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b0041912_1501711.jpg アカデミー賞8部門受賞に輝いたダニー・ボイル監督の「スラムドッグ$ミリオネア」、冒頭からラストまで、息を呑むような展開で、すごく面白い作品です。しかし、日本でもフランスでもお馴染みの番組クイズ・ミリオネアが、舞台をインドに移すと、こんなにも別世界に通じているとは。。
 インド政府は、インドはこの作品に描かれているような国ではないと、映画上映に抗議をしたそうですが、大きく経済成長にしているインドが隠したい悲惨な現実が盛り込まれているが故に、お伽話的なストーリーに、厚みとリアリズムを持たせていると感じられました。
 ムンバイ出身で18歳のジャマールが、警察で拷問を受けています。インドでも大人気の番組クイズ・ミリオネアに出場した彼は、どんどん勝ち進み、ついに今まで誰も到達したことがない最高賞金獲得一歩手前まで勝ち残ったのに、その夜、番組司会者の通報によって警察に拘留され、不正を白状しろと拷問攻めにされてしまったのでした。
 学校にも通わず、自力で成長したスラム出身のジャマールが、なぜ出された問題を次々に正解して、最終まで残れたのか?警察官の疑問に、ジャマールが自らの壮絶な生い立ちを語り始めます。
 貧しい暮らしの中、宗教対立で母を殺されたジャマールと兄サリーム。同じく孤児になった少女ラティカと知り合い、幼い3人でその日暮らしをしていると、ある時、孤児の面倒を見ているという男に拾われます。森の中で男達との共同生活が始まりますが、大人達の危険な目的に気づいたサリームの機転で、3人は命からがら逃げ出します。しかし、逃亡の途中でジャマールはラティカと離ればなれになってしまうのでした。
 裸足で無一文のサリームとジャマールは、でも知恵と機転をフルに利かせて、逞しく生き抜きます。こうした過酷な経験の中で、番組の問題に正解する知識が否応なくジャマールの身に付いたことが、だんだんと警察官にもわかって来ます。
 互いに助け合って成長した利発な兄弟でしたが、純粋で一本気なジャマールとタフでプラグマティックなサリームは、ある出来事を巡ってたもとを分ち、今や消息も知れません。そして、ジャマールの心の中には、いつも初恋の人ラティカの面影がありました。
 一問答えるごとにフラッシュバックで彼の過酷な成長期が語られ、観客は凄まじい過去を追体験しながら、やがて、ジャマールはなぜクイズ番組への出場を決めたのか?果たして彼は最終問題に答えてミリオネアの賞金を手にできるのか?そして、ラティカへの思いは?という疑問が頭をかすめ始めるでしょう。そうした疑問が解き明かされるラストへの持って行き方もとても上手くできています。
 お伽話のようでありながら、インドの貧困や社会問題、宗教対立などを盛り込んで、純愛と絡めている手法はエンターテイメントとして出色の出来だし、作品全体からインドの持つエネルギーや逞しさ、まさに高度成長期にある国の勢いが伝わって来ます。
 一緒に観たニースの友達は、ものすごく期待していただけにちょっと作り過ぎが気になったと言ってましたが、そうした面も含めて、私には映画の魅力にあふれた作品に思えました。
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by cheznono | 2009-04-27 15:00 | 映画

b0041912_187463.jpg 首を長くして待っていたレッドクリフ2、早速観て来ました。さあ、赤壁の決戦だと思ったとたん、エンドロールが流れたパート1から半年、トニーレオンと金城武の知能戦が見物の歴史スペクタクルのクライマックスだから気合いを入れて観に行ったけど、結論からするとちょっとやり過ぎ、長過ぎかなと思います。でもまあ中国歴史劇の香港+ハリウッドアクション版としてはそれなりに見応えがあるといえるでしょう。
 3世紀初め、80万の兵に2000隻の軍船を率いた曹操は、長江の南岸・赤壁に陣を張って、対岸の劉備+孫権軍わずか5万を狙い、余裕を見せていました。孫権のお転婆な妹は、男装して曹操軍のスパイとして潜り込み、風土に慣れない兵士達が疫病で苦しんでいることを諸曷孔明(金城武)に伝えます。
 孫権の策略で対岸の劉備+孫権軍にも疫病が蔓延し、覇気をそがれた劉備は兵の撤退を宣言して、孫権軍を失望させます。でも、劉備の軍師孔明はその場に残り、孫権軍の知将周瑜(トニー・レオン)と共に曹操を迎え撃つ決意を示します。 
  この辺りから、圧倒的多勢の曹操軍に、無勢の孫権軍を率いる周瑜と孔明の戦略合戦が展開され、二人の知恵比べが緊張感を伴って楽しめます。焦る仲間達を尻目に、雲の動きで天候を読み、風向きを推測して作戦を編み出す孔明の自信に満ちた表情が清々しいし、周瑜も大きな賭けに出て、曹操軍はまんまとその罠にはまります。
 その頃、懸命に戦略を練る男達を見ていた周瑜の美人妻・小喬(リン・チーリン)は、単身長江を渡っていました。曹操が自分を手に入れたいがためにこの侵略を決めたらしいと聞いて、人質になる危険性も顧みず、曹操に面会に行ったのです。小喬の行動を知って、動揺する周瑜たち。そして、大決戦目前の夜が始まりました。
  いよいよ火ぶたが落とされた水上戦は、ジョン・ウー監督らしい華々しさで、次から次に爆弾が炸裂。この時代にいくら何でもという戦いぶりでやり過ぎ感が否めないけど、アクション好きには面白いかも知れません。
 孫権の妹が下手なスパイとして活躍したり、決戦直前に小喬がいきなり対岸の曹操に会いに出かけたりと首を傾げる展開が気になっていたら、水上戦のラストもかなり笑えるシナリオだったので、これはもう歴史物として観るよりも、エンターテイメントとして割り切るしかないですね。
 なので、個人的にはやっぱり前編の方がわくわくしたけれど、パート2は前編を逃した人にもわかり易いストーリーだし、美男美女による娯楽アクション映画としなら充分楽しめることでしょう。 
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by cheznono | 2009-04-22 18:14 | 映画

ミルク Milk

b0041912_2193539.jpg  この作品には映画の魅力が全て詰まっている、と殆どのフランスメディアが絶賛した「ミルク」。やっぱり観ておいた方が良いかなくらいの軽い気持ちでしたが、ショーン・ペンがオスカーを獲得したのもむべなるかなで、ハーヴェイ・ミルクの人柄にすっかり魅了されてしまいました。

 1972年、ニューヨークでサラリーマンをしていたミルク(ショーン・ペン)は、20歳下のスコット(ジェームス・フランコ)をナンパして、同棲を始めます。サンフランシスコのホモセクシャル街に引っ越してカメラ店を営み、仲間達からも慕われた二人ですが、ストレートの隣人たちから露骨な差別を受けたのをきっかけに独自の商工会を結成します。
 同性愛者だけでなく、黒人や工員、老人達など当時のアメリカにおける社会的弱者を支援するミルクは、共感した多くの仲間たちから支持されて、政治的活動へと入って行きます。勢いに乗ってサンフランシスコ市の公職に立候補したミルクは、落選しても諦めず、何度も選挙に挑戦します。しかし、ミルクの最大の理解者だった筈の愛するスコットは、政治活動と選挙にのめり込むミルクに別れを告げるのでした。
 4度目の挑戦でついに市政執行委員に当選したミルク。史上初のカミングアウトした執行委員であるミルクは、地域のカリスマ的存在になっていましたが、同僚で保守派のD・ホワイトは、そんな彼の人気と活躍を屈折した目で見ていました。

 表情や手の動き、声音など細部にわたってミルクになりきったショーン・ペンが素晴らしく、観客にミルクの人間性を強く印象づけてくれます。ともかく、ミルクの人柄がとても人間臭く、内面の葛藤は外に出さずに、いつもにこやかで暖かいのが素敵です。スコットに「40歳になるのに、人に誇れることは何もして来なかった」と耳に痛いようなセリフを呟くミルクですが、それから48歳で射殺されるまでの活躍には目を見張るものがあります。
 ニューヨーク時代は家族にもゲイであることを隠していた彼が、差別や偏見を是正するためには誰かが代表となって立ち上がらなくてはいけない、という強い責任感で突き進む活動家に変わって行く姿が丁寧に描かれています。
 ミルクの交際相手が何人も自殺しているのは、当時のアメリカ社会がいかに保守的だったかという証で、「ブロークバック・マウンテン」の二人が一目を避けて逢瀬を交わした頃から10年後、同性愛に対する人々の価値観が多様性を受け入れる方向へと変化して行くには、ミルクのような存在が不可欠だったことがわかります。ホモセクシャルの人々に限らず、ミルクは時代や社会が必要としていた人物に違いありません。
 主題にあまり興味が持てないという人にもお勧めの秀作です。
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by cheznono | 2009-04-14 21:26 | 映画

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   3月半ば、路線バスに乗ってニースの町中に向かう途中、見るからに陽気なムッシュウが乗り込んできました。ムッシュウは切符も買わずに運転手さん脇の乗り口付近に立ったまま、ほぼ満員の乗客に向かって朗らかに挨拶しています。そして突然、手を口元に当てたムッシュウは、大きな身体に似合わぬ高い裏声を出してヨーデルを披露。まあまあ上手かったけれど、えっそれだけ?というくらいあっという間に終わってしまったので、拍手する乗客は皆無でした。
 ヨーデルが終わるとムッシュウはまた明るい声でしゃべり始めました。「このご時勢で収入もなくてね、サルコ(サルコジ大統領のこと)はあーだこーだ言ってるけど、こちとらにはちっともお金が入りゃしませんよ。皆さん1ユーロ、寄付してもらえませんか?」巧みな話術にバスの乗客はクスクス笑っています。「誰か恵んでくれないとこのバス代の1ユーロも払えないんですから。どうですか、そこのべっぴんさん?」そう言われた若い女性もにやにやするだけなので、ムッシュウはいっこうに1ユーロを稼ぐことができません。
 そうこうするうち、バスはニースの中心地に到着、気がつくと目の前のバス停には制服姿の検札係が4、5人、前のバスから降ろした乗客をチェックしています。1ユーロ(約135円)でもチケットを持たないでタダ乗りする乗客は後を絶たないため、時々不意打ちの手入れがあるのはフランスの習わしですが、ニースは結構頻繁にこうした監査が行われています。
「ヤバイ、切符の検査だ!」ずっと運転手さんの横に立ったまま終始にこやかだったヨーデルおじさんが叫びました。確かにこれはまずいよね、無銭乗車のヨーデルおじさん、人が良さそうだから捕まったらかわいそうだなと、人ごとながら私もにわかに心配になりました。でも、いつもならバスが停車するのを待ちかねている検札係達が、その日は前のバスで見つけたタダ乗り乗客達の住所氏名を確認に忙しく、私たちのバスが停車しても踏み込んで来る気配がありません。
 「しめた、検札係さんたちは忙しそうだね。じゃあ、そのスキに俺はずらかるさ。皆さん、Au revoir!」運の良いムッシュウ、バスが停車したとたんに乗り口から飛び出て、商店街の向こうへと走り去って行きました。
 路線バスは前の乗り口から乗って、手持ちの切符か運転手さんから買った切符を自動改札機に入れるのが原則ですが、バスの中央や最後尾にある降車口から乗り込む人も数多くて、タダ乗りは簡単です。運転手さんはヨーデルおじさんのような無銭乗客を目の当たりにしても何も言わないことが多いし、検札係の監査にぶつからない限り乗り得には違いありません。
 ただし、一度検札係に見つかれば、罰金は運賃の40倍、例え切符を持っていても自動改札機に通してなければ、やはり高い罰金を徴収されてしまいます。しかも、その場で罰金が払えない場合、更に38ユーロの手数料もかかるので、タダ乗りの代償はかなり痛いことに。特にフランスがヴァカンス期間のニースのバス、トラムはご用心です。
*写真は民族音楽を披露するネイティブ・インディアンたち
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by cheznono | 2009-04-05 22:55 | いつもの暮らし