<   2009年 03月 ( 3 )   > この月の画像一覧

ダイアナの選択

b0041912_11160.jpg  輝く日差しの中、早くも《5月のバラ》が咲き始めたニースを後にして、先週、無事に日本に戻って来ました。帰国後の映画第一弾は、「撃つなら、私じゃなくて彼女を」とダイアナが言っていた(と記憶している)予告編が気になっていた「ダイアナの選択」です。「砂と霧の家」のパールマン監督の新作というのも魅力でした。
 コネチカット州の小さい町で鬱屈した高校生活を送るダイアナ(エヴァン・レイチェル・ウッド)は、自分とは対照的に品行方正な親友モーリーン(エヴァ・アムーリ)といつも行動を共にしていました。何かと反抗的なダイアナは、どうしようもない男と付き合い、クラスメイトに尻軽女と陰口をたたかれて落ち込みます。一方のモーリーンは、真面目で信心深く、奥手な女の子。
 二人の共通点は、どちらもシングルマザーの家庭に育つ鍵っ子という点くらいですが、なぜか気が合い、姉妹のように仲良しだったのに、ある時、二人の運命が決定的に別れる事件が起きてしまいます。
 高校のトイレにいた二人の元に銃を抱えた男子学生が押し入り、「二人のうち、どちらかを殺すけど、誰を撃とうか?」と究極の選択を迫るのです。教室では既に多くのクラスメイト達が犠牲になっていました。
 そして15年後。。美術史の講師として働きながら、哲学の教授と小学生の娘と何不自由ない暮らしを送っているダイアナ(ユマ・サーマン)ですが、高校銃撃事件の追悼記念日が近づくに連れ、言いようのない強迫観念に捕われて行きます。若き日の自分にそっくりで、予測できない行動に走る娘に振り回されながら、時折、フラッシュバックのようにモーリーンと過ごした高校時代が蘇って来ます。
 ヤクの売人だった男と別れ、生物の先生に諭されて哲学の講義を聴講し、《良心》についての意味深い話を聴いて、人生の方向転換を決めた17歳のダイアナ。その時の哲学の教授と結ばれて、理想的な生活を手に入れた筈なのに、つきまとう罪悪感のせいなのか、自らを追い詰めて行くような30代のダイアナの毎日。そして、事件の追悼記念の日、彼女は庭の花を摘んで、母校の式典に向かうのですが。。

 衝撃の結末、というふれこみは本当でしたが、終盤まで引き込まれて観ていたのに、何だか不可解なラストで、しばらく釈然としませんでした。一緒に観た友達と夕食を食べながらああでもないこうでもないと仮説を組み立てて、やっと「正しい結論」にたどり着いたのは食事が終わった後。ダイアナの思春期とその15年後が交差する構成は なかなか面白い試みではあったけど、一度で観客を納得させるにはちょっとムリがある展開ではないかしら。
 伏線はそれなりに張ってあり、《良心》のあり方を強調した哲学的教唆もあちこちに盛り込んでますが、17歳の高校生が否応なく迫られた生と死の選択の重さを描くには、もう少し構成と編集に工夫が必要かと。パールマン監督は、結末を知った上でもう一度観てほしいと言っていますね。
 コロンバイン高校を初め、近年、欧米で問題になっている銃乱射事件を重要な素材にしている割に、全く事件の動機や背景に触れてないのも残念です。未成年よるこれだけ残酷な事件を扱う以上、ただ二人の女子高生の運命を分けた要素として使うだけというのはいかがなものでしょう?
 高校生のダイアナ演じたエヴァン・レイチェル・ウッドは、とても美しく、自然な演技で、将来が楽しみな女優さんです。親友モーリーン役のエヴァ・アムーリ、誰かに似ていると思ったら、スーザン・サランドンの娘さんだったんですね。
 ともあれ、DVDになったら、ラストを頭に置いてもう一度観てみたい作品です。
[PR]
by cheznono | 2009-03-30 01:04 | 映画

b0041912_1405798.jpg
  3月初旬にカンヌ行き長距離バスに乗って、ヴィルヌーブ・ルベまで買い出しに出かけた時のこと、満員のバスの後ろの席で、携帯電話で夢中でしゃべっている女性がいました。初めは何だかいやにうるさいなと思いつつもさして気にしなかった私ですが、大声の会話は長々と続きます。
「だからねムッシュウ、あなたもソーシャルワーカーに相談するか、自力で見つける努力をして下さい!私だって子供二人抱えて必死なの。とにかくあと1週間しかないんだから、何とか住む所を見つけなきゃ」と穏やかならぬ内容に思わず振り返ってみると、声の主は40代くらいの普通の身なりのマダムでした。
  フランスでは11月1日から3月15日までの4ヶ月半の寒い期間、たとえ家賃を滞納しても、借家人がアパルトマンを追い出されることはありません。寒空に住居を追われ、急遽派遣村で年越しを余儀なくされるということは、フランスでは起こらないように法律によって規制されています。
 毎年、このアパルトマン強制退去停止期間が終わる3月半ばを心待ちにする家主と、途方に暮れて迎える家賃未納の借家人はかなりの数に及びますが、今年は金融危機の真っただ中。失業などで1ヶ月以上の家賃未納の所帯はなんと180万、そのうち深刻なケースは約50万世帯と言われています。
 事態を憂慮した住宅担当大臣が「強制退去停止期間が過ぎても借家人をホームレスにしない」と幾つかの対策を示して家主に呼びかけましたが、家賃収入を当てにしている家主側が聞く耳を持たないのは明らかだと、住まい退去に該当する世帯を支援する30余りのNPO団体が、3月初めからあちこちでデモを打っています。
 こうした支援団体は、未納借家人を住居から追い出さないことや高過ぎる家賃の是正を要求。強制退去停止期間の終わった先週はパリで山のようにマットレスを積み上げて、政府や家主に抗議を訴えていました。

 私がバスの中で聞いた会話は、その借家人退去停止期間が切れる1週間前。くだんの女性も子供二人と一緒に住まい退去を迫られているらしく、やっと電話の相手を説得して大声の長電話がすむと、また携帯を手に今度はさすがに声を落として話し始めました。「うちのお隣のムッシュウも困っていて、今電話で話したんですけど、、私は500ユーロまでなら払えますから、ワンルームで良いのでなんとか見つからないでしょうか?」フランスも住まいを借りる時には通常2ヶ月分の敷金を払わないといけないし、何年にも渡る給与証明や保証人を求められたりと賃貸契約にこぎつけるにはかなりの労力と資金が求められます。なので、いったん住まいを追い出されると次を見つけるのは至難の業。誰かの支援か補助がないとまず難しいのが実情です。
 「それにしても、個人的な深刻な話を、なんでバスの中であんな大声で電話してたのかしら?」といぶかう私に、同行の友達は「子供を抱えて自分が住まい退去の瀬戸際にいるということを皆にわかってほしかったんじゃないかな?」なるほどね。このひと言で、自分なら恥ずかしいからこういう話を公共の場所で電話するなんて考えられないと思った私は、とても日本的だったんだと思い知りました。
 普段は皆バラバラ、自分勝手に行動している人間の多い国という印象のフランスですが、困窮している人を前に団結する姿勢にはいつも関心させられます。30を越す支援団体が、借家人退去を止めさせようと全国で運動していることは毎日報道されているので、バスの中の女性も自分の問題を知らない乗客たちと分かち合いたかったのですね。あれからちょうど2週間、くだんの女性が無事に子供たちと新しい住まいに落ち着いていると良いのですが。。
  *写真だけは明るくマントンレモン祭。
[PR]
by cheznono | 2009-03-23 01:42 | 不思議の国フランス

b0041912_22441519.jpg
   カーニヴァルもミモザ祭りも中間ヴァカンスも終わったコート・ダジュールは今、祭りの後という感じ。今年のカーニヴァル“仮装舞踏会の王様”が大好評だったので、ニース市はご機嫌みたいです。経済危機の影響で客入りを心配していたのに、切符は順調に売れて例年より5%も売り上げが良く、120万人余りの観客がカーニヴァルを見物したとか。
 今年のカーニヴァルに繰り出した大山車は20台、山車にのった人形は合計220個で、人形の巨人の高さは最高で17mもありました。
 所詮はハリボテ大人形の山車のパレードとはいえ、今年は今までになく出来が良いという噂が口コミで広がって、観客動員数が増加し、カーニヴァルが大成功に終わったのは、暗いニュースが続くフランスで、二ソワ(ニース人)を元気づけてくれたことでしょう。今年はエコロジーを配慮して、イルミネーションをたくさん使う夜のフラワーパレードがなかったのが残念ですが、来年は更に環境に配慮して、テーマも”青い惑星の王様”と決まりました。 

 2月末には仏版アカデミー賞にあたるセザール賞が発表になり、大方の予想を裏切って「セラフィーヌ」”Seraphine”が計7部門の受賞に輝きました。20世紀前半、田舎町で黙々と家政婦をしている中年女性セラフィーヌが、実はたぐいまれな画才の持ち主で、その才能に気がついたドイツ人の画商に励まされるものの、戦争や世界恐慌といった時代の波に翻弄されてしまう悲劇を描いたこの作品、地味ながら口コミでその良さが広まって行ったようです。
 教養も社交性も社会性もない素朴なセラフィーヌが、でも独特な感覚で絵の制作に情熱を注ぐ姿を熱演したヨランド・モローが素晴らしかったので、クリスチャン・スコット・トーマス:“il y a longtemps que je t'aime(ずっと前から愛してたの)"や「悲しみよこんにちわ」のシルヴィー・テスチュなど、並みいる有力候補たちを押さえて主演女優賞に輝いたのは、本当に良かったなって思いました。
 映画の中で、家政婦として雇われたセラフィーヌが、涙を流して落ち込んでいる画商を見かけて話しかけます。「悲しいときはね、ムッシュウ、野原に出て花を眺めたり鳥の声に耳を傾けるのよ。そうすると、必ずいつの間にか悲しみが消え去って行くから。本当だからね」
 毎日、これでもかと流される国有化や減産、倒産、解雇などの報道が流れる中、春の日差しを浴びるアイリスやマーガレットやスミレを見かけると、セラフィーヌのこのセリフが聴こえて来そうな気がするこの頃です。
[PR]
by cheznono | 2009-03-08 22:43 | フランスの四季