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b0041912_0395895.jpg これもすぐ終わっちゃうのかなって思っていたら、意外にロングランしているケベック映画「ぼくたちのムッシュ・ラザール」。アルジェリア出身の劇作家による戯曲の映画化で、あちこちで賞を獲得した佳作です。
 ナンニ・モレッティ監督の「ローマ法王の休日」も観たかったのですが、映画通の知人が「時間のムダ。観ることないわよ」と言うので、ミシェル・ピコリのローマ法王は見送ってしまいました。

 モントリオールの小学校。朝の牛乳当番のシモン(エミリアン・ネロン)が、教室で縊死している担任のティーヌを発見。学校中がパニックに陥ります。動揺する生徒たちのためにカウンセラーが派遣され、代用教師にはアルジェリア出身のムッシュ・ラザール(フェラグ)が採用されます。
 ラザール先生は、故郷アルジェリアで19年の教職経験の後、カナダに渡り、既に永住権も持っていると説明。愛情深く子供たちにも人気があった故マルティーヌとはかなり異なる授業に戸惑いを感じた生徒たちも、やがてラザール氏の暖かさや真剣さに信頼を寄せ始めます。

 子供たちの動揺を まるでマルティーヌの自死をなかったかのように、一日も早く平常を取り戻そうとする学校側。

 しかし、マルティーヌに反抗的だったシモンは、先生の自殺の原因が自分にあるのではないかと悩み、利発な同級生アリス(ソフィー・ネリッセ)は授業中に容赦なくシモンの責任を問いただして、クラスメイトを更に動揺させてしまいます。

 一方、ムッシュ・ラザールは実は難民で、国外追放の瀬戸際に立っていました。

 家庭に問題があるせいで、何かと話題を提供してしまうシモン。アリスへの淡い思いを抱きながら、担任を自死に追いやったのではないかという呵責に苛まれる姿が演技とは思えないほど自然で驚くばかり。その孤独な表情には胸を締め付けられます。

 原作の戯曲ではかなり重きを置いていると見られるムッシュ・ラザールの過酷な経験。映画でも痛ましい過去を持つ彼の内的描写があれば、作品に深みが増したのではと思うとちょっと残念ですが、最後の授業でラザール先生が語る「木とさなぎ」の話は示唆に富んでいて、子供たちにも観客にもいろいろなことを問いかけているよう。

 ケベック映画にしては仏語が聴き取り易いのも助かりました。カナダ映画は英語も仏語もかなり独特の発音が飛び交うので、フランスで公開される時も、わかりにくい人のセリフには字幕が入ることがあるくらい。この作品でも、教員会議のシーンでは、あっけに取られるような発音の男性教員がいて、地域性を強く感じさせられました。
監督はカナダ出身のフィリップ・ファラルドー。
公式サイトは http://www.lazhar-movie.com/
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by cheznono | 2012-08-28 00:52 | 映画

屋根裏部屋のマリアたち

b0041912_23571057.jpg 猛暑を吹き飛ばしてくれるような爽やかな気分が味わえる「屋根裏部屋のマリアたち」。古き良き60年代が舞台のコメディとあって昨年前期のフランスでロングランした、それは楽しい映画です。ストーリーの展開はオーソドックスだけど、フランス映画らしい魅力が光るこの作品、中年男性には憧れの《真夏の夢》に近いかも知れません。

 1960年代初頭のパリで、妻シュザンヌ(サンドリーヌ・キベルラン)と二人の息子と模範的な家庭を築き、いささか格式張った生活を送っている株式仲買人ジャン=ルイ(ファブリス・ルキーニ)。シュザンヌがスペイン人の若い家政婦マリア(ナタリア・ベルベケ)を雇ったことから、これまで知らなかった世界に触れ、人生が変わり始めます。
 ジャン=ルイのアパルトマンの屋根裏部屋では、フランコ政権のスペインから逃れて来た家政婦たちが、力を合わせて仲良く暮らしていました。
 つましいながら同郷の家政婦たちと助け合って、生き生きと働くマリアの率直さやエスプリの利いた受け答えに惹かれたジャン=ルイは、次第にマリアとその仲間たちと親しくなり、その紳士的な態度で、家政婦たちからも信頼される存在になります。

 家政婦たちのパーティに呼ばれ夜遅く帰宅したジャン=ルイは、シュザンヌから思いがけず女性客との浮気を疑われ、部屋から追い出されたため、屋根裏部屋に直行。暖房もない粗末な小部屋に落ち着いたジャン=ルイは、生まれて初めて自分だけの空間を持った自由を味わいます。
 親の家業を継いだジャン=ルイは、仕事も義務でこなす毎日で、スノッブなブルジョワ的マダムのシュザンヌとの生活も形式ばかりが優先され、自分の意志で思い切り自由を味わった経験がなかったのです。

 陽気なスペイン女性たちに囲まれて、屋根裏部屋暮らしを楽しむジャン=ルイはついにマリアの愛も獲得。しばし幸せな時が流れますが、ある日突然、マリアが姿をくらましてしまうのでした。

 地方出身で、中産階級のパリジェンヌの家庭はこうあるべきという意識が強いシュザンヌと、聡明で飾り気がないマリアを初め、貧しいながら異国でたくましく暮らすスペイン女性たちのコントラストは、今も変わらぬフランス人とスペイン人の気質の違いに通じていて面白いです。

 私の南仏体験は、バラ色の街と呼ばれるトウールーズから始まるのですが、その時に滞在した屋敷で働いていた親切な家政婦さんもスペイン出身のマリアでした。既に21世紀だったので、そのうちマリアも定年を迎えたのですが、代わりの家政婦が見つからないからと、雇い主のマダムに拝まれて、週3日だけ通う契約にしていました。
 彼女もフランコ軍事政権から逃れるため、ピレネー山脈を超えてフランスに亡命した家族の一員で、私の好きなトルティーヤやスペイン風ケーキを焼いてくれたのが懐かしいです。
 トウールーズはピレネーに近いため、60年代にたくさんのスペイン人が流入し、今なおスペイン系が多い街ですが、この映画のマリアのように親戚を頼ったり、仕事を求めてパリに渡ったスペイン人も少なくなかったのですね。
監督は脚本家歴も長いフィリップ・ル・ゲー。
公式サイト:http://yaneura-maria.com/pc/
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by cheznono | 2012-08-05 23:57 | 映画