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愛を読むひと

b0041912_193148100.jpg 原作の「朗読者」は世界的なベストセラーで、ケイト・ウィンスレットがアカデミー賞主演女優賞などを獲得した作品ということで、心待ちにしていた「愛を読むひと」、期待通り、深い余韻を残す重厚な人間ドラマでした。
 1958年のドイツで、15歳のマイケル(デヴィッド・クロス)は雨の中、気分の悪くなった自分を家まで送ってくれた女性、36歳のハンナ(ケイト・ウィンスレット)に惹かれ、やがて男女の仲に。
 ハンナに夢中になったマイケルは、放課後になると足しげくハンナのアパートに通い、ハンナはマイケルの教科書に興味を持って、毎回、本の朗読をせがむようになります。マイケルの朗読が愛を交わす前の儀式のようになる二人。でも、トラムの車掌だったハンナが、精勤ぶりを買われて事務職に昇進が決まったとたん、彼女はこつ然とマイケルの前から姿を消してしまうのでした。
 6年後、法科生として教授やクラスメイトとナチスの戦犯裁判を見学したマイケルは、被告席にハンナの姿を見て、絶句します。戦時中、ハンナはユダヤ収容所の看守として働き、多くのユダヤ人を死に追いやった罪を追求されていました。
 同僚だった元看守たちの不利な証言で、無期懲役を言い渡されるハンナですが、マイケルは彼女がある秘密を隠したいがために、あえて判事の宣告を受け入れたことに気がつき、苦しみます。
 そして、ハンナの罪を軽くする秘密を公けにする代わりに、彼は刑務所に文学作品の朗読テープを送ることを思いつくのでした。

 映画は弁護士となったマイケル(レイフ・ファインズ)が甘くて苦い青春の思い出を回想する形で展開します。丁寧に描かれた出会いとひと夏の甘い経験。その後、思いもかけずに突きつけられるハンナの過去と、彼女の苦い選択。そのわけを理解していながら、刑の軽減につながる証言をするよりも、本人の意思を尊重する方を選ぶマイケルに扮した新人のデヴィッド・クロス、なかなかの熱演です。
 恐らく貧しさ故に充分な教育が受けられなかったハンナが、生きて行くために応募した仕事の内容が、実はユダヤ人をガス室に送るという残酷なものだったにせよ、ナチズムのさなかにおいては自分の任務にさして疑問を感じなかったハンナが、戦後20年以上経った裁判後は、過去の行為について考えるようになったという点に戦時中の特殊なムードや洗脳の怖さを強く感じさせられます。
 素朴で、あまり喜怒哀楽を表現せず、でも教養に飢えていたハンナを演じきったケイト・ウィンスレットはさすがの貫禄で、その悲しい生涯に一瞬の輝きをもたらした若いマイケルとの逢瀬の記憶が、ハンナの厳しい表情に女性らしさを漂わせる辺りもとても上手でした。 
 マイケルが自分の娘に、「今まで自分は誰に対しても心を開いて来なかった」と打ち明ける場面や、父親の葬式の時でさえ生まれ育った町に戻ろうとしなかった程、「この町には辛い思い出があるから」と母親に言い訳する場面に、ハンナとの恋愛と彼女の裁判のゆくえがマイケルの人生に与えた影響の計り知れなさを表していて、とてもせつなく、そして重い作品です。
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by cheznono | 2009-06-30 19:33 | 映画

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  最近、海辺でトップレスになる女性が減ったのはなぜ?先週フランス2のニュースで思わず目が釘付けになった話題です。テレビの取材に答えていたのは、ニースの浜辺で日光浴をするビキニの女性たち。「トップレスになるのは恥ずかしい」と口を揃えていたので、さすがのフランス女性も結局そう言う結論にたどり着いたのねと苦笑してしまいました。

 初めてフランスに遊学した年の夏、ステイ先の大学生が、兄弟従姉妹たちとそれぞれのパートナーたち8人でヴァカンスを過ごしたカナリア諸島から戻った時、私の反応を伺いながら言いました。「浜辺に着くと、兄貴の彼女も従姉妹たちもみーんなトップレスになって、平気で日焼けしてたんだよ」
 恋人と二人きりならともかく、従兄弟たちのいる前でトップレスになるなんて、とてもついて行けない感覚じゃ、と思った私が、「恥ずかしがってなかったの?彼女たちの彼氏は何も言わなかったの?」と聞くと、「ぜーんぜん。なんで日本人は恥ずかしがるわけ?」と返されたので、「奥ゆかしいからよ」と言うと鼻で笑われたものでした。

 まだスペインが厳格なカトリック社会だった頃、女性の水着はワンピースと決まっていたのに、ビキニ姿でプールで泳ぐフランス娘二人を見つけた監視員が、「マドモワゼルたち、ここではビキニは禁止だよ。ワンピースで泳がなきゃ」と注意すると、きゃきゃっと笑った彼女たち、「いいわよ、ワンピースにするわ。で、どっちをはずしたらいいかしら?上の方?それとも下の方?」と聞き返したという小話は、実話だったりして?
 もっとも、毎年夏にセーヌ川沿いに設置される仮設ビーチ:パリ・プラージュでは、トップレスは禁止だそうですね。

 だんだん、庭でスッポンポンで日光浴をするマダムの存在にも驚かなった頃、コート・ダジュールに移ったら、案外海岸にトップレス女性が少ないのが意外でした。
 去年の夏、海水浴が苦手な私が珍しく友人につき合ってアンティーブの浜辺に出向いた所、「胸を焼いても気にしない?」って友達が遠慮がちに聞くので、きょとんとしたら、「胸を見せたら、日本人のあなたには不快かも知れないと思って」とのこと。「大丈夫、大丈夫」と言う私に、彼女は安心したようにビキニの上を外して転がっていました。「こんなに白いままヴァカンスを迎えるわけにはいかないわ」と言いながら。

 ともあれ、先週のニュースによると、今やフランス女性の8割が慎み深くなって、トップレスは恥ずかしいと感じているとか。ニースの海岸で取材されていた若い女性は、「トップレスなんて、ママたちかそれ以上の世代じゃない?」と笑っていたし、皮膚がんの危険も注目されている今、もはやトップレスは減少の一途にあるようです。「男性を魅了するのに何も全部見せる必要はありません」とアナウンサーは締めくくっていましたが、そもそもこんな話題が報道ニュースで取り上げられること自体、やっぱりフランスらしいのかも知れませんね。
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by cheznono | 2009-06-22 22:25 | 不思議の国フランス

夏時間の庭

b0041912_17173964.jpg フランス人よりもアメリカやイギリスの友達から「もう観た?とても良かったよ」というメールをもらった「夏時間の庭」、庭の新緑の香りがスクリーンの向こうから漂って来るような、心温まる作品でした。
 イル・ド・フランスの小さな町に住む母親の誕生会に集まった三人の子供と孫たち。久しぶりに集合した家族を前に、75歳を迎えた母エレーヌ(エディット・スコブ)は、著名な画家だった叔父ポールの画集に目を輝かします。叔父ポールの旧アトリエに暮らすエレーヌは、叔父が遺した作品や収集品の世話を生き甲斐にしていたるのでした。
 エレーヌは、パリに住む長男フレデリック(シャルル・ベルリング)に自分亡き後の家の処分と美術品の寄贈を頼みますが、将来も家族の家として守って行くつもりのフレデリックは耳を貸そうとしません。
 帰途に付くみんなを見送った後、「私が死ねば、家族の秘密も何もかも消えて行くの」とつぶやくエレーヌ。「子供たちの重荷にしたくはないわ。彼らにはそれぞれの人生があって、私の人生ではないのだから」という通り、長女のアドリアンヌ(ジュリエット・ビノシュ)はアメリカでデザイナーとして活躍中、末っ子のジェレミー(ジェレミー・レニエ)は中国勤務で、二人とも今やフランスで過ごす時間はごくわずかです。
 ポールの回顧展が無事済んだのを見届けたエレーヌが急逝し、子供たちは思いのほか早く、家と美術品の相続に直面します。唯一フランス在住のフレデリックは、愛着のある母親の住まいを守って行くつもりですが、海外に住むアドリアンヌとジェレミーは兄の思いを気遣いながらも家の処分を提案するのでした。
 
 そうした中で、母エレーヌが抱えたままだった《秘密》もあっさりと露呈し、子供たち三人は複雑な感情に包まれますが、それも全て過去のこと。
 母の死と共に家族の思い出の家が人手に渡り、自分たちの人生の大きな一部分が幕を閉じたのを、長男はとても感傷的に、でも妹と弟は新しい生活のスタートの追い風のように受け止めているのも興味深いし、そうした子供たちの反応を全て見越していたエレーヌには感服するばかりです。
 おのおの社会的に成功し、それぞれパートーナーと幸せな生活を築いていて、付かず離れずの三人が互いを思いやる様子はとても微笑ましく、観ている者を温かい気持ちにさせてくれます。
 母が言い残した通り、オルセー美術館への寄贈が決まった大叔父の収集品は、アールヌーヴォーで知られるナンシー派の家具や調度品が中心で、緑豊かな庭のある一軒家の生活用品として溶け込んでいたのに、いざ美術館で一つ一つオブジェとして展示されるとまるで別の品のよう。家具として、調度品として実用的に活用されるのと、美術館に鎮座して世界中の人々に見つめられるのと、果たして作品としてはどちらが幸福なのでしょう?
 監督は「パリ・ジュテーム」のオリビエ・アサイヤス。19世紀のアーティストたちへのオマージュをこめて、フランスの魅力を美しく映像化した手腕はたいしたものですね。芸術家や貴族の多いフランスで、こうした美術品を抱えている大きな家はまだたくさんあって、それぞれが歴史や物語を持っていると思うと、何だかわくわくしてしまいます。
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by cheznono | 2009-06-12 17:21 | 映画

b0041912_17453142.jpg  香港、台湾、中国で絶賛された話題作「ウォーロード/男たちの誓い」、《中国戦史絵巻の中でも最高級の質を持つ作品の一つ》という殺し文句に惹かれて見て来ました。内戦をテーマにしているだけあって、立て続けの戦闘シーンの凄まじさには参ったけれど、三義兄弟のそれぞれがくっきりと描かれていて、役者もそれぞれ素晴らしいので、ラストまで息を詰めて見入ってしまいました。
 19世紀後半、アヘン戦争の末に勃発した太平天国の乱は14年も続き、その間2000万人を越す犠牲者を出した大内戦だったそうです。その戦いの中、部隊の中で唯一生き残ったパン(ジェット・リー)は、山間をさまよううちに盗賊の頭アレフ(アンディ・ラウ)とその弟分ウーヤン(金城武)に出会います。
初めは清朝の将軍だったパンを仲間に入れることを拒否するアレフですが、侵略者の襲撃をきっかけに、義兄弟の契りを交わすなら、パンを仲間に迎えようと提案します。
 「互いの命は己の命と同じと見なす」という投名状に誓いを立てた3人は晴れて義兄弟となり、パンの主導で盗賊から足を洗い、生き延びるために清朝廷側に従軍することを老中らに申し出ます。
その結果、義兄弟の率いるにわか軍隊は死に物狂いで次々に敵を倒し、彼らを見くびっていた清朝の老中達を認めさせた上に西太后の信頼も得ながら、進軍して行くのですが、難攻不落の蘇州城での戦いを巡って、パンとアレフの間に亀裂が生じます。
 太平天国の乱そのものの鎮圧という大きな目標を持って任務を遂行してゆくパンに対して、義と仲間を重んじるアレフ。二人を慕うウーヤンはその純粋さゆえに一途に投名状の誓いに忠実で、状況に柔軟に対応することが出来ません。
 しかも、尊敬しているパンが実はアレフの妻リーエン(シュー・ジンレイ)と情を通じていたことを知って、愕然とするウーヤン。蘇州に続いて南京も攻落した三義兄弟でしたが、老中たちとパンという朝廷側おのおのの思惑が義兄弟の不協和音を高め、ウーヤンに不吉な予感をもたらすのでした。

 CGを駆使した「レッドクリフ」のハリウッド的なアクションと違って、「ウォーロード」の戦闘シーンはぐっと生々しく、それだけに戦争のもたらす悲惨さが強く伝わって来る作品です。加えて同国人同士が敵味方に分かれて殺し合う内戦のため、より救いようのない虚しさが漂います。
 山あいの盗賊を戦士軍団に仕立てて指揮を取り、野望を膨らませて権力に近寄ってゆくパンを横目に、仲間を第一に思うヒューマニストのアレフの心情は最後までぶれず、二人に絶対的な信頼を寄せるウーヤンの一本気さも悲しいくらいです。ただ、彼ら三義兄弟がきちんと描かれているのに、紅一点のリーエンの描き方がちょっと中途半端なのが残念に思えました。
 しかし、反戦のメッセージははっきりと伝わって来ますし、活躍目覚ましいパンの軍隊も結局は老獪な老中たちの手のひらの上で踊らされていたに過ぎなく、生まれた時代と祖国の動乱に翻弄された男たちの悲劇がやるせなくて、見終わった後もしばらくは気持ちが沈んだままでした。
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by cheznono | 2009-06-05 17:46 | 映画