るわけには行かないと反対。夫婦は別れる決心をしたものの調停は却下され、とりあえず二人は別居することに。

 妻が出て行ったため、ナデルは父親の介護のために敬虔なイスラム教徒の女性ラジエー(サレー・バヤト)を雇います。幼い娘を連れてナデルの父親の世話に通うラジエーですが、この仕事を引き受けたことを無職の夫には内緒にしていました。

 ある日、帰宅したナデルと娘テルメーは、意識不明で転がっている父親を見つけます。ラジエーがある用事のため、無断で外出した間に起きた出来事でした。
 父親思いのナデルは激怒してラジエーを追い出そうとします。ともかく仕事の報酬を貰いたいと強く要求して食い下がるラジエーと口論になった末、ナデルが彼女を玄関から押し出すと、はずみで階段に倒れ込むラジエー。

 その夜、彼女は流産してしまいます。 
 ラジエー夫妻は、ナデルを胎児の殺人罪で訴えますが、ナデルはラジエーが妊娠していたことも知らなかったと主張。逆に父親の扱い方についてラジエーを告訴します。

 果たしてラジエーはなぜナデルの父親をベッドに縛りつけて外出したのか?ナデルは本当にラジエーの妊娠を知らずに彼女を手荒く押し出し転倒させたのか?
両者の思惑が絡む中、さまざまな疑問が交差する後半は、スリリングな展開に釘付けになりました。

 宗教の束縛が根強い中、中産階級の進歩的なシミンは、夫と別れてでも外国を目指し、信心深いラジエーは、稼ぎがない上、横暴で保守的な夫に隠れて、家族を養うため慣れない介護の仕事に通う。対照的とも言える二人。
驚嘆したのは彼女達イラン女性の強さです。離婚してまで海外で娘を育てようとするシミンはもちろんのこと、イスラム教の戒律に従順なラジエーも決して泣き寝入りせず、雇い主に対して真っ向から対立する姿に、イスラム女性の強い自己主張を見て圧倒されます。
加えて、格差社会、老人介護、離婚に伴う子供の親権など、社会的背景や宗教観の違いはあるものの、問題の普遍性にも目からうろこ。ブッシュ政権に《悪に枢軸》と名指しされたイランは、決して別世界ではなく、市民は先進国でも持て余している社会問題に直面しながら、より良い毎日を模索しているということがよく伝わって来る映画です。

 それにしても、民主党の某首相経験者はいったい何が目的でイラン訪問を強行したのでしょうね?
別離:公式サイト:http://www.betsuri.com/
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by cheznono | 2012-04-22 20:32 | 映画

ドライブ

b0041912_136527.jpg「別離」「アーティスト」「少年と自転車」など、昨年フランスで高く評価された映画が目白押しですが、まずは早春にフランスメディアが絶賛した「ドライブ」から。
 確かにハリウッド映画とは異なり、どちらかと言えばフレンチノアールに通ずるものが感じられるハードボイルド系サスペンスで、懐かしきウィリアム・アイリッシュの世界を彷彿とさせるような作品ですが、原作はジェームス・サリスの同名小説とか。そして、カンヌ国際映画祭で監督賞を受賞したのは、デンマーク出身のN・W・レフン監督です。

昼間は自動車修理工場で働く一方で映画のカーアクションのスタントマンを務める孤独な天才的ドライバー(ライアン・ゴズリング)。時に彼は、夜中に強盗犯の逃走を助ける仕事も引き受けています。その場合、彼の役目は強盗犯を車に乗せて疾走するだけ。自分の手を犯罪に染めることはありませんでした。
ある日、同じアパルトマンに暮らす子連れのアイリーン(キャリー・マリガン)と知り合い、どこか陰のある彼女に惹かれます。互いに無口で不器用ながら、徐々に距離を縮める二人でしたが、服役中だったアイリーンの夫スタンダード(何という名前!)が出所してきたことで、これまで極力 他人と深くかかわらずに生きて来たドライバーの人生が大きく変わることに。
実はスタンダードはアイリーンにも内緒で多額の借金を抱えていて、それを種にマフィアの手下に脅され、質屋を襲うよう強要されます。逆らえば妻子に危害が及ぶことを恐れるスタンダードを見かねたドライバー、アイリーン親子を守りたい思いと相まって、質屋強盗の際の逃走援助を買って出ます。
 しかし当日、事態は思わぬ方向に転がり、ドライバーはスタンダードがマフィアにはめられたことに気がつくのですが。。

 ライアン・ゴズリング扮するドライバーのキャラクターが特異で、それがいっそうアイリーンへの純愛を切ないものにしています。寡黙なドライバーがどう育ち、どこから来たのか誰も知らず、映画も彼の背景を全く語りません。明白なのは、彼が天才的な運転技術と修理のテクニックを持っているということだけ。

 強盗犯の逃走の助っ人はしても、決して犯罪自体にはかかわらないで来たドライバーが後半、アイリーン母子を守るためには凶暴は暴力も厭わなくなる変化には目を見張ります。
 その反面、アイリーンに見せる繊細な心遣い。孤独でデリケートな心と、隠れた凶暴性。人間の二面性のコントラストが強烈な印象を残します。
 残酷なシーンに目を覆う場面もありますが、不思議な魅力を放つ作品でした。
 ドライブ公式サイト:http://drive-movie.jp/
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by cheznono | 2012-04-15 01:35 | 映画

戦火の馬

b0041912_13583790.jpg 久しぶりに大スクリーンでスケールの大きい映画らしい映画を観た感じで満足できた「戦火の馬」。波瀾万丈の馬ジョーイの半生とジョーイと若者アルバートとの堅い友情の物語で、同時に第一次大戦に大きな働きをし、兵士と共に犠牲となった夥しい数の軍馬に向けてのオマージュとも取れる作品です。

 第一次大戦直前の英国デボンシャー、気性の荒いサラブレッドが貧しい農家に競り落とされ、一人息子のアルバート(ジェレミー・アーバイン)がかいがいしく面倒を見ます。
 アルバートは農耕馬に向かないジョーイを苦労しながら畑仕事に従事させるのですが、悪天候で農作物はめちゃくちゃ。加えて第一次大戦が開戦。暮らしに困ったアルバートの父親は、やむなくジョーイを軍馬として将校に売り渡します。
 アルバートのジョーイに対する思い入れに感じ入った将校は、終戦したら馬をアルバートに返すと約束。フランス北部の戦場に赴いたジョーイは、将校を乗せて野営のドイツ軍を奇襲する作戦に参加することに。

 その後、ジョーイはドイツ軍の手に渡り、フランス人の少女にかくまわれ、またドイツ軍に酷使されて、ついには第一次大戦きっての激戦地ソンムの戦いに駆り出されます。
 その頃にはアルバートも英軍に従軍していて、奇しくもジョーイはドイツ軍と互いに知らぬ間に敵味方に分かれていたのでした。

 冒頭から目にしみるような美しい画面に圧倒されます。のどかなイギリス南部の田園風景と見事な馬、一途でハンサムな少年アルバート。この映像が過酷な戦場の状況との対比を極めます。
 とはいえ、貧しい農村で地主に搾取される生活は、とても楽なものではありません。生活の苦しい農民が今度は下級兵として戦場で悲惨な環境に置かれる点は英独仏とも共通で、涙を誘います。

 何事が起きても、運に見放されず力強く生き抜く奇跡の馬ジョーイには励まされますが、そこはスピルバーグ監督、どうしても「プライベートライアン」に通じるあり得なささが否めません。すっきりまとめた感も残るけど、各エピソードはとてもよくできています。

 しかし、兵士や大砲を運ぶのも全て馬に頼っていた第一次大戦に比べて、わずか20年後の第二次大戦では飛躍的に兵器や戦い方が進歩?したのですね。空軍ができたことも大きかったのでしょう。この映画では「戦場のメリークリスマス」に描かれたような荒廃した戦場でドイツ軍と英軍の兵士たちが交流する場面もあり、ちょっと救われる思いがしました。
公式サイト:http://disney-studio.jp/movies/warhorse/ 
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by cheznono | 2012-03-14 14:01 | 映画

昼下がり、ローマの恋

b0041912_0353069.jpg  ローマを舞台に繰り広げられる三つの恋模様をイタリアらしいコメディタッチで描いた「昼下がり、ローマの恋」。深みには欠けるけど、経済危機もどことやら、自分の欲望に忠実に、泣いて笑って毎日を謳歌する人びとを温かい目で見つめるオムニバスで、楽しい気分になりました。

 新米弁護士のロベルト(リッカルド・スカルマチョ)は、恋人との結婚に向けて用意周到。新婚生活を楽しみにしています。
 そんな折り、トスカーナの田舎町に出張したロベルトは、村きってのセクシーガール:ミコルと知り合い、あっという間に恋仲に。出張中もローマの恋人とスカイプで愛を確かめ合いつつも、ミコルにぞっこんとなるのですが。。

 良き夫で良き父であるはずのTVキャスター:ファビオは、パーティーで出会った情熱的な女性エリアナに誘惑され、一夜限りの約束で一線を越えてしまいますが、その後が大変。情が濃くてリビドー過剰なエリアナに、仕事も家庭も引っ掻き回され、人生が狂う羽目に。

 そして、いよいよロバート・デ・ニーロとモニカ・ベルッチの登場。
心臓移植をしたアメリカ人歴史学者のエイドリアンは妻と別れ、今はローマで引退生活を送っています。彼の住むアパルトマンの管理人オーグストは頼れる飲み友達。
 ある日、パリで成功したと聞くオーグストの娘ヴィオラが帰国。ゴージャスながらどこか陰のあるヴィオラに惹かれるエイドリアンですが、実はヴィオラは借金取りから逃れる身でした。

「明日のパスタはアルデンテ」のリッカルド・スカルマチョが、愛する婚約者がいるにもかかわらず、知的な彼女とは正反対のギャル風美女に夢中になり、板ばさみに葛藤する青年を好演しています。
 今ひとつ結婚に逡巡していたローマの婚約者が、ロベルトと3日離れたことで彼の大切さに気づき、二人の将来に前向きになるのと対照的なロベルトの浮気で、男と女の違いが浮き彫りに。

 とりを務めるデ・ニーロとベルッチの存在感はさすが。それだけに、物語の単純さが惜しいけど、人間幾つになっても明日はどういう出会いが待ち受けていて何が起こるかわからない、というメッセージに元気を貰いました。

 ただ、せっかくオムニバスなのだから、たまたま同じアパルトマンに住む住人というだけでなく、三つのストーリーにもう少し関連性があれば、いくらか作品に深みが出たのではないかしら?
 ともあれ、やっぱりイタリア、毎日楽しそうだし住みやすそうで羨ましくなるような映画でした。
公式サイト: http://hirusagari-roma.com/
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by cheznono | 2012-03-06 00:51 | 映画

人生はビギナーズ

b0041912_0553717.jpg ニースで半ばお付き合い気分で観たマイク・ミルズ監督の私小説的映画:人生はビギナーズ。地味ながら、笑って泣かせてくれる意外な掘り出し物で、死について、とりわけ肉親を失うことに関していろいろと考えさせられます。アメリカ映画ですが、フランス映画を思わせるような作品です。

 米国西海岸に暮らす38歳のイラストレーター:オリヴァー(ユアン・マクレガー)は、幾つかの恋を経て、今は父から譲られた愛犬アーサーがパートナーの内気な青年。
 その父と44年連れ添った母親が他界し、落込んでいる筈の父親ハル(クリストファー・プラマー)から、実はゲイであることを告白されたオリヴァーは、動揺を隠せません。父にとって母との結婚生活はいったいなんだったのか?
 一方、75歳のハルはそんな息子の複雑な心境も何のその。残りの人生を楽しむべく、積極的にパーティに顔を出し、若い恋人を作って愛を育みます。

 しかし、ハルの身体は末期がんに蝕まれていました。余命を知りながら、気持ちを明るく保ち、人生を謳歌することに積極的なハルに、オリヴァーも父への理解を示し、同時に人間関係に臆病だった自らの姿勢を見直し始めます。

 ハルの最後を看取ったオリヴァーは、喪失感に打ちのめされますが、フランス生まれの風変わりな女性アナ(メラニー・ローラン)と出会ったことで恋愛の楽しさを再発見、二人は仲を深めて行きます。
 思い切って同棲に踏み切る内気なオリヴァーと変わり者のアナ。でも、いざ共同生活を始めたら、二人はどこかしっくり行かなくなってしまい。。。

 長い間、自分の性癖を抑制して働き者の良き夫を演じて来たハルが、内なる葛藤を経て、人生の終幕に自分本来の生き方を実行する姿をクリストファー・プラマーがユーモアたっぷり、楽しそうに演じています。
 そんな父にとまどいながらも理解しようと務め、勇気を持って不治の病に向き合う父親と気持ちを通わして行くオリヴァー。死を意識した父との語らいが、今ひとつ不器用な自分の私生活も勇気づけてくれて。

 映画の最後にタイトルの「ビギナーズ」の意味が生きて来ます。でも、邦題の「人生は」は明らかに余計では?

 何はともあれ、愛犬アーサーを演じるジャックラッセルテリアが最高です。犬のアカデミー賞にノミネートされるのもむべなるかな。有力候補の「アーティスト」のアギーもジャックラッセルだし、そもそもジャックラッセルは芸達者な犬種のかしら?
公式サイト:http://www.jinsei-beginners.com/
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by cheznono | 2012-02-14 00:58 | 映画