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ココ・シャネル

b0041912_1312427.jpg  シャネル・ブームの今年、その第一弾としてシャーリー・マクレーン主演の「ココ・シャネル」を観ました。フランスではテレビ映画として放送された作品です。
 20世紀の初め、修道院で成長したシャネルが、恋愛を肥やしにしながら独学でデザイナーとして成功して行く過程を、70歳過ぎてから現役に復帰した本人が振り返るという構成で、ココ・シャネルの人生を知る入門編として楽しく鑑賞することが出来ました。同じように不幸な生い立ちから実力一つで成功し、でもシャネルより40年も短い生涯を送ったエディット・ピアフの生き方と比べても面白いと思います。

 片田舎の修道院を出た18才のシャネル(バーボラ・ボブローヴァ)は、お針子としてオートクチュールのお店に就職し、センスの良さを発揮します。そこで知り合った上客の将校エティエンヌ・バルサンに誘惑され、彼の持つ城で暮らし始めますが、身分の違いから正式な恋人として認められないことにいらだちを感じるのでした。
 バルサンの元を飛び出し、パリで帽子デザイナーとして自立する道を探る中で、バルサンの友達で英国人の実業家ボーイ・カペルと激しい恋に落ちたシャネル。彼の援助で開店した帽子のブティックは大好評で、翌年にはドーヴィルに2号店を開き、やがてシャネルはドレスのデザインにも才能を発揮します。
 しかし、彼女が最も愛した男と言われるボーイ・カペスは、第一次世界大戦に従軍。終戦後、二人には甘い生活と輝ける未来が待っているかのように見えたのですが。。

 男性中心社会で女性が実業界で活躍することなど殆ど考えられなかった時代に、恵まれない生い立ちをものともせず、類いまれな服装センスとクリエイティビティ、そして実行力で、デザイナーとして独り立ちして行くシャネルの若き日々がテーマには違いありませんが、私はもっぱら恋愛映画として引き込まれました。
 あの時代に若い女性がお店を開くには金持ちの男性の援助なしには不可能に近かったのでしょうが、シャネルは男を利用したのではなく、恋人が心底投資したいと思わせるだけの魅力と実力を兼ね備えていたのですね。
 どうも英国の富豪の議員の息子というイメージではないと思ったボーイ・カペス役のオリヴィエ・シトリュクは、ニース生まれのフランス人で、英語が上手いし声がとても素敵でした。
 それにしても、ひときわプライドが高く自立心の強いシャネルの強靭な精神力には圧倒されます。愛する男に裏切られても毅然として事実を受け入れるし、自分に戻って来た男が事故死しても、喪服をモードを生かす逞しさ。お酒や麻薬で自己破壊に向かって行ったアーティスト達とは対照的な強さでしょう。太く長い87歳の人生もゆえなるかな。
 この作品はデザイナーとして認められるまでのシャネルの若き日々から、いっきに15年のブランクの後の70歳のカムバックを描いていますが、どうも彼女の人生は今回完全に抜けていた30代から50代後半まで波瀾万丈だったらしいので、これから公開されるシャネル映画を観てみないことには総括的に理解できません。とりあえず、「ココ・アヴァン・シャネル」が楽しみですが、題名からするとこちらもシャネルの若き日々が主題なのでしょうか?
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by cheznono | 2009-08-26 01:38 | 映画

セントアンナの奇跡

b0041912_1345361.jpg これはとても衝撃的な映画でした。見終わった後もはっきりと現実に戻るまでかなり長い時間を要したほど。でも観て本当に良かったと思います。スパイク・リー監督の大作「セントアンナの奇跡」は、強い反戦映画であると同時に言葉の違いを超えた人間ドラマであり、更に反人種差別やミステリーなどさまざまな要素を実にうまく料理した作品で、2時間43分を長く感じることはありませんでした。
 
  1984年のニューヨークで、定年間際の郵便局員が窓口に切手を買いに来た男を問答無用で射殺。凶器に使われたドイツ製の古いピストル、犯人の部屋から出て来た国宝級のイタリアの彫像の頭。真面目な黒人の局員がなぜ突然発砲したか?黙秘を続ける男の記憶は40年前の戦場に遡ります。
 1944年のトスカーナ、既に連合国軍に降伏していたイタリアの各地を占領しているドイツ軍を追い払うべく進軍したアメリカ軍の黒人部隊が、白人指揮官の差別的な戦略の犠牲になり、生き残った4人の黒人兵士が命からがら山あいの鷲ノ巣村に逃げ込みます。途中で助けた8歳のイタリア少年アンジェロの身の安全を優先した結果でした。
 4人の兵士たちは黒人への偏見がない村人たちの間で居心地の良さを感じますが、やがてパルチザンたちがドイツ人の脱走兵を捕虜にして、村へ戻って来ます。ドイツ人捕虜はアンジェロを見て、なぜか泣いて喜びますが、アンジェロは緊張を隠せません。「ヤツが怖いのか?」黒人兵がアンジェロに尋ねると、首を振って、「本当に怖いのはあの人」と別の誰かを指差すアンジェロ。
かくて、ドイツ軍に半ば包囲されている村で、パルチザンとファシストの入り交じった村人たちに、アメリカ兵4人と少年アンジェロ、そしてドイツ人捕虜いう奇妙な共同生活が始まるのですが、それはあっという間に終わりを告げてしまうのでした。

 スパイク・リー監督は前半、黒人部隊とナチスドイツ軍の激戦に長い時間をかけて、当時のアメリカで黒人兵の置かれた立場を描き、彼らが直面していた救いようのない差別が浮き彫りにされます。その後、偏見のないイタリア人たちとの触れ合いと対比して、オバマ大統領の登場した現在もまだ色濃く残る人種差別の無意味さを描く手法はさすがと思いました。
 何よりショックだったのは、ドイツ兵がイタリアの民間人を容赦なく殺してしまうことでしたが、当時、パルチザンによるナチス攻撃に手を焼いたドイツ軍は、報復処置として多くの民間人を殺害していたのですね。
 そんな戦況でもナチスの戦略に疑問を感じ、良心を失わないドイツ兵がいたし、過酷な状況の中でも言葉の通じない少年を命をかけて守る人々がいたということがやがて奇跡に通じるところに、この作品の暖かさが強くにじんでいます。それにしてもなんと史実の惨いこと。この映画を観なかったら、一生知らないままでいたかも知れない事実には戦慄を覚えます。
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by cheznono | 2009-08-19 01:36 | 映画

湖のほとりで

b0041912_18135899.jpg フランスのセザール賞に当たるというイタリアのドナッテロ賞で主要10部門を総なめにしたという作品、「湖のほとりで」。連日ほぼ満席と言う人気なので、かなりドラマチックなミステリーかと思いきや、実際にはとても静かでリアリズムに満ちた人間ドラマでした。
 
 北イタリアの静かな村にある湖のほとりで、美しい娘アンナの全裸の死体が発見され、この地方に赴任したばかりの警部サンツィオ(トニ・セルヴィッロ)と助手が捜査を始めます。なぜ、若くスポーツウーマンだったアンナが全く抵抗せずに死を受け入れたのか?なぜ、全裸の遺体に上着がかけられていたのか?
 小さな村では皆んながアンナと顔見知りで、村人達の証言からアンナの日常が浮かび上がってきます。湖の近くに住む知的障害者の息子と車椅子の父親。アンナから秘密書類を預かっていたボーイフレンドのロベルト。次女アンナを溺愛していた父親。アンナが所属していたアイスホッケーチームのコーチ。
 物静かで内向的な警部は、アンナがベビーシッターをしていた幼いアンジェロが急死してから、アンナの様子が変化し、その両親も離婚していたことに注目します。
 サンツィオ自身、思春期の娘フランチェスカとしっくりといかず、その理由がアルツハイマーで入院しているサンツィオの妻が家族の顔も見分けられなくなっていることにあるのですが、苦い胸のうちを打ち明けられる相手もいません。
 娘の顔も忘れてしまった母親にフランチェスカを会わせることができないでいるサンツィオは、アンナも家族に重大な秘密を隠していたことを知って衝撃を受け、家族の関係や親子関係の距離感に思いを馳せるのですが。。

 湖のほとりで見つかった美少女の遺体がまるで絵画のようで幻想的にも見え、それが、ラストの謎解きにどうもイメージがぴったりと結びつかないため、あまりすっきりした気持ちで席を立ち上がることができませんでした。でも、この映画にサスペンスはさして重要ではなく、警部が薄紙をはぐように明らかにしてゆく村人達の深層心理や、とりわけ故アンナの思いが観客に伝わって来る過程が見所と言えるのでしょう。
 私は何よりも北イタリアの美しい自然を初めとした映像の美しさと、非常に抑制された演出に惹かれます。個人的には心打たれる作品ではなかったけれど、ひたすら自分の足で村を歩いて情報を集めるサンツィオと共に、北イタリアの山間の村の日常に入り込んだような1時間半でした。 
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by cheznono | 2009-08-08 18:15 | 映画

フランスと識字率

b0041912_1555949.jpg 「愛を読むひと」は欧州の識字率について考えさせられる映画でした。そして、昔むかし読んだ英国人作家ルース・レンデルの「ローフィールド館の悲劇」を思い出したりしました。
 この春、生地の買い出しに行ったニース郊外で、手の届かない高い位置にある生地のロールを見上げた私が、顔見知りのムッシュウに「あの生地はおいくら?素材はなんと書いてあるの?」と聞いた時、それまでニコニコしてた端正な顔のムッシュウが一瞬ぎょっとした様子でこちらを見たので、ぎくっとした私、「ひどい近視だもので、あんなに上の方のチケットは見えないのよ」と慌てて言い訳しましたが、ムッシュウは半信半疑だったような。。
 以前、トウールーズの生地屋さんで、ごく普通のフランス人マダムが手にした生地の素材を店員さんに尋ねていて、店員さんが「その生地のチケットにちゃんと書いてありますよ」と答えると、顔を赤くしたマダムが小声で「読めないのよ」と再度尋ねたのがとても印象に残っていますが、実は意外に高いフランスの非識字率。移民の多い国だから、という理由だけでは説明がつかないのが現状のようです。
 2005年にフランスの識字率向上機関が行った調査によると、18歳から65歳のフランス本土在住の成人で、国内で教育を受けた人のうち、読み書きに不自由している人は9%。なんと約310万人にあたります。内訳は6割弱が男性で、残りの4割が女性。そのうち、35歳上が75%を占め、45歳以上になると更にパーセンテージが上がります。
 読み書きが不自由だと最悪の場合、道路標識が読めない、案内の看板がわからない、切符販売機や現金支払機などの機械の操作ができない、小切手が書けないなど、かなり不便な日常生活を送ることになりかねません。そのため、教育省を初め、赤十字やNPO団体が読み書き力の向上を支援する機会を設けていますが、まだ目立った改善は見られないようです。
  読み書きが上手く身に付かなかった一番の理由は、学校で落ちこぼれてしまったとか、途中で行かなくなってしまったなどが挙げられるそうですが、調査機関も驚いたのが、310万のうち、57%は何らかの仕事についていること。失業中の人は11%だけ。フランスの失業率が9%近いから、非識字の人の11%は特に高い失業率とは言えないでしょう。残りは家庭の主婦や定年生活者のようです。
 約310万人の中に入院中の人やホームレス、受刑者たちは含まれていないし、18歳以下の若者の非識字率も4.8%。こういう数字を目にすると、外国人である我らの文法の誤用や多少のスペルの間違いは大目に見てねって、言いたくなってしまいます。
 因みに仏語のillettre=非識字の人を手元の仏和辞典で引いてみたら、「読み書きが完全には出来ない人」とありました。ありゃ、《完全》なんて日本語でも怪しい私です。
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by cheznono | 2009-08-01 01:56 | 不思議の国フランス