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ミラノ、愛に生きる

b0041912_0504275.jpg 確かに映像美が楽しめる作品でした。50歳を超えているとは思えないイギリス人女優ティルダ・スウィントンのクールな美貌とイタリアの資産家の暮らしぶり、ミラノからサンレモにかけての自然美、そして腕によりをかけた料理の数々。
しかし、かくもあっさりと性愛が母性愛を凌駕するものでしょうか?説得力に欠ける展開には今も首をかしげています。

ロシア出身のエンマ(ティルダ・スウィントン)は若い頃、ミラノの実業家レッキ家の御曹司タンクレディに見初められて結婚。三人の子供を育て上げ、今は大きな屋敷を取り仕切り、ディナーの采配を振るうような毎日です。
ある日、息子エドアルド(フラヴィオ・バレンティ)から親友の料理人アントニオ(エドアルド・ガブリエリーニ)を紹介され、彼の作る料理に魅了されます。
以来、アントニオのことが頭から離れなくなったエンマは、娘の展覧会を見にニースに向かう途中、サンレモで偶然アントニオと再会、動揺します。
アントニオがエドアルドの出資でレストラン経営を予定しているサンレモ郊外の山荘に案内されるエンマ。
その日から、二人は急速に親しくなって、逢引きを重ねるのですが、エドアルドが母親と親友の関係に疑問を持ったことから、思いがけない悲劇が一家を見舞うのでした。

 結婚のためロシアからイタリアに渡って以来、自分の感情を抑えて、裕福なレッキ家にふさわしいイタリア人になり切ろうと努力をして来たエンマ。洗練された服に包まれ、メイドやお手伝いさんにかしずかれるような前時代的なゆとりのある暮らしを送りながら、どこか表面的な上流社会に違和感を感じていたのでしょう。
子供が独立し、レッキ家の事業も先代から夫と息子に譲られた今、エンマに突然訪れた出会いは、彼女をこれまでの抑制的な生活から開放し、性への新たな目覚めへと導きます。

 これはひょっとしてかの名作「レディ・チャタレー」に描かれた世界を意識しているのかも?しかし、完成度は雲泥の差。官能度は「レディ・チャタレー」を凌ぐにせよ、ヒロインの心の動きの描写が物足りず、アントニオの心理にいたっては殆ど描かれてないのが残念。
とはいえ、繊維業で名を成した一家の優雅な暮らしぶりと、イタリアらしい風景など、美しい映像と音楽がたっぷり楽しめる作品です。
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by cheznono | 2012-01-24 00:53 | 映画

善き人

b0041912_0435236.jpg ひっそりとスバル座で公開されている「善き人」。どうしようかなって迷いましたが、観に行って正解でした。
 ナチス政権下で翻弄される人間の姿をフランス側から描いた「黄色い星の子供たち」や「サラの鍵」に対して、当時のドイツに暮らす普通の人びとがどのように行動したかを知る格好の作品、現代にも通じる普遍性があります。
 あの名作「善き人のためのソナタ」とはまた違った角度で、危険な独裁政権下に身を置いた人間の心理と行動を考えさせられました。
 原作は英国の劇作家C・P・テイラーの戯曲で、世界的に知られた舞台劇とか。監督は新鋭ヴィセンテ・アモリン。BBC製作で英語版なのも嬉しいです。

 1937年のベルリン。文学部の教授で小説も書くジョン・ハルダー(ヴィゴ・モーテンセン)ですが、家では家事をしないピアニストの妻に代わって、幼い子供たちの面倒を見る善きパパ、同居する老母の介護もしなければいけません。
 ある日、総統官邸に呼び出されたハルダーは、ヒトラーが《人道的な死》をテーマにした彼の小説を気に入ったので、ナチスのために論文を書いてほしいと依頼され、とまどいます。
 それまで、ナチス政権を覚めた眼で見ていたハルダーでしたが、これがきっかけでナチスに取り込まれて行きます。しかし、ハルダーにはユダヤ人精神科医のモーリス(ジェイソン・アイザックス)という親友かつ戦友がいたのです。
 大学では教え子のアン(ジョディ・ウィテッカー)が積極的にハルダーに近づき、家事と介護に追われる家庭生活に疲れていたハルダーの心の隙間に入り込んで来ます。

 今やすっかりナチスのお気に入りとなってしまったハルダーは、幹部から入党を迫られて困惑します。迷いながらも勢いに流されてナチス党員となったハルダーは、大学でもいっきに学部長に昇進。裏切られた思いのモーリスに非難されても、時代の趨勢だからと気弱に言い訳するだけでした。
 私生活でも、アンの情熱に押され、妻子と別れてアンと同棲を始めるハルダー。一方、ナチスがユダヤ人への迫害を強化させたことに身の危険を感じたモーリスは、パリへの亡命を模索して、ハルダーにパリ行きの切符を買って来てほしいと頼みますが、ハルダーには外国行き切符の購入に必要な出国許可証がありません。
 モーリスと共に第一次大戦を戦ったハルダーは、ドイツのために従軍したユダヤ人は安全だと親友の不安を打ち消すのでした。

 しかし、フランス駐在のドイツ人書記官がユダヤ人によって暗殺される事件が発生。これに憤慨したナチスがユダヤ人一斉検挙を始めた夜、モーリスの身を案じたハルダーは何とかパリ行きの切符を手に入れるのですが。。

 ナチス政権下で、身を挺してユダヤ人を助けた人のドラマは多いけれど、この作品は、ヒトラーに抵抗を感じながら時代に流され、意に反して取り返しのつかない呵責を背負うことになった一介の善人を描いている点がポイント。
 善き友、善き家庭人だったインテリのハルダー、小説家でもある彼の洞察力にはしかし限界があり、人間の弱さも充分に持ち合わせていたわけで、その彼の優しさと良心をあてにしていた妻子も老母も親友も、それぞれが予期せぬ形で裏切られます。
 
 ヒトラー独裁体制下だったゆえにことは悲劇性を高めますが、自分も含めて恐らく多くの一般人が、こうした状況において無意識のうちに似たような選択してしまうのでは、と思うと深く考えさせられます。
 「君しか頼れる人がいない」とプライドを捨ててハルダーに懇願するモーリスの涙が、映画館を出た後も脳裏から離れませんでした。
公式サイト:http://yokihito-movie.com/
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by cheznono | 2012-01-16 00:48 | 映画

灼熱の魂

b0041912_044359.jpg 新年明けましておめでとうございます。2012年が穏やかな良い一年となることを心から祈っております。

 2011年の観納めは、ケベックとフランス合作映画「灼熱の魂」。ニースの大のシネマ好きの友達が、「これまで観てきた中で、一番とも云える映画」と絶賛していた作品なので、気合を入れて観に行きました。
 原題は「炎上」。ひりひりするような激情の意味もあるこのタイトル、冒頭でなくラストに作品タイトルが現れる映画を観たのは初めてかも知れません。

 2010年カナダ。双子の姉弟ジャンヌとシモンの母親ナワル・マルワン(ルブナ・アザバル)が、急逝に近い形で世を去ります。中東出身のナワルは、双子に奇妙な遺言と2通の手紙を遺していました。
 手紙は、内戦で死んだと聞かされていた父親と、存在さえも知らなかった兄宛て。二人を探し出して手紙を届けるようにという母親の遺志を尊重するジャンヌは、若き日の母ナワルの過去をたどるべく中東へと旅立ちます。

 1970年、中東の田舎。キリスト教徒のナワルは、異教徒の青年と恋に落ち、密かに赤ん坊を産み落とします。しかし、青年はナワルの家族に殺され、赤ん坊は孤児院に。村の面汚しだと糾弾されたナワルは、都会に逃れて大学に進学。仏語を習得します。
 やがて、キリスト教vsイスラム教の対立激化から内戦が勃発。大学も封鎖されたため、今こそ愛児を取り戻すチャンスと思い込んだナワルは、軍の包囲網をくぐって、ひたすら山あいの孤児院を目指します。
 けれど、やっとの思いでたどり着いた孤児院は、キリスト教徒によって焼き払われた後でした。子供たちはどこへ?

 孤児たちが連れ去られたという難民キャンプに向かうため、イスラム教徒に紛れて長距離バスに乗ったナワルですが、バスはキリスト教徒たちに襲われて炎上、ナワルも危うく焼き殺されそうになります。
 この強烈な体験が平和主義のナワルを大きく転向させ、クリスチャンだったはずがイスラム勢力に手を貸すことに。しかし、彼女のこの決断はとてつもない代償と犠牲を伴うものでした。

 20代の双子の姉弟が、想像もしなかった母親の若き日を、わずかな手がかりを頼りに少しずつたぐり寄せて行きます。
 まるで十字軍を思わせるような宗教対立の根深さと女性蔑視の中、はがねのような強い意思で運命に立ち向かった母親の壮絶な過去をたどる双子の気持ちの揺れが、観ている者にも痛いように感じられました。

 国内事情や歴史的背景などの説明を極力排除しているため、ややわかりにくい部分があるのは否めませんが、宗教対立による激しい憎しみの連鎖による悲劇を経験したナワルが、恩讐を越えて綴った最後の手紙には衝撃と感動が凝縮されています。
 ラストに現れる映画タイトルが、ずしりとそれはそれは重く迫って来る作品です。

 監督はドゥニ・ビルヌーブ、原作はレバノン系カナダ人の劇作家による舞台戯曲だそうで、ギリシャ悲劇を彷彿とさせるショッキングなプロットも舞台劇ならまた少し違った印象を受けるのかも。とはいえ,この作品がもたらすメッセージはいささかも変わらないでしょうが。 
 公式サイト:http://shakunetsu-movie.com/
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by cheznono | 2012-01-02 01:04 | 映画