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母の身終い

b0041912_116229.jpg 家族や医師の立ち会いによる尊厳死が法律で禁じられているフランスでは、高齢者や重い病気に苦しむ人の自殺が増加しています。そうした背景のもと、尊厳死が認められているスイスでの《身終い》を選んだ、ごく普通の主婦とその息子との最後の数ヶ月を描いたこの映画は、当人の望む最期の迎え方について深く考えさせられる秀作です。威厳を持って自らの選択と対峙する母親の姿に強く揺さぶられました。
レディースデイなのに映画館はガラガラでしたけど。

 長距離トラックのドライバーだったアラン(ヴァンサン・ランドン)は、麻薬の密輸に手を出した罪で1年半の服役後、とりあえず母イヴェット(エレーヌ・ヴァンサン)の家に身を寄せます。
 でも、厳格な母親は時に不肖の息子と激しくぶつかり、母子は互いの存在を疎ましく感じて苛立つ毎日です。
 職探しがなかなかうまく行かず、アパート探しも頓挫するアランですが、ボーリング場で知り合った女性(エマニュエル・セニエ)と好い仲に。
 イヴェットは転移性の腫瘍を患っていて、放射線治療に通っています。
 ある日、アランはイヴェットがスイスの施設での尊厳死を希望していて《終活》を進めていることを知り、愕然となります。母の病気は知っていたものの、事態がそこまで深刻とは。しかも、母親が自殺幇助による安楽死を望んでいることは全くの想定外だったのです。

 気難しい夫とあまり幸せとは言えない42年間を過ごしたイヴェットは、亡き夫にそっくりの振る舞いをするアランに愛情を示すことができず、前科持ちの負い目がある息子は、母の批判がましい態度に反発。二人の確執が痛々しいのに、イヴェットは余命が短いことを感じさせず、淡々と日常生活をこなす。その芯の強さが彼女の最後の選択につながるのですが、自分だったら、自分の家族だったらいったいどうするか、観る者は自問せずにいられません。

 先月末、パリのサンジェルマン・デプレに近い4つ星ホテルで、86歳のインテリ夫婦が心中しているのが見つかり、フランス中に衝撃が走りました。遺書には家族宛ての他に行政に対して法律が薬による安楽死を禁止していることへの非難が。。 
 二人は手をつなぎ、ビニール袋をかぶっての窒息死を選択。食べることのないモーニングサービスを頼んでいて、ボーイさんによって発見されるよう、計画的にことを進めていました。

 本人が納得した上でなるべく安らかな最期を迎えるために、尊厳死の権利については今後多くの国で議論をよぶことになるでしょう。

母の身終い:監督は「愛されるためにここにいる」のステファヌ・ブリゼ
公式サイト:http://www.hahanomijimai.com 
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by cheznono | 2013-12-16 01:17 | 映画

ある愛へと続く旅

b0041912_23572057.jpg ずっと気になっていた映画「ある愛へと続く旅」。ボスニア・ヘルツェゴビア戦争に翻弄されることになったイタリア人とアメリカ人夫婦のドラマは、《愛の深さ》よりもむしろ人間のエゴイズムとその結果がもたらした罪悪感の物語に感じられました。

 原作はセルジオ・カステリット監督の妻で脚本も担当したマルガレート・マッツアンティーニ。イタリアはもちろん、世界的に売れた本だそうです。恐らく小説の方は映画が描き切れなかった心理描写などが細やかで、もっと感動的なのではないでしょうか?

 ローマで16歳の息子ピエトロ(ピエトロ・カステリット)と3人目の夫と暮らすジェンマ(ペネロペ・クルース)は、サラエボ留学時代の友人ゴイコ(アドナン・ハスコビッチ)に呼ばれ、息子を連れて16年ぶりにサラエボを再訪。謎の死を遂げた前夫ディエゴの写真展に向かいます。

 80年代後半、イタリアのブルジョワ娘ジェンマはサラエボでゴイコの友達でアメリカ人のディエゴ(エミール・ハーシュ)と出会い、恋に落ちます。
 その後、ローマで再会した二人はめでたく結婚。カメラマンとして活躍するディエゴと幸せな日々を送るジェンマでしたが、不妊症であることがわかり苦悩します。
是が非でも愛するディエゴの子供がほしいジェンマは代理母を探すことに。
 不妊治療を受けるため政情不安なサラエボに戻った二人は、ゴイコに代理母志望の女性アスカを紹介されます。内戦で人工授精が難しくなったため、夫とアスカがベッドを共にするようお膳立てするジェンマでしたが、運命のその日からディエゴの様子に変化が。。
 イタリア人以上に陽気でお気楽極楽な若者だったディエゴが、妻の子づくりへの執念に付き合う過程で変貌して行く様子は印象的でした。

 アンジェリーナ・ジョリーの「最愛の大地」を観ていたお陰で、背景がよくわかって助かりました。ローマに戻ったディエゴが、パーティを楽しむイタリア人仲間と内戦に苦しむサラエボ市民との落差に後ろめたさを感じて、再びサラエボに旅立ったけれど、実はもっと重い罪悪感に苦しんでいた、というポイントが今ひとつぼやけて見えるのが惜しいです。
一方でジェンマの抱える後ろめたさは、はっきりくっきり描かれます。
 
 内戦という民族のエゴに、お金で子供を得ようとする個人のエゴが重なった結果であっても、この世に生を得て大切に育くまれた命のまぶしさが、全てを水に流さんばかりの力を持つのだと、ピエトロ少年の澄んだ眼が力強く語っているよう。
 それでも、私は複雑な思いでエンドロールを見送りました。

ある愛へと続く旅:公式サイト:http://www.aru-ai.com
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by cheznono | 2013-12-09 23:51 | 映画