<   2009年 01月 ( 4 )   > この月の画像一覧

死刑執行人サンソン

b0041912_17232535.jpg フランス革命の際、38歳で処刑された国王ルイ16世が、最後まで冷静さを失わず、いかに毅然として断頭台に消えて行ったかを記した、国王の死刑執行人シャルル-アンリ・サンソンの手紙がロンドンでオークションにかけられたという記事を目にしたのは数年前。先日、近所の古本屋さんで、安達正勝著「死刑執行人サンソン〜国王ルイ16世の首を刎ねた男〜」を見つけ、その面白さに夢中になりました。
 浪費家の華やかな王妃マリー・アントワネットの陰で、あまり風采のあがらないお人好しの君主というイメージが強かったルイ16世ですが、近年、そのパーソナリティが見直され、この本でもフランス革命までは国民に絶大な人気を誇ったなかなかの名君だったという史実が浮き彫りにされています。
 一方、人から忌み嫌われる死刑執行人の家に生まれた4代目のシャルル-アンリは、世襲制のこの仕事を父親から引き継ぎ、裁判所の下した判決に基づいて、自分の意に反した拷問や処刑を行う傍ら、医者としても活躍します。代々、人の遺体を扱う仕事をして来た死刑執行人の一家は、かなりの水準の医学を身につけていて、貴族から平民まで多くの患者を看たようです。道で会っても顔を背けられるようなおぞましい職業とされた死刑執行人ですが、その反面、独自の診療法で病人から頼りにされ、医者として結構な収入を得ていたというのはとても興味深い事実だと思いました。
b0041912_1724291.jpg 太陽王ルイ14世やルイ15世が贅を尽くした生活の中、しこたまお金を使った後で、思慮深く善政を行ったと言えるルイ16世をとても尊敬していたシャルル-アンリ・サンソンは、フランス革命を機会にこれまでの絶対王政から立憲君主制を国王と共に目指すことを強く望みますが、幽閉されたルイ16世は、処刑の有無を問う国民議会に置いて、わずか1票差で死刑判決が確定してしまいます。
 何度か言葉を交わし、その人となりを心から尊敬していたルイ16世を自らの手で処刑しなければいけなくなったサンソンの苦悩は、想像を超えるものだったようです。
 若き日には伊達男だったというサンソンが、まだ貧しいお針子だった頃のデュ-バリー伯爵夫人(ルイ15世の公式寵妃)と火遊びをした過去があるにもかかわらず、その30年後、泣き叫んで取り乱す彼女を群衆の前で処刑しなければいけなくなったというから、運命とは皮肉なもの。時にデュ-バリー夫人50歳。
 ルイ16世の処刑後、いっきに恐怖政治へと突入する行き過ぎた革命のお陰で、ベテランのシャルル-アンリでも頭がおかしくなりそうなほど次から次に人々の首を刎ねなければいけなくなる顛末が淡々と綴られ、たまたま時代のドラスティックな変革期に居合わせた人たちの悲劇に身震いしてしまいます。そのサンソンの生涯をかけた願いが死刑反対で、死刑は廃止すべきというものでした。
 昨秋、同じ著者による「物語フランス革命」も出版されています。
[PR]
by cheznono | 2009-01-28 17:26 | 不思議の国フランス

マルタの優しい刺繍

b0041912_21234633.jpg 10月からロングランで、東京では先週末に上映が終わった「マルタの優しい刺繍」。スイスで歴史的大ヒットを飛ばしたというこの作品、日本でも2008年のミニシアター観客動員数1位と聞いて、最終日に観てきました。3ヶ月も上映されていたのだからとのんびり構えていたら、殆ど満席でびっくり。単館上映でこれだけ好評な作品なのは、高齢化社会の進む中で、伝えたいメッセージが明確だからでしょうか?
 スイスは女性と男性の平均寿命が8歳違うそうですが、主演を演じた80歳のマルタ役のシュテファニー・グラーザーが、実際はもう90歳近いというのも驚異的。はにかみがちな少女を思わせるとってもかわいい女性を極めて自然に演じていました。

 首都ベルンに近い美しい村で雑貨店を営んでいた夫を亡くして以来、マルタは半鬱状態。仲良し4人組の老女たちの中でも、心は上の空、牧師の息子夫婦にもさじを投げられています。
 仲良しのシングルマザー、リージと老人ホーム暮らしにうんざりしているフリーダ、半身不随の夫の介護をするハンニは、何とかマルタを励まそうと、かつて刺繍が得意だったマルタに合唱団の旗を修復する役目を回した所、きれいな布地を前に急にマルタの顔が輝き出します。若い頃、マルタは美しい下着の縫い子をしていて、いつかパリに出て、ランジェリーショップを開くのが夢だったのです。
 夫の残した雑貨店をランジェリーショップに変身させたいと夢見るマルタをアメリカ帰りというふれこみのリージが後押しします。すっかりその気になって、きれいな下着を縫い始めるマルタ。しかし、レースをふんだんに使ったブラやパンティをマルタのような老女が販売するなんて、はしたなくてとんでもない、と息子で牧師のヴァルターや村の青年団長フリッツは猛反対。そればかりか友達のフリーダやハンニまで、笑い者になるわと顔をしかめて反対するのでした。
 平和で保守的な村の生活ですが、それぞれが問題と直面しています。終止マルタを応援するリージは、その昔、愛する人を追って渡米し、一人娘を連れて村に帰って来たという過去に何か秘密がありそうだし、美容院を経営する彼女の娘は不倫中、ハンニの息子でマッチョの典型のようなフリッツは、嫌がる両親をホームに追いやろうとしています。
 そんな中、果たして80才のマルタは、無事にランジェリーショップをオープンして、繁盛させることができるでしょうか?
 
 この所、スイス航空で日仏を往復する機会が多いため、チューリッヒ空港で乗り換えするだけとはいえ、何となく親近感を感じていたスイス。金融危機までは裕福でモダンな小国というイメージだったスイスですが、意外に男尊女卑が強く残っていると聞いたことがあります。この映画を見ながら、目にしみるような緑の自然や家並みが美しい風景の影で、こんなにも古い価値観が当然のように息づいているのかと頭を叩かれたような衝撃を受けました。
 一緒に観た友達も現代が舞台とは思えなかったと言ってましたが、私もあまりにも保守的な男性陣には気分が悪くなるほど。価値観が古いわりに、二組の母息子のひやっとするような関係もラテン系の南仏などでは想像しにくい距離感です。
 けれど、マルタの挑戦で村のみんなのめちゃ固い頭も変化が見られる所に救いがあるし、最愛の伴侶を見送って何も手につかなかったマルタが、再び生き甲斐を見つけ、わくわくしながらランジェリーを作り上げる時の笑顔が素敵です。「年齢は関係ない、幾つになっても自分の夢に向かって前向きに挑戦し続けるべき」という力強いメッセージが、美しい村に快く響くラストでした。
[PR]
by cheznono | 2009-01-21 21:24 | 映画

去り行くイギリス人

b0041912_1561831.jpg
 ここ10年余り、好調な経済とポンド高を背景にフランスを初め、地中海沿岸の国に引っ越したり、別荘を買ったりしていたイギリス人たちが、金融危機のあおりを受けて、今やすっかりバブルがはじけた本国に続々引き上げているそうです。
 フランスで物件を探す英国人の姿が特に目立って来たのは、21世紀に入った頃から。もともと何度もフランス領になって来た大西洋側のペリゴール地方にはイギリス人社会があり、ボルドーからほど近い地の利や、独特の景観が人気で、この地方に家を買う英国人は多かったのですが、ここ10数年はトウールーズからモンペリエ、ピーター・メイルの影響を強く受けたプロヴァンス地方に別荘を求める人が倍増していました。ロンドンを初め本国の地価が日本のバブル期を越えて上昇したため、フランスやスペイン、イタリアなど温暖な国に住まいを求める人が増えた結果です。
 もしろん、19世紀からイギリス人の避寒地として注目されていたニースなど、気候の穏やかなコート・ダジュールで退職後の生活を送る人も多く、彼らの落とすお金で地元は潤ったのですが、お陰で地価はうなぎ上りに上昇。「2000万円で買った古家を更に2000万円かけてリフォームする英国人」が物件を買いまくったゆえ、南仏も住宅バブルに湧いて、気がつけばフランス庶民の手が出ない値段に跳ね上がったアパルトマンも多くなっていました。
 私も一昨年まではニースの町中で、不動産やさんに案内されてアパルトマンを探す熟年イギリス人カップルを何度も見かけたものです。そこへ金融危機が発生。250円近かったポンドは今やその半分に迫る急降下で、半年ちょっと前までの地下鉄初乗り1000円してたロンドンもぐっと暮らし易くなっているでしょう。
 しかし、年金で悠々自適のフランス生活を送っていたイギリス人には晴天に霹靂の経済変化に違いありません。1年前まで週に2回はレストランで外食し、お買い物に旅行にとフランス生活を謳歌していた彼らにとって、ポンドの急下落は超インフレと同じ。せっかく買った住宅のローンも重くのしかかっている場合はなおさらで、フランス暮らしに見切りをつけ、イギリスに戻る大脱出がちょっとした社会現象になっています。
 仏語を全然話そうとしない英国人たちが、せっせとお金を使ってくれるのはいいけれど、彼らが物件を買い占めたために地価が急上昇するのはありがた迷惑とぼやいていた地元の人は、去り行く彼らの後ろ姿を見ながら、今どんな気持ちでいるのしょう?
 ここ数年、耐え難きを耐えてポンド高やユーロ高を凌いで来た日本人滞在者は、去り行くイギリス人の気持ちがわかるような気がするのですが。
 写真はバレンタインデイの迫るロンドン。
[PR]
by cheznono | 2009-01-17 02:04 | 不思議の国フランス

マルセイユの決着

b0041912_2242271.jpg  あけまして、おめでとうございます。今年もどうぞよろしくお願い致します。
 さて、ニースで見逃してしまい、日本公開を心待ちしていた「マルセイユの決着」を大晦日に観て来ました。(お陰で、今年も大掃除は正月からというていたらく。)シアターNに入ってまず驚いたのは、観客の殆どが男性だったこと。日本でもフランスでも、これだけ女性の少ないシネマは初めてです。確かに、テーマはつかず離れずの距離を保ってきたギャング同士の義理人情ゆえに、そうそうたる出演メンバーも全て男性。唯一、モニカ・ベルッチだけが紅一点です。とはいえ、女性も充分に楽しめるエンターテイメントでした。この映画は、40年前に公開されたジャン=ピエール・メルヴィル監督の「ギャング」のリメイク作品だそうですが、往年のフィルム・ノワールと違って、とても分かり易い構成になっています。

 舞台は今から50年近く前のフランス。暗黒街の黒幕だったギュスターブが、若い受刑仲間に助けられて脱獄するところから始まります。着の身着のままパリへ逃れたギュ(ギュスターブ)は、亡き相棒の妻だったマヌーシュを訪ねますが、それは彼女の愛人が、理不尽なジョー・リッチに襲撃された夜でした。
 ジョー・リッチはギュの昔なじみヴァンチュールの弟。しかし、兄と違って仁義を欠いたジョーのやり口は、ギュを憤激させます。一方で、警察の切れ者ブロは、脱獄したギュを泳がせて、ギャングの一掃に結びつける機会を狙っていました。
 マヌーシュといい仲になったギュは、彼女の従兄を頼ってマルセイユに向かい、二人してイタリアへの亡命を企てます。けれども、ギュにはお金がない。折りも折り、ヴァンチュールから危険な金塊強盗の仲間入りを誘われたギュは、二つ返事で承知します。この強盗計画の裏には、ギュと旧知の仲の知的黒幕、オルロフの姿がありました。

 ヴァンチュールをリーダーにした4人の金塊輸送車襲撃計画はうまくことが運び、ギュは無事に分け前を手にします。が、彼をマルセイユまで追って来たブロ警視の術中にはまり、うっかりヴァンチュールの名前を出してしまいます。すぐさま捕えられるギュとヴァンチュール。ギュにとって、仲間を売ったと思われることは死よりも辛い屈辱です。囚われの身であっても、ギュは何とか汚名挽回を図るべく、自らのおとしまえをつける覚悟をするのでした。
 そして、ギュが兄を裏切ったと思い込んだジョー・リッチーたちは、ギュを消すようオルロフに迫ります。

 義理人情と仁義の世界を男の美学としているギュが、ヴァンチュールやオルロフという古き良き時代の大物たちとはほぼ同じ価値観を分かち合えるのに対し、私欲を肥やすためには手段を選ばない者や血気盛んな新参者とは対立するという図式は、日本のヤクザ映画にも共通する展開で、これは暗黒街ものの永遠のテーマなのでしょう。
 ギュがギャングとして活躍していた頃は、義理と仁義に厚かった筈の暗黒街ですが、彼が刑務所に入っている間に、しゃばの様子もだいぶ変わってしまい、ギュを失望させます。日本やイタリアのマフィアと違って、フランスは個人主義が染み付いているせいか、やくざものがあまり組織化しないで、一匹狼が多いようですね。その辺がフランスのフィルムノワールの面白さかもと思わせるシナリオです。
 主人公ギュはダニエル・オートイユといの一番に決まっていたらしいですが、その期待に充分応えたオートイユのポーカーフェイスなギャングぶりが決まっていて、2時間半が長く感じられませんでした。とはいえ、同じ一匹狼でも、護衛の警官を無情に狙撃するオートイユよりもやっぱり「あるいは裏切りという名の犬」の一徹な刑事役の方が好きですが。
 切れ者のブロ警視はこれもベテラン、ミシェル・ブランがエスプリの利いた端切れの良いセリフをポンポン飛ばして、楽しませてくれます。このストーリーをブロの立場から警察ものとして描いても、かなり面白いものができそうでは?と思いました。
 髪をブロンドに染め、長いつけまつげで時代を再現しているモニカ・ベルッチのマヌーシュも、極道の女っぷりを余すところなく発揮。堅気でない男から男へ、状況の変化に則して蝶のように相手を変えつつも、その時々の相手には誠意を尽くすいい女は、彼女のお手ものものかも。
 ギュと距離を置きながらも互いに一目置いているオルロフ(ジャック・デュトロン)の冷静なインテリ風ギャングも魅力的でした。自分からは能動的に動かないように見えて、ほしいものはきっちり自分のものにしている、あるいはしつつある所が彼のすごさですね。
  映像はカラフルだけど、時代を醸し出すレトロな雰囲気と携帯電話など想像もつかない頃の金塊強奪や警察の捜査ぶりなども興味深いし、手堅い作品に仕上がっているので、結構人を選ばずに楽しめるサスペンスではないでしょうか?
[PR]
by cheznono | 2009-01-05 23:00 | 映画