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君を思って海を行く

b0041912_1261759.jpg 2009年早春に公開されてから、フランスではかなりのロングランを記録した大ヒット映画「君を思って海を行く」。フランスの抱える難民受け入れ問題に純愛を絡ませることで、現サルコジ政権の移民政策を批判した社会性の強い人間ドラマです。
 秀逸な邦題にには脱帽しますが、原題はWelcome。フランス社会の本音と建前を皮肉ったタイトルで、実際にフィリップ・リオレ監督は、当時の移民担当大臣に対して怒りをぶつけ、フランス政府の難民対応の改善を提案しています。
 
 かつては水泳のオリンピック選手として地元カレの花形だったシモン(ヴァンサン・ランドン)ですが、今は市民プールの水泳コーチをしていて、妻マリオン(オードレイ・ダナ)とは別居中。既に恋人のいるマリオンからは、離婚を請求されています。
 ある日、偶然出会ったクルド難民の若者ビラル(フィラ・エヴェルディ)に頼まれ、クロールの指導をすることに。
 17歳のビラルは、恋人ミナのいるロンドンを目指して、遥かイラクから歩いてカレまでやって来たものの、イギリスへの密航に失敗。もはや目の前のドーバー海峡を泳いで渡るしかないと思い詰めていました。それに、英国へ渡れば、いつかはビラルの憧れのサッカーチームに入団できるかも知れないのです。

 初めは、冬の英仏海峡を10時間もかけて泳ぎ切ることは不可能だと反対するシモンですが、ビラルの一途で真摯な思いに心動かされます。
 難民支援のNPO活動をしている妻マリオンの気を惹きたい気持ちもあって、次第にビラルに手を貸すシモン。ついにビラルとその仲間を自宅に泊めてしまいますが、それは法律違反として取り締まりの対象になる危険な行為でした。
 そんな折り、ロンドンのミナが、両親の意向で親族との結婚を強制されそうだと、ビラルに電話で訴えます。もはや、時間がない。何が何でもドーバー海峡を渡らねばと、大決心をするビラルでしたが。。

 人生の目的を見失いかけていたシモンが、一途なビラルの純粋さとエネルギーに触発されて、生きる意欲と希望を取り戻してゆく姿を、カレの難民達の窮状とビラルの情熱を交えて描いている過程がとても自然で、全く押し付けがましくありません。
 難民や不法入国者の辛い実状、地元住民の不安、強制結婚など、欧州の抱える現実が無理なく盛り込まれ、過酷な運命とその先に見えるわずかな希望を静かに捉える視点が暖かいです。

 フランスはもともと難民の受け入れに比較的寛容だったのに、現サルコジ大統領が内務大臣に就任後から、移民政策の強化を進めて来ました。治安を心配する地元の住民からは、そうした政府の対応を歓迎する声が少なくないのが現実です。
 ドーバー海峡の対岸にあたるノルマンディ地方カレには、大規模な難民キャンプがあって、金融危機まではバブル景気に沸いていた英国への密航を図る人々が後を絶たないという状況でしたが、英国政府からの要請もあり、フランスは2009年に難民キャンプの解体・撤去を実行。
 その結果、EUから、難民の人権を尊重するようにとのお叱りを受けています。
 町にたくさんいる難民に、たいして関心のなかったシモンが、逮捕の危険を冒してまで援助するようになって行く変化に、自分が同じ立場だったらいったいどうするだろう?と多くのフランス人が考えたことでしょう。
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by cheznono | 2011-01-23 01:27 | 映画

クリスマスストーリー

b0041912_0202089.jpg やっと観ましたアルノー・デプレシャン監督の「クリスマスストーリー」。贅沢なキャストで織りなすヴェイヤール家の辛口なクリスマス物語は、フランスでメディア評が高く、観客評はまあまあだった作品ですが、私にはとても面白かったです。
 2時間半、実際にフランスのある一家の生々しいやり取りの中に放り込まれたような気分が味わえます。

 ベルギー国境近くの小さな町ルーベで、工場を経営するアベル・ヴェイヤールと妻ジュノン(カトリーヌ・ドヌーヴ)には、初め2人の子供がいましたが、長男は幼い時に白血病を発症、6歳で亡くなっています。
 長女エリザベート(アンヌ・コンシニ)は、今や脚本家として成功。夫クロードも高名な数学者ですが、高校生の息子ポールは精神を病んでいます。
 白血病の長男のために骨髄移植の希望を託されて生まれた次男アンリ(マチュー・アマルリック)は、骨髄が適合しなかったせいで、生まれた時から母親に距離をおかれ、しっかり者の姉とはそりが合わず、一家の問題児として成長。
 末っ子のイヴァン(メルヴィル・プポー)は、内気で内向的でしたが、兄アンリや従兄弟シモン(ローラン・カペリュート)とも親しかったシルヴィア(キアラ・マストロヤンニ)と結婚して、今は二児の父に。

 ある日、母ジュノンが夭逝した長男と同じ血液のがんに冒されていることが判明。治療に有効なのは家族からの骨髄移植のみと言われた夫アベルは、クリスマスに子供たちを呼び寄せ、骨髄の適合テストを受けるよう頼みます。
 5年前、詐欺まがいの事業計画して失敗し、その借金を姉エリザベートが支払う代わりに絶交を言い渡されて以来、家族とは疎遠となっていたアンリは、新婚時代に妻を事故で失い、今やアル中寸前。でも、今回は甥ポールの誘いに応じて、久しぶりに実家に戻って来ます。

 雪景色の中、一見典型的なフランス中産階級のクリスマスの集いが始まったものの、白血病を宣告されながらも尚、次男アンリを愛せないジュノン、早速アンリと衝突するエリザベート夫婦、妻の病気に落ち込む父アベルと、それぞれが緊張感を抱えて、複雑な感情がぶつかったり、和んだり。
 両親の死後、ジュノンに育てられたシモンと末っ子イヴァン、どこか線が細く消極的な二人が家族の緩衝帯のような役割を果たします。
 一方、シルヴィアはレズビアンだったアベルの亡き母親(子供達の祖母)の恋人ロゼメから、イヴァンとの結婚を巡って思いがけない事実を聞かされ、ひどく動揺するのでした。

 白血病で長男を失ったトラウマが今も見え隠れするヴュイヤール家で、男性陣は誰もがデリケートで壊れ易い心を抱えています。両親に愛され、社会的にも成功している長女まで鬱病ぎみの中、白血病を宣告された母ジュノンだけが一人超然とし、家族に死への恐怖を見せないようにしながら、自分のエゴは貫くという姿はドヌーヴならではという感じ。「しあわせの雨傘」のシュザンヌ役も良いけれど、ジュノンのような役をやらせたらドヌーヴの右に出る者はいないのでは?
 そして、母ジュノンの愛に飢え、憎まれっ子の問題児のまま大人となってしまい、酒の力を借りて家族を挑発するアンリを演じたマチュー・アマルリックもさすがです。
 そのアンリが連れて来たユダヤ人の恋人フォニア(エマニュエル・ドゥヴォス)は腹が据わっていて、どこかジュノンに共通するクールさと安定感が見られます。だからこそ、アンリが惹かれたのかも。

 家族ならではのむき出しのエゴイズム、感情のぶつかり合い、それでいながら切っても切れない家族の絆。根底にはやはり暖かいぬくもりが流れているのですね。
 親子姉弟の確執や近親憎悪、そして血液のがんという重いテーマを扱いながら、悲壮感が漂っていないし、安易な結論も出していない点が魅力的です。観終わって帰宅した後も、不思議な余韻の残る作品でした。
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by cheznono | 2011-01-19 00:21 | 映画

デザートフラワー

b0041912_1321960.jpg ソマリア出身のスーパーモデル:ワリス・ディリーのベストセラー自伝小説を映画化した「デザートフラワー」。想像を絶するワリスの数奇な半生に関心があって観に行きましたが、むしろ、アフリカで今も行われている恐ろしい因習の廃絶に向け、問題を喚起する作品で、非常に考えさせられました。

 ソマリアの遊牧民の娘ワリスは13歳の時、年配の金持ちの4番目の妻にさせられそうになったため、家出を決意し、一人着の身着のままで砂漠の中を彷徨いながら祖母の住むモガデュシュを目指します。
 殆ど飲まず喰わずのまま、死に物狂いで首都モガディシュに着いたワリスは、祖母の計らいで英国へ出国。ロンドンのソマリア大使館で、ハウスキーパーとして働き始めます。
 6年後、ソマリアの政変でロンドンの大使館は閉鎖となり、職員たちは全員ソマリアへ帰ることに。しかし、帰国を拒否したワリス(リヤ・ケベデ)は、路上生活者となるほかありませんでした。
 未だ英語も話せないワリスは、ある日バレエダンサーを夢見るマリリン(サリー・ホーキンス)と知り合い、彼女の部屋に寄宿して、ファーストフード店で働くことになります。
 その店で、売れっ子カメラマン(ティモシー・スポール)に見出されたワリスは、思いがけず写真のモデルとして成功。そのお陰で、ファッションモデルへの道を歩み出すワリスでしたが、手元にあるのはとっくに有効期限の切れたパスポートだったため、不法滞在に問われてしまいます。

 ワリス・ディリー本人によると、原作に比べて、映画はかなり省かれている部分があるようですが、映画を観る限り、なんて運の強い女性だろうという印象です。
 周囲の支援と強運、美貌を武器に、故郷に戻ることを拒否して、何が何でもロンドンで生きて行く覚悟をするその意志の強さとバイタリティーには目を見張るものがあるし、成功の結果として彼女が抱いた使命感が素晴らしい。
 この作品の何より重要な点は、女性の貞操を守るためにアフリカで現在も続けられているFGM(女性性器切除)というおぞましい因習を、ワリスが自身も経験者として告発、世界中に向けて撤廃運動を繰り広げる過程を映像で我々に示している点でしょう。
 わずか5歳の時にワリスが体験したFGMの野蛮さは目を覆いたくなる残酷さで、ワリスの妹二人もFGMのために命を落としているという事実に身体が震えます。
 ワリスたちの活動が功を奏して、FGMを法律で禁止したアフリカの国々があるにもかかわらず、今も日に約4000人の少女がこの因習の犠牲になっているとは。女性を男の所有物としてのみ価値のある存在と見なし、衛生観念を度外視して幼い少女の心身に決定的な傷をつけることを、母親たちが受け入れるだけでなく、奨励・強要していることに、救いがたい闇を見る思いです。 
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by cheznono | 2011-01-10 01:32 | 映画

シチリア!シチリア!

b0041912_1174866.jpg 新年あけまして、おめでとうございます。
 今年もどうぞよろしくお願い致します。

 さて、2010年最後を締めくくった映画は、ジョゼッペ・トルナトーレ監督の自伝的作品「シチリア!シチリア!」。地中海に照りつける日差しのまぶしさに、大晦日の東京にいることを忘れるようなひと時で、映像の美しさと音楽、そしてイタリア史の一端を堪能できる作品です。 
 題名の通り、シチリア島バーリアを舞台にした、3代に渡る一家族の大河ロマンですが、どちらかというと、家族物語というよりも20世紀初頭から後半までのシチリア風俗史のようでしたが。

 1930年代、首都パレルモに近い小さな町バーリアに生まれた牛飼いの息子ペッピーノは、気骨のある父親チッコと兄ニーノと共に貧しいながら、まずまずの子供時代を送っていました。
 とはいえ、ペッピーノは学校そっちのけで、幼い時から家計を助けるために、農作業や牧童として労働に駆り出されます。
 子供の頃から横暴な雇い主と搾取される農民たちの中で、嫌というほど不公平さを目の当たりにして来たペッピーノは、やがて世直しの理想に燃えた青年に成長。第二次大戦後はイタリア共産党に傾倒して行きます。
 ムッソリーニによるファシズム下においても、牛飼いながら文化的な教養を身につけた父親チッコの影響もあって、政治運動に関わり始めたペッピーノは、町で見初めたマンニーナと情熱的な恋に落ち、彼女の両親の大反対を押し切って結婚。次々に子供に恵まれます。
 家族を養うため、パリに出稼ぎに行ったペッピーノは、かつての同士から、シチリアに戻って政治家の道を歩むように説得されて、議員に立候補する決心をするのですが、、
 
 土地はやせているものの、アフリカとヨーロッパの間に位置し、地中海の交差点とも言えるシチリア島は、ギリシャローマ時代からさまざまな民族に入れ替わり立ち替わり征服・支配されて来たため、住民たちは独特の気質を持っていると言われます。
 ドイツ、フランス、スペイン王による相次ぐ統治と圧政に耐え、疫病や飢饉、動乱にもまれて来たシチリアは、第二次大戦後の産業化にも遅れ、農民は貧困に喘ぎ、マフィアによる不正義がはびこっていました。
 そうした歴史と風土の中で培われた、逆境に強く頑固なシチリア気質が、ペッピーノの一族の行動にも色濃く感じられます。

 全編を通してバーリアの魅力を余すことなく捉えた映像は美しく、ジョゼッペ・トルナトーレのシチリア讃歌とそこに住む家族の絆の強さは、はっきりと伝わって来ます。
 ただ、2時間半という長さの特に後半は、人生の一幕の羅列が続いたせいでしょうか?バーリアの町がくぐって来た激動の20世紀を、ノスタルジックな絵はがきにしたような映画で、前作「題名のない子守唄」で引き込まれたドラマ性や盛り上がりが、ここでは散逸してしまった感じが否めません。ペッピーノを初め、登場人物の心の動きがもう少し描かれていたのなら、もっと作品に入り込めたと思うのに。

 ペッピーノを熱演した新星フランチェスコ・シャンナは、どこかリチャード・ギアを彷彿とさせる面持ちで、イタリア美人らしい大作りな顔立ちのマルガレット・マレ(妻マンニーナ)は、巨大な瞳が印象的。二人ともこれから多いに期待できそうです。
 ところで、モニカ・ベルッチはいったいどこにいたのでしょう?しかも 「青春の輝き」で私をすっかり魅了したルイジ・ロ・カーショが、なんとあの物乞い女性の息子だったとは!こんな大物たちを惜しげなく端役に使うなんて、何とも贅沢。これもきっとトルナトーレ監督の人徳ゆえなのでしょうね。  
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by cheznono | 2011-01-01 01:18 | 映画