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17才の肖像

b0041912_191222.jpg 未知の大人の世界を同級生達より一足早く知り、うっ頂点になった才色兼備の女子高校生が目の当たりにする残酷な現実。深く傷ついたもののその経験を肥やしに、また次の大きな一歩を踏み出して行くヒロインに扮したキャリー・マリガンの演技が各方面で絶賛された「17歳の肖像」。
 甘やかでちょっとイタい思春期の話なら、これまで何度も読んだり観たりして来たから、今さらと思ったけれど、これが意外に完成度が高い。フランスでもメディア、一般ともに好評だった作品です。

 60年代初めの英国、成績優秀な高校生ジェニーは、親からも先生からもオックスフォード大への進学を期待され、息苦しい気持ちで家と学校を往復する毎日を送っています。
 そこへ現れたデイビッド(ピーター・サースガード)は、ジェニーの倍の年齢、といってもまだ30代初めなのに、高級車を乗り回し、紳士的な物腰で、経済的にも心理的にも余裕がありそう。
 それまでつき合っていた同い年のシャイなボーイフレンドとは比べものにならないデイビッドの大人の魅力に夢中になったジェニーは、デイビッドのエスコートでしゃれたレストランで食事をし、ナイトクラブに音楽会、そしてギャンブルと、次々に知らなかった世界を味わいます。
 極めつけは、ジェニーの17歳の誕生日を記念して、憧れのパリへ二人だけの週末旅行。「17歳になるまで待って」というジェニーの意思を尊重したデイビッドと、パリで初めての夜を迎えたジェニー。大人の女の仲間入りをしたという誇りが全身に漂っています。
 制服を脱ぎ、ドレスアップして美しくメイクを決めたジェニーには、学業を優先する同級生や教師、両親が狭い世界に暮らす住人に見えてしまい、ついに彼女は進学よりも結婚を選ぶと宣言してデイビッドのプロポーズを受けるのですが、、

 戦後の復興期を経て、自由や女性の地位向上と飛躍的な経済成長という変動期のイギリス。まだ階級社会の名残が強く残る中、想い通りの未来を切り開くには女性にも学歴が大切、という教師や父親の考え方に反発を感じるジェニーが、デイビッドと出会ったことで、さなぎが蝶に変わるように、いっきに美しく洗練されて行く姿は目を見張るよう。
 自分は他の人たちとは違うという優越感と自信に対して、両親や先生、同級生たちがなんて陳腐に見えることか。しかし、背伸びして味わっためくるめくような体験は、実はガラスの城だったと知った後のジェニーが、学業に戻る決心をするまでの立ち直りの早さも若さゆえで、羨ましいくらいです。
 傷心のジェニーをそれ見たことかなどと言わずに、彼女を支援する父親や担任教師が良いですね。若気の至りでうっとうしく思っていた周囲に励まされ、現実的な選択をするジェニーの心の動きをキャリー・マリガンが繊細に演じています。「プライドと偏見」では、キーラ・ナイトレイの妹役だったというのに、全然思い出せなくてちょっと残念でした。 
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by cheznono | 2010-05-24 01:09 | 映画

オーケストラ!

b0041912_126155.jpg 昨年秋にフランス公開されてからこの春までロングランした「オーケストラ!」。今年の初めにニースで観た映画第一弾でした。
 確かに面白い切り口のコメディだけど、そこまでヒットする内容かな?と思いながら観ていたのは中盤まで。いよいよコンサートが始まったラスト十数分にこの作品の真骨頂が発揮されます。チャイコフスキーのバイオリン協奏曲がこれほど魅力的な曲だったとは!おすぎの言う通り、最後の12分のためだけにでも充分に見る価値のある秀作です。

 ロシアのボリショイ交響楽団で劇場の清掃員をしているアンドレイ(アレクセイ・グシュコブ)は、偶然目にしたパリのシャトレ座からの出演依頼FAXを見て、ボリショイ交響楽団になりすまし出演することを思いつきます。
 実は、アンドレイは30年前、前途洋々の天才指揮者として活躍していたのに、ブレジネフ書記長の命令で当時のボリショイ交響楽団からユダヤ人演奏家達が追放されることに抵抗したため、自らも指揮者の座を追われ、今や清掃員として何とか劇場に関わっている身でした。
 千載一遇のチャンスと、なりすまし楽団を結成してパリの晴れ舞台を踏むべく、親友の元チェロ奏者が運転する救急車に乗って往年の楽団員を訪ねるアンドレイ。かつての仲間達は、蚤の市業者やポルノ効果音担当、ジプシー等、それぞれ全く違った世界で細々と暮らしている連中ばかりです。
 突然降って湧いたシャトレ座での演奏計画に張り切る元楽団員を引き連れて、パリに乗り込んだアンドレイですが、フランスに着いたとたん、リハーサルもそこそこにてんでんバラバラ、パリの街に散ってしまった演奏者達に手を焼くはめに。 
 アンドレイは、パリでの演奏曲をチャイコフスキーと決め、バイオリン協奏曲のソリストはフランスの新星アンヌ=マリー(メラニー・ローラン)と指名しますが、アンヌ=マリーのマネージャー(ミュウミュウ)がホテルに現れて、彼女に過去の話をしないようにとアンドレイに釘を刺すのでした。
 
 30年間も演奏とはかけ離れた職業についている元楽団員達をまとめ、人数分の偽造旅券まで調達してパリに向かうアンドレイのもう一度オーケストラを指揮したいという情熱とそれを超える何かへのこだわり。こんなことあり得ないよねという感じのハチャメチャなパリ行きと、コンサートが始まってからのシリアスなクライマックスとのコントラストが実に鮮やかです。
 共産主義下で、才能がありながら自分の力ではどうしようもできない不遇に見舞われた登場人物たちが、辛い過去をユーモアの奥に隠して、つましく、でも逞しく生きている様子が生き生きと描かれているので、中盤過ぎまでのストーリーの寓話調を薄めているように思えます。
 バイオリン協奏曲が始まって、アンドレイを包んでいた謎が解けて来ると、それまでのコメディタッチがいっきに吹っ飛んで、情感あふれる演奏にいつまでも浸っていたい気持ちになりました。
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by cheznono | 2010-05-17 01:28 | 映画

b0041912_23141152.jpg ずっと気になっていた「ドン・ジョヴァンニ」をやっと観て来ました。監督はスペインの美の巨匠カルロス・サウラ。オペラ「ドン・ ジョヴァンニ」誕生までを脚本家ダ・ポンテの半生と共に描いた作品で、その映像美には圧倒されます。
  あの名作「アマデウス」と重なる部分も多く、歴史絵巻とモーツァルトのオペラが同時にたっぷりと楽しめる作品でした。

 映画は、1863年のヴェネチアで、ユダヤ系一家の少年が、半ば強制的にカトリックに改宗させられ、名前もロレンツォ・ダ・ポンテと改名する所から始まります。
 成長してカトリックの神父となったものの、女性を誘惑したり、体制に批判的な詩を書いたりしたために宗教裁判にかけられ、教会への謀反の罪で ヴェネチア共和国から15年間追放されることに。 
 同じユダヤ系として何かと世話になったカサノヴァの助言でウィーンに渡ったロレンツォ(ロレンツォ・バルドゥッチ)は、ウィーンの革命児と言われていたモーツァルト(リノ・グアンチャーレ)と出会い、皇帝ヨーゼフ2世とサリエリの提案でモーツァルトの新作オペラの台本を書く仕事を得ます。
 その結果、ロレンツォの台本による「フィガロの結婚」は大成功。ソプラノ歌手を愛人にして絶好調のロレンツォは、恩人カサノヴァから「ドン・ジョヴァンニ」の台本を書くことを要望されます。
 古くから伝わるドン・ジョヴァンニに、自由奔放なドン・ファンを地で行くカサノヴァと自分自身の生き方を投影させるべく、台本作りに情熱を傾けたロレンツォ。ドン・ジョヴァンニの作曲にあまり乗り気でないモーツァルトを口説いて、その気にさせたものの、既にモーツァルトは健康を損ねていました。
 そんな折り、ロレンツォは かつてヴェネチアで出会った忘れ得ぬ美女アンネッタ(エミリア・ヴェルジネッリ)と再会。彼女に夢中になるあまり、愛人であるソプラノ歌手の嫉妬をかって窮地に立たされます。

 前半は、教会から追放を言い渡されるまでのロレンツォが暮らしたヴェネチアがそれは美しく神秘的に描かれていて、画面に釘付けでした。 既に衰退していたとはいえ、独自の文化を誇っていた18世紀のヴェネチア共和国に迷い込んだよう。当時のカーニヴァルのシーンも興味深かったです。
 舞台がウィーンに移ってからは、ロレンツォとモーツァルトによるオペラ製作とオペラ「ドン・ジョヴァンニ」が同時進行して行く構成。ちょっと中だるみはあるものの、天才モーツァルトの人間味あぶれる姿が良かったです。

 ロレンツォが「ドン・ジョヴァンニ」の初演を迎えるのは1787年。フランス革命の2年前ですね。退廃したヴェネチアで革新的な詩を書いて追放され、サリエリを頼ってウィーンにやって来たロレンツォを保護したヨーゼフ2世は、マリー・アントワネットのお兄さんで、文化芸術には理解のある皇帝でした 。
 ヨーゼフ2世亡き後、オーストリア宮廷に居ずらくなったロレンツォは、英国へ脱出。その後、アメリカに渡って89歳の生涯をまっとうしたというからすごい。波瀾万丈の充実した一生だったようです。
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by cheznono | 2010-05-05 23:35 | 映画