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b0041912_033335.jpg 去年のカンヌ国際映画祭でオープニングを飾った時はぼちぼちの受けだったのに、劇場公開された途端、多くのフランス人が魅了された映画ミッドナイト・イン・パリ。アカデミー賞では最優秀賞脚本賞を受賞。
 ベルエポックからデザネ・フォルにパリに集った芸術家達の活気ある会話にわくわくさせられる映画で、とりわけ、ロストジェネレーションの作家達の小説に夢中になった経験のある人にはたまらない魅力を放つ作品だと思います。

 しかし、この邦題はちょっと耳ざわり。真夜中のパリの方がしっくりするのでは?パリのミッドナイトならまだしもミッドナイト・イン・パリだと何というかオー・ド・トワレのような違和感が。(eau de toiletteはオー・ド・トワレットが近い発音なのに、なぜか日本ではオー・ド・トワレで定着。トワレットだとトイレをイメージしてしまうから?単数系のトワレットは身支度とかお化粧の意なのですが。)

 ハリウッド映画で脚本家として成功したギル(オーウェン・ウィルソン)は、婚約者イネズ(レイチェル・マクアダムス)とその両親と共に大好きなパリにやって来ます。
 ギルは映画のシナリオから卒業して、本格的な作家への道を模索中。でも、せっかくのパリ滞在なのに、ロマンティストの文学青年ジルと実業家の娘で典型的なマテリアルガールのイネズとは価値観のずれが目立ち始めます。

 深夜、一人でホテルに戻ろうとしたジルは道に迷ってしまい、たまたま通りかかった黄色いプジョーに拾われます。行き着いた先は、なんとジャン・コクトーを初め、スコットとゼルダ・フィッツジェラルド夫妻やヘミングウェイが集う1920年代のクラブでした。
 翌晩もタイムトリップしたギルは、モディリアーニやピカソのミューズ的な謎の美女アドリアナ(マリオン・コティアール)と出会い、惹かれて行きます。
 小説家を目指すジルは、尊敬する作家たちの会話に多いに刺激されますが、ピカソとうまくいっていないアドリアナと心を交わした途端、一緒に19世紀のベルエポックまで遡ることに。

 過去の著名なアーティストたちとアドリアナに刺激され、ジルはこれからの人生に向けて大きな決断を下します。

 ウッディ・アレンの魔法で、文化と歴史を彩ったアーティストたちのサロンに紛れ込む楽しさは映画ならではのもの。
 夜な夜ないなくなるギルの行動を怪しんだイネズの父親が、ギルにつけた探偵(なんとガド・エルマレ)が、タイムスリップし過ぎてブルボン王朝のヴェルサイユに紛れ込んでしまうのもご愛嬌です。
 
 映画の公開当時は大統領夫人だったカーラ・ブルーニ・サルコジが出演しているのも話題になりました。モデル出身の歌手カーラ・ブルーニは、ベテラン女優ヴァレリー・ブルーニ=テデスキ(脚本家と監督の経験もあり)の父親違いの妹なので、演技の才能も期待されたのですが、意外に出番はわずか数シーンだけ。
 噂では、カーラ・ブルーニの演技があまりに拙く、ウッディ・アレンは何度も撮り直した挙げ句にやむなく彼女のシーンを大幅に削ることにしたとか。
 華麗な恋愛遍歴が何かと話題になるカーラ・ブルーニ、昨秋は念願の女の子を出産してますます注目されました。本当に大統領との間の赤ちゃん?という囁きも何のその、落選後は普通の人に戻ってお金儲けを目指したいという前大統領とモロッコに超豪華な別荘を物色中らしいです。
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by cheznono | 2012-06-22 00:45 | 映画

ル・アーブルの靴みがき

b0041912_0135749.jpg 静かにロングラン中の「ル・アーブルの靴磨き」。レビューが大幅に遅れてしまったので、ジョージ・クルーニーの「ファミリーツリー」について書こうかなと迷いましたが、「ファミリーツリー」はDVDで充分という気もするので、やっぱり「ル・アーブル」の方を選んでみました。

 アキ・カウリスマキ監督によるノルマンディ地方らしい下町人情劇と詩情あふれる美しい映像を使って、静かに政府の移民政策を批判している佳作です。

 若い頃はボヘミアン的作家だったマルセル(アンドレ・ウィレム)ですが、今は港町ル・アーブルで靴磨きをしながら、北欧出身の妻アルレッティ(カティ・オウティネンと)と愛犬ライカと共に、つましくも穏やかな日々を送っています。
 ある日、アフリカから密航して来た少年イドリッサに遭遇。不法移民を厳しく取り締る政府の意向で、躍起になって少年を追う警察の手からイドリッサを守るべく、マルセルの生活は一変します。

 そんな折り、妻アルレッティが不治の病で入院。医師から余命宣告を受けたアルレッティは、夫には事実を隠すよう願うのでした。

 イドリッサの母親がロンドンにいることを知ったマルセルは、密かに彼をロンドンに送り出そうと資金集めに奔走します。それまでお金にシブいマルセルを煙たがっていた近所の人達も、少年の苦境を知るや驚くべき連帯感を発揮して、マルセルの努力に支援を惜しみません。
 しかし、人好きのしない敏腕刑事(ジャン=ピエール・ダルッサン)が、マルセルたちの動きを察してさぐりに現れ、追っ手が迫っていることを匂わせます。

 ほぼ同じテーマを扱って大ヒットした「君を想って海をゆく」のリアリズムに対して、「ル・アーブル」は下町の人情ドラマをファンタスティックに料理した作品ですが、それでも現実にこういうことが起こり得るかもと思わせる力が秘められています。

 何より、ノルマンディの港町の片隅で地道に生きる人々の暖かいつながりと1つ1つのシーンが絵画のような美しさが印象的で、観る者の心を捉えます。「キリマンジャロの雪」のような役が多いお馴染みジャン=ピーエル・ダルッサンが、癖のあるやり手刑事を難なく自分のものにしていて、この映画に何とも言えない味を添えているのも魅力的。

 自身もハンガリー移民の父とイタリア人妻を持ちながら、極右政党をしのぐほどの強弁な移民政策を取って来たサルコジ大統領が去り、移民問題に穏やかなオランド大統領に変わった今、イドリッサのような難民の置かれた苦境が少しでも改善されることを祈らずにはいられませんが、時は欧州危機の真っただ中。失業率が高止まりするフランスで、移民に対する国民感情もこれまで以上に複雑なものがあるのは否めないかも知れません。

 ちなみにマルセルの愛犬ライカは去年のカンヌでパルム・ドッグ審査員特別賞を受賞。パルムドッグ賞そのものは「アーティスト」のあの芸達者ジャックラッセル:アギーが受賞。アギーはアカデミー賞の金の首輪賞も受賞しているから、ダブル受賞ですね。
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by cheznono | 2012-06-11 00:24 | 映画