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危険なプロット

b0041912_0201118.jpg 玉手箱のようにアイデアを出しては個性的な映画製作に挑戦し続けるフランソワ・オゾン監督。フランスでは援助交際を扱った新作「17歳」が話題になったばかりですが、「危険なプロット」も面白い試みの映画でした。原作はスペインの舞台劇らしいですね。

 高校で国語を教えるジェルマン(ファブリス・ルキーニ)は、ギャラリーを主催する妻ジャンヌ(クリスチャン・スコット=トーマス)とDINKS夫婦。
 自宅で宿題の作文を添削中、16歳のクロード(エルンスト・ウンハウワー)が書いた文章に興味を覚えます。それは、クロードがクラスメイトのラファエル宅で見たことを観察力鋭く綴ったものでした。
 小説家志望だったジェルマンは、クロードの文才に感じ入り、放課後に個人指導することに。
 ラファ(ラファエル)が苦手な数学を教えるという名目で、クラスメイト宅に入り浸るクロードは、倦怠感を漂わせる専業主婦の母親(エマニュエル・セニエ)に関心を向け、家庭内のことを詳細に書き綴ります。

 毎回「つづく」で終わるクロードの作文は連続テレビ小説のよう。ラファの母親は息子が親友と慕うクロードの行動に覗き見的な匂いを嗅ぎ取り、自宅から遠ざけようとします。
 想像力で作文を書き続けるよう助言するジェルマンにクロードは、「自分は相手の家の中で実際に観察しないと文章にすることはできない」と訴えます。
 ラファの両親のプライバシーにまで踏み込んだクロードの作文にのめり込むあまり、ジェルマンは教師としての一線を超えてしまうのでした。

 障害で寝たきりの父親と二人暮らしのクロードは、しゃれた一軒家に暮らすクラスメイトのノーマルな家庭に憧れて、ラファとスポーツマンの父親との友達同士のような関係を羨ましくも冷めた目で見つめ、母親には官能的な妄想を抱きます。
 そのラファの母親は、稼ぎは良くとも俗物的な夫に関心は薄く、結婚で諦めた室内装飾家への夢がくすぶる毎日。
 一生徒の指導に深入りする夫が逆に相手に踊らされているとジャルマンに忠告するジャンヌは、情熱を傾けた仕事を失いそうな危機に直面しているばかりか、現実と空想が入り混じるクロードの作文に自身の生活もかき乱されてゆくことに。。
 
 大きな秘密が暴かれるような劇的な展開が待っているわけではないけれど、クロードの観察眼を通して、登場人物の立場の違いやそれぞれの抱える問題が浮き彫りになる過程が実にスリリング。

 とりわけ、ジェルマンの迎える結末に、作家として創作の世界に生きたかった人のカタルシスを見て、オゾン監督の「これが僕に取ってのハッピーエンド」というコメントが理解できたように思えました。
 来年2月に日本公開される「17歳」も待ち遠しいです。
 危険なプロット:公式サイト:http://www.dangerousplot.com/
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by cheznono | 2013-11-18 00:21 | 映画

もうひとりの息子

b0041912_0594842.jpg 重く難しいテーマを可能な限り明るく理想的に料理した感じの映画「もう一人の息子」。根の深い民族対立とアイデンティティーの問題を扱いながら、これだけ希望的な展開に持って行ったロレーヌ・レヴィ監督の手腕はたいしたものです。例え現実は遥かに厳しいものであったとしても。

 テルアビブで幸せな毎日を送っていたフランス系イスラエル人一家。しかし、父(パスカル・エルベ)は国防軍大佐、母(エマニュエル・ドゥヴォス)は医師という恵まれた家庭で育った18歳のヨセフ(ジュール・シトリック)が、兵役検査の結果、両親の子ではあり得ないと判明したことで、一家は多いに揺さぶられます。
 ヨセフの出生時、病院は湾岸戦争の爆撃で混乱していたため、別の赤ちゃんと取り違えられてしまい、しかも相手はイスラエル占領下の自治区に暮らすパレスチナ人一家でした。
 ユダヤ教徒として宗教を強く意識しながら成長したヨセフは、分断された向こう側に暮らすパレスチナ人の子供だったと知って、これまで信じて来たものが全てひっくり返るという衝撃に苦しみます。

 相手のパレスチナ一家も実の息子が自分たちの土地を奪い差別的な生活を強いている敵側でイスラエル人として育てられたことに大きなショックを受け、途方に暮れます。医学部を目指してパリにバカロレア留学させた自慢の次男ヤシン(マハディ・ザハビ)がユダヤ人の子だったとは。

 とても容易には現実を受け入れられない父親同士に対して、母親たちは歩み寄りも早く、互いの息子の写真を見ただけで愛情が自然に湧いて来るほど。さすが生みの親です。

 休暇で戻って来たヤシンは、人種の坩堝のパリの高校で教育を受けただけあって、ヨセフのようなアイデンティティーの喪失の危機を迎えることなく、むしろこの機会を利用して育ての両親に少しでも報いようとする余裕を見せます。このヤシンの明るさや積極性が事の重大さを和らげますが、反対にヤシンの兄は強烈な拒絶反応を示し、阻害された民族の抱えた苦悩と恨みの深さが否が応でも浮き彫りに。。

 葛藤を経てヨセフとヤシンの間に芽生える友情や両家の交流は、まるで家族が2倍に増えたごとく。それぞれが民族間の憎悪を超えて行く人間ドラマは爽やかな余韻を残してくれます。

 それにしても、神から与えられた土地と信じるイスラエル人側の街の繁栄と、対照的な先住のパレスチナ人自治区の暮らしぶりの格差が印象的でした。しかも、パレスチナ人がテルアビブに入るには入手困難な通行証が必要なのに、イスラエル人が分断壁を超えるのは簡単です。
 一方で、パレスチナ自治区の住人たちが強い連帯で結ばれ、自分たちのルーツや文化を大切に継承している姿には感動を覚えました。

 楽観的過ぎるという批判もあったというこの映画ですが、ロレーヌ・レヴィ監督はフランスの人気作家マルク・レヴィ原作の映画「Mes amis mes amours(我が友、我が愛)」(邦訳は「僕のともだち、あるいは、ともだちの僕」)の脚本と監督だったのですね。独創的な家族の物語を明るいタッチで、という点では共通性があるかも知れません。

もうひとりの息子:公式サイト:http://www.moviola.jp/son/
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by cheznono | 2013-11-13 01:02 | 映画

b0041912_184280.jpg  すごく楽しみにしていた映画「ムード・インディゴ」。ミリオンセラーとして知られる原作を書いたボリス・ヴィアンは、作家で詩人で音楽家でとマルチな才能を発揮しながら39歳でこの世を去った、フランスでは伝説的な人物ですが、恥ずかしながら私が知っていたのは、反戦歌「脱走兵”Le déserteur”」のみ。「ムード・インディゴ」の原作「うたかたの日々」が、日本で漫画化(岡崎京子作)されていることも知りませんでした。

 独身貴族というか高等遊民のような生活を送るコラン(ロマン・デュリス)は、 パーティで紹介された美女クロエ(オドレイ・トトウ)と一目で恋に落ち、夢のような日々を過ごします。
 コランの親友シック(ガド・エルマレ)とその恋人、コランのお抱え料理人ニコラ(オマール・シー)とその恋人たちと共にスケート場へ通い、パリの中心でシュールなデートを楽しみ、やがてコランとクロエは結婚へ。
 幸せいっぱいのコランは、お金のないシックも結婚できるようにと財産の3割近くをプレゼント。でも、シックは貰ったお金を心酔する哲学者ジャン=ソール・パルトルの著作蒐集のために使ってしまいます。

 新婚のクロエは、肺に蓮の花が咲くという奇病にかかってしまい、療養することに。胸の治療には多額の費用がかかるため、貯金を使い尽くしたコランは仕事を探します。
 報酬に引かれて非人間的な労働にも従事するコラン。しかし、クロエの病状は良くありません。シックも哲学者に入れ込むあまり、恋人とは結婚するどころか不協和音が生じて。。

 監督はミシェル・ゴンドリー。前半は、思い切りシュールでポエティックで楽しい画面が満載で、まるで魔術のように次々に創造性に満ちた映像が現れて、万華鏡のよう。
 幻想的な映像から、恋に夢中な若い二人の弾けるような高揚感が伝わって来て、観ていて幸せな気分になれます。

 甘い新婚生活からいっきに辛い現実に直面する後半、カラフルだった映像がモノトーンに変わり、愛妻を救うために不条理を受け入れざろう得ないコランと、哲学者信奉ゆえに自滅して行くシックの悲劇が描かれるのですが、いかんせん高速スピードでコミカルに進むあまり、事の重大さが薄められてしまった感が否めません。
 シュールで楽しい凝りに凝った映像にとらわれるあまり、深刻な展開が観る者にたいして響かないのは何とも残念だけど、大恋愛の思い出がコランの胸にそれは深く刻まれたであろうことは、切なくも美しく伝わって来る作品です。
「ムード・インディゴ」も「クロエ」もボリス・ヴィアンの愛したデューク・エリントンの同名曲から。「ルノワール」で好演した今注目の若手、ヴァンサン・ロティエが、ここでは一転してプラグマティックな神父を演じています。
公式サイト:http://moodindigo-movie.com/
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by cheznono | 2013-11-02 01:10 | 映画