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b0041912_2343325.jpg 去年から今年にかけてフランスで観た映画の中でベスト5に入るフィリップ・クローデル監督の「ずっとあなたを愛している」。フランス公開と同時に高く評価され、今年のセザール賞(フランスのアカデミー賞)の有力候補に。セザールは「セラフィーヌ」が各賞を総なめしてしまいましたが、この作品はイギリスアカデミー賞の外国語映画賞を獲得。地味な出だしながらリアリズムに満ちていて、胸にずしりと来る感動作です。

 映画は、暗く無表情なジュリエット(クリスチャン・スコット・トーマス)が、妹レア(エルザ・ジルベルスタイン)の一家と同居するところから始まります。
 実はジュリエットは長い刑期を終えて出所したばかり。幼い息子をその手にかけた罪で、15年間収監されていたのです。
 この15年間、母も妹も刑務所のジュリエットに面会に行きませんでしたが、晴れて娑婆に出て来た姉を年の離れた妹リアは温かく迎えます。リアがベトナムから迎えた二人の養子も突然現れた伯母になつきますが、ジュリエットは深い悲しみに心を閉ざしたまま。
そんな姉にまるで針に触るかのように接し、あれこれ気を遣うリアに対して、リアの夫はジュリエットへの不満と不信を隠し切れません。
 妹一家とぎこちない居候生活を送る一方で、ジュリエットは職探しを始めます。何とか自立を目指すジュリエットに世間の目は冷たく、なかなか採用されませんが、リア一家を初め、いろいろな人と接するうちに、ジュリエットの固い表情も少しづつ穏かになって行きます。
 ジュリエットが変化するに連れて、にじみ出る知性や優しさが彼女を警戒していた人たちの猜疑心を徐々に溶かして行くのですが。。  

 いったいなぜ、子供好きの医師だったジュリエットが自分の息子を殺めたのか?リアが聞きたくても聞けなかった事実が、ジュリエットの口から搾るように語られた時、リアも観客もその重さに言葉を失くすのでした。

 まず、15年もの間、監獄と一般社会とに分かれて、面会することもなかった姉妹が、再会と同時に同居して、長い空白を埋めて行く過程がうまく描かれています。思春期に別れて以来、久しぶりに会う姉は絶望と秘密を抱えたまま、なかなか自分に心を開いてくれないないのに、終始、姉の側に立って愛情深く接するリアの姿勢が印象的です。
そして、とてつもない悲しみを背負い、虚無感をまとうジュリエットを、ほぼすっぴんで演じるクリスチャン・スコット・トーマスは秀逸。フランス在住のため、よくTVのバラエティ番組にも登場しますが、この映画で改めてすごい女優さんだと思いました。
 ジュリエットが妹に秘密を打ち明けることで過去に一つの区切りをつけ、新しい出会いに踏み出してゆくところに爽やかな希望が感じられて、良いですねす。二人の姉妹が何ともリアルに描いた人間の弱さと強さ、自分の力ではどうしようもできない運命などについて、深く考えさせられる作品です。
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by cheznono | 2009-12-30 23:10 | 映画

パブリック・エネミーズ

b0041912_011218.jpg ジョニー・デップの魅力に惹かれて、今週の1本は珍しくハリウッドアクション映画です。今まで何度も映画化されたというアメリカ大恐慌時代の盗賊ヒーロー、ジョン・デリンジャーを描いた「パブリック・エネミーズ」。マイケル・マン監督の作品を観るのは初めてだったせいか予想以上のどんどんぱちぱちの連続に緊張してしまい、途中から心臓バクバクで、見終わった時は何だかぐったり。長ーい2時間20分でした。
 若きアウトロー、ジョン・デリンジャーは、銀行強盗はしても独特の美学で当時の大衆を魅了。銀行は襲っても一般人には手を出さなかったことから、不況にあえぐ米国で、義賊としてもてはやされたとか。しかも、仲間への仁義は欠かず、惚れた女性には一途。なんて、ジョニー・デップにぴったりの役だけど、どうも手法が荒っぽ過ぎて。。でも、ラストが泣かせます。

 1930年代のインディアナ州、映画はデリンジャーが刑務所にいる仲間の脱獄を手助けする所から始まります。救い出した仲間たちと銀行強盗を再開したジョン・デリンジャーは、既に義賊のように見なされていて、庶民に人気がありました。
 荒っぽい手口で大胆な銀行強盗と脱獄を繰り返すデリンジャーに面目丸つぶれのFBIは、彼をパブリック・エネミーNo1に指名、何が何でも彼を捉えるため、新進気鋭の捜査官メルヴィン・パーヴィス(クリスチャン・ベール)を追っ手として差し向けます。
 デリンジャーはナイトクラブで見初めたビリーを強引に恋人にし、ビリーも強盗を繰り返すデリンジャーを受け入れて、このまま一緒に歳を取って行こうと囁く彼に寄り添う決心をするのですが、警察は彼女の存在に目を付けていました。
 強奪の後、警察の追跡を逃れるべく隠れ家に向かったデリンジャーは、当てにしていた盗賊シンジケートの仲間から、もう銀行強盗の時代ではないから援助できないと言われてしまいます。

 全編に繰り返される銃撃戦と捕り物劇はスリル満点だから、ギャング物やリアルなアクション好きには受けること間違いないでしょう。脱獄、逃走、強盗、逮捕を繰り返し、仲間の離反やFBIの執念で次第に追い詰められて行くデリンジャーをマイケル・マン監督はハードボイルドに徹したスタイルで描いています。 
 でもやっぱり、もう少し登場人物の心理描写を入れて、内容に深みを持たせてほしかった。そんな中で、本人が乗り移ったかのようだったエディット・ピアフを演じたマリオン・コティアールが、明日をも知れないお尋ね者の恋人となったビリー・フレシェットを今回も熱演。そして、初めは情も人間味もある捜査官だったのに、同僚を殺されてからというもの、より表情厳しく、冷徹に徹底的にデリンジャー一味を追い詰めて行くパーヴィス役のクリスチャン・ベールがとても印象的でした。英国ウェールズ出身の美形の俳優さんです。
 ジョニー・デップが演じたのでデリンジャーは既に中年かと思ったら、彼はまだ30歳で、20代から強盗犯、脱獄犯として活躍していたのですね。

 しかし、金曜の夜に渋谷で観たこの映画、まだ公開されて1週間だったのに、映画館はがら空き。ニースやリヨンなどフランスの地方都市ならよくあることだけど、東京で、ジョニー・デップがプロモーションに来日したばかりの話題作がこれで大丈夫なのでしょうか?
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by cheznono | 2009-12-24 00:12 | 映画

ベルギー映画:ロフト

b0041912_1322484.jpg ベルギーで大ヒットしたサスペンスと聞いて、そそられた「ロフト」。しかし、あいにくこの映画は仏語ではなかった。それもそのはず、フラマン語圏で15年ぶりのヒットとなった映画だそうで、経済優位は有無を言わさずフラマン圏、でも映画文化は仏語圏優位と思われていたベルギーで、フラマン映画巻き返しの兆しと言えるクールな作品です。

 デザイナー建築家として成功したヴィンセント(フィリップ・ベーテルス)は、設計したビル最上階のロフトを自分用に確保、合鍵を5つ用意して、友人4人に配ります。愛人がいる人もまだの人も、仲間5人、それぞれに家庭のある男たちの息抜きの場として、ロフトを好きに使って良いよと、男同士の固い友情ならでは?の提案をしたのです。
 そして、1年後。糖尿病の妻を愛する男ブルーノ(ルグ・セイナーヴェ)が、ロフトを利用しようとして、ベッドに若い女性の凄惨な遺体を発見。 被害者と加害者はいったい誰なのか?彼の電話で駆けつけたヴィンセントを初めとする仲間は、互いの様子を伺い、胸の内を探りながら、真相の追求よりはむしろいかにして警察の目をごまかすか、に腐心します。
 その合間に、フラッシュバックで男達それぞれの私生活が、次第に明らかに。
 知的で真面目な精神科医のクリス(ケーン・デ・ボーウ)は、妻とぎくしゃくしていて、自殺してしまった元患者の姉で市長の愛人のアン・マライ(ヴェルル・バーテンス)に強く惹かれます。父親違いのその弟フィリップ(マティアス・スクナールツ)は、薬に溺れるアウトロー。水も滴るいい男なのが功を奏して、大資本家の娘と結婚し、義父の会社に就職しますが、素行は改まりません。
 ブルーノとマルニクス(酒飲みで下品、でもお人好し)は、ヴィンセントのドイツ出張旅行に同行し、高級ホテルで若い女性サラと知り合います。その夜、酔った勢いでマルニクスは一夜の浮気を経験し、それが彼の結婚生活を脅かす結果となるし、サラと関係を持ったヴィンセントは、同じ夜、フィリップの義父が愛人と同宿しているのを目撃。口止めに大きな建築計画の設計を任してもらう口約束を取り付けるのですが。。

 ロフトの遺体発見から、警察の取り調べに画面が飛ぶので、観客としては、必死にロフトの遺体を隠す相談をする男達が、いかにして警察に行く羽目になるのかを思い巡らしながら、フラッシュバックの描く5人の性格や素行を追う事になります。
 男達の友情の証だったモダンな隠れ家が、一夜にしてとんでもない重荷となり、互いが疑心暗鬼になって、過去の行動を探り合う過程に画面に釘付けです。 
 意外性とどんでん返し。これは文句なしに凝ったもので面白いのですが、その反面、殺人に至った過程や、それぞれの心理描写の希薄さに物足りなさも。
 精神科医クリス役のケーン・デ・ボーウは、ベルギーで大人気の俳優さんだそうですが、さもありなん、とても味があって、魅力的です。不良の弟フィリップ役のマティアス・スクナールツはイタリア系でしょうね。ぞくっとするほどセクシーなハンサム、この二人の作品をもっと観たいものです。
 しかし、この映画を観る限り、結婚生活も不倫もフランスとフラマン圏では全然温度が違うという感じ。いい加減さにはうんざりさせられても、やっぱり私には明るくコミカルなラテン系の方が肌に合うかも、と思わされる作品でした。
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by cheznono | 2009-12-15 01:33 | 映画

b0041912_1112568.jpg 20世紀の終盤から改めて再燃したイギリスのジェイン・オースティンブーム。その締めとも言えるようなジェイン自身の運命の出会いを描いた映画「ジェイン・オースティン 秘められた恋」がこの秋、欧州より2年以上遅れて公開されましたが、あまり話題にならなくて淋しいです。
 それまであまり注目されていなかった若きジェイン・オースティンと法学生トム・レフロイとの交流が、実はジェインの人生は変えるような激しい恋だった可能性があるという分析をした米国人伝記作家ジョン・スペンスの著書「Becoming Jane Austen」を映画化したこの作品は、ジェインの生きた時代(1775〜1817)の南イングランドの田園生活や彼女の作品の背景がわかるという点で、なかなか興味深い映画と思うのですが。

 ハンプシャーのつましい牧師の一家に生まれ、6人の兄弟と一人の姉の間で育ったジェイン(アン・ハサウェイ)は、才気煥発、言葉の感覚が鋭く、自立心に富んでいました。母親(ジュリー・ウォルターズ)は娘を貧しい生活から解放するため、ジェインに裕福な侯爵夫人の甥ウィズリーとの縁談を勧めます。けれどもウィズリーに魅力を感じないジェインは、ロンドンから叔父の元に遊びに来たアイルランド人の好青年トム・レフロイ(ジェームス・マカヴォイ)と知り合い、親しくなっていきます。
 初めは自信家で理詰めのトムの言動にいらだったり、反発を感じたジェインも、ハンサムで頭脳明晰なトムに惹かれていることに気づいて、とまどうばかり。ウィズリーに求婚されてもつれない態度で、母親をやきもきさせます。牧師と恋愛結婚した母の信条は、生活に必要なのは愛よりもまずお金。でも、20歳のジェーンには当然愛情が優先されるのでした。
 そんな折り、海外派遣された婚約者の帰りを待ちわびる姉カサンドラ(アナ・マックスウェル・マーティン)に、愛する婚約者の訃報がもたらされ、カサンドラは泣きくれます。
 一方、ジェインと恋に落ちたトム・レフロイですが、優秀さを買われ、判事である叔父の援助で学業を積む身。自分のお金はなく、アイルランドの両親も彼の出世を当てにしているため、貧しい牧師の末娘との結婚など許される状況ではありません。
 悩んだ末に、ついにトムはジェインと駆け落ちする決心をするのですが。。

 「いつか晴れた日に」や「エマ」、そして「プライドと偏見」と小説や映画で現代に生きる私たちを楽しませてくれるジェイン・オースティン。姉カサンドラに当てた手紙から人柄や私生活が推測されていますが、20代前半の手紙はカサンドラが焼却してしまったためにわかっていない点が多いとか。そのせいか、この映画は「プライドと偏見」と重なる部分が目立ちます。トムは「プライドと偏見」のダーシー卿のモデルと言われているにせよ、果たしてジェインが小説にそこまで実体験を反映させたかどうかは議論の分かれる所でしょう。妹が小説に書いているくらいであれば、カサンドラはあえて手紙を焼かなかったのでは?と思えます。
 女性が結婚するのが当然の時代にカサンドラとジェインは生涯独身で過ごしたのは、二人がそれぞれに初恋の相手と悲痛な別れを余儀なくされたから、だったのかどうかは謎ですが、この映画を若く美しく利発なジェインの青春の光と陰の一つの解釈として楽しめることは確か。イギリス英語を上手に身につけたアン・ハサウェイの瑞々しい美しさと、ジェームス・マカヴォイの知的な演技も心地良かったです。
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by cheznono | 2009-12-08 01:12 | 映画