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ツリー・オブ・ライフ

b0041912_2139376.jpg 今年のカンヌでパルムドールを獲得した「ツリー・オブ・ライフ」。テレンス・マリック監督による詩情あふれる作品です。
 でも、カンヌを沸かしたわりにはフランスでの批評は中程度で、半ば成功、半ば不発の寓話とまで言われる始末。宗教的で、監督の哲学が大きく反映されている静謐な作品は、カトリック国フランスよりもむしろ禅的な文化を背景にもつ日本の方が評価が高いかも知れません。

 1950年代のテキサス。典型的な中流家庭オブライエン家の長男ジャックは、厳格な父(ブラッド・ピット)と優しく美しい母(ジェシカ・チャステイン)、そして二人の弟達と自然に恵まれた環境で育ちます。
 安定した生活を与えてくれる父親でも、自らの考えを息子達に押し付けようとする姿勢に反発を感じる少年ジャック。
 とはいえ、母親に慈しまれながら、弟達とじゃれ合って過ごした穏かな日々は、確実に自分の人生の基礎となっていることを今や中年を迎えたジャック(ショーン・ペン)が回想します。そして、19歳で亡くなってしまう弟の死が、家族に落とした深い影も。。

 前半、ジャックの回想シーンの後、スクリーンに無限の宇宙や天地創造を象徴するかのような映像が20分ほど流れ、その唐突さと長さには面食らいました。地球や生命の進化と連鎖、その神秘を語りたかったのでしょうけど。
 何千年も昔の大自然の営みから、50年代のアメリカ南部の家族の日常と子供の成長、そして、建築家として成功した中年ジャックの喪失感を、映画は極力セリフを省いて、その代わりかクラシック音楽を駆使しながら、静かな映像美で描いて行きます。
 美しい芸術作品ではあるけれど私的で、暗示的で抽象的な描き方に終始するので、2時間20分を楽しめるかどうかは人を選ぶ作品といえるでしょう。

 「私が幸せでいる唯一の方法は、愛すること」というセリフの通り、慈愛に満ちた母親役が印象的なジェシカ・チャステインは、《アメリカの良心》を体現しているかのよう。彼女が身につけている50年代~60年代モードを思わせる数々のドレスも素敵です。
 
 カンヌの熱狂が苦手というマリック監督は、映画祭には全く姿を現さず、表彰式や挨拶などはブラッド・ピットが一手に引き受けて、話題となりました。テレンス・マリックは次作の撮影のためパリに滞在していたにもかかわらず、パルムドールの受賞を人任せにしたわけで、カンヌを誇るフランスメディアが白けるのもむべなるかな。だから、辛口評が目立ったというわけでもないでしょうが。。
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by cheznono | 2011-08-23 22:19 | 映画

この愛のために撃て

b0041912_22404565.jpg 『すべて彼女のために」で華々しいデビューを飾ったフレッド・カヴァイエ監督による2作目「この愛のために撃て」。手に汗を握るサスペンス度にますます磨きがかかって、ラストまで緊張感が途切れません。
 なのに、なぜこんなに面白い映画ががら空きなのでしょう?公開されたばかりのレディースデイだったのに、まるでニースの映画館のように人影がまばら。なんてもったいない。35℃の東京から一瞬にして21℃のパリに連れて行ってくれる作品で、主人公と共に息もつかせぬ85分間が過ごせること受け合いです。

 パリの病院で看護助手を務めるサミュエル(ジル・ルルーシュ)は、臨月の妻ナディア(エレナ・アナヤ)を心から気遣う優しい夫。しかし、夜勤の晩、交通事故で重傷を負った患者サルテ(ロシュディ・ゼム)のベッドから逃げ出す怪しい男を目撃したことから、命がけの逃走劇に巻き込まれることに。
 明け方、アパルトマンに押し入った何者かが帰宅したサミュエルの目の前で身重の妻を誘拐。3時間以内に患者サルテを病院から連れ出して、自分たちに引き渡すよう要求されたサミュエルは、人質となった妻を取り戻すべく、知恵をしぼります。
 実はサルテは指名手配中の強盗犯で、入院中も警察の管理下にありました。それでも何とかサルテを病院から連れ出したサミュエルですが、お陰でサルテ脱走の共犯として警察に追われる身となってしまいます。
 一刻も早く妻を救出に行きたいサミュエルに傷の手当をさせるべく、自分の隠れ家に寄ったサルテに早くもパリ警察殺人捜査課の手が。警察の素早い動きには、前夜殺された富豪と何か関連があるらしいと気づいたサルテは、自分をはめた陰謀の裏側にある警察チームの汚職を知って、愕然とします。
 しかし、自分たちの悪行を知られた警察チームは、必死の追跡劇でサルテとサミュエルを追い詰めるのでした。

 警察の執拗な追跡を交わしながら、何が何でも妻を救うべく、パリ中を駆け回るサミュエル。特にメトロの地下通路内での逃走劇が圧巻です。ハリウッドアクションを意識した作りとはいえ、アメリカ映画のような現実離れがないのもさすが。
 サルテに応援を頼まれた裏社会の大物が、警察を混乱させるために使う手口もユニーク。
 脚本の完成度はもちろんのこと、複雑な話の展開を見事にさばいた演出とカメラワークにも脱帽しました。中身の濃い現代版フレンチノワール、お勧めです。
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by cheznono | 2011-08-12 22:42 | 映画

人生、ここにあり!

b0041912_23394833.jpg 話題になっているイタリア映画をちょこっと観て来ようと銀座に行ったら、予想よりずっと混んでいたので驚きました。30分前に着いたのに、もうあまり席が残っていなかったとはさすがレディースデイ、というか、この映画の魅力が口コミで広がったためでしょう。
 本国イタリアでは大ヒットしたという2008年作の「人生、ここにあり!」。だのに、なぜかフランスでは劇場公開されなかった作品です。

 1983年のミラノ、労組の旗手だったネッロ(クラウディオ・ビジオ)ですが、その熱心さを煙たがられて左遷されてしまいます。ネッロの異動先は、閉鎖された精神病院の元患者達のための協同組合でした。

 当時イタリアではその5年前に導入されたバザリア法によって精神病院の廃止に踏み切り、患者達を社会に溶け込ませようという試みが始まっていました。とはいえ、症状の程度や家庭の事情などから、元患者を全員家族の元に戻すわけにも行かず、自立することもできない患者達は、病院付属の協同組合で暮らし、単純な切手はりの仕事を与えられていたのです。

 統合失調症や誇大妄想などの精神疾患を抱える個性的なメンバーを前に、ネッロは彼らを特別扱いせず、台頭に向き合おうとします。
 「俺たちはイカレているけどバカじゃない」という彼らに生き甲斐を持たせるには、まずやりがいのある仕事を、と尽力したネッロの期待通り、元患者達は寄木細工のフローリングに才能を発揮。紆余曲折を経て、お店や住宅の床リフォームの仕事が舞い込んで来るように。
 しかし、ネッロが協同組合付きの精神科医に懇願して、元患者達に処方されている強い薬の量を減らして貰った結果、これまで薬でおさえられていた彼らのリピドーが活発になり、やがて予期せぬ事態へとつながって行くのでした。

 コメディが得意なジュリオ・マンフレドニア監督によるタブーの映画化だけあって、重いテーマを扱ってもユーモアがあちこちに。しかも、実話を元にした作品というから、イタリアの懐の深さを感じさせられます。
 何より、ネッロの元患者達を尊重して社会復帰を後押しする姿勢が、生来の温かな人間性に裏打ちされていて、とても感心させられました。
 今から、28年も前のイタリアが舞台なのに、あまり時代の違いが感じられず、イタリア現代社会を描いているかのよう。でもこの頃は日本のファッション業界も上り調子で、既に日本モード界はイタリアの上客だったのですね。
 やればできる!偏見や思い込みに縛られず、前へ踏み出してみよう、というメッセージが心地良く伝わって来る作品です。
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by cheznono | 2011-08-05 23:41 | 映画