華麗なるギャツビー

b0041912_23393861.jpg 今週は遅ればせながらディカプリオ版ギャツビーについて。
 その昔、レッドフォード+ミア・ファロー版の「華麗なるギャツビー」には強い影響を受け、スコット・フィッツジェラルドに惚れ込むきっかけとなりました。ウッディ・アレンの「ミッドナイト・イン・パリ」でパリに集った1920年代のロストジェネレーションの面々をかいま見た時も、真っ先に思い出したのはレッドフォード版ギャツビーでしたし。

 さて、覚悟はしていたけれど「ムーラン・ルージュ」のバズ・ラーマン監督のデュカプリオ版は予想以上にエンターテイメントに徹していたため、上映時間が合わず3Dで観なかったことを後悔する結果に。
 ディカプリオのギャツビーは、凶暴性を秘めた孤独な成り上がり者が忘れ得ぬ女性への恋情に身を焦がすという複雑なキャラクターをうまく自分のものにしていて、レッドフォード版よりも現実味が感じられます。しばし猛暑を忘れて、古き良きアメリカンドリームの絶頂と破滅とをディカプリオの演技に観るのは悪くないかも知れません。

 過熱気味のウォール街に職を得て、ロングアイランドの小さな家に落ち着いたニック(トビー・マグワイア)が、隣の豪邸(城?)で夜な夜な大パーティを催す謎の大富豪ギャツビーに興味を持ちます。

 ある日、ギャツビーから正式にパーティに招待されたニックは、ギャツビーの真の目的が対岸に暮らすニックの従姉デイジー(キャリー・マリガン)との再会にあると知って驚きます。
 5年前、貧しい軍人だったギャツビーは、ブルジョワ家庭の令嬢デイジーと愛し合ったものの、お金のないギャツビーにとって富豪の娘は所詮高嶺の花。従軍したギャツビーはそのまま行方知らずに。
 戦場から帰らぬギャツビーを諦めたデイジーは金持ちの実業家トム・ブキャナンと結婚し、一人娘を授かります。

 5年後、怪しげな手法で巨万の富を築いたギャツビーは、人妻となったデイジーと二人が失った過去を取り戻すべく、金に糸目をつけずにデイジーの気を惹こうと躍起になります。
 愛は再燃し、逢瀬を楽しむ二人でしたが、夫の浮気に失望しているはずのデイジーなのに、いざとなると煮え切りません。自分の描いた理想の女性をデイジーに投影するギャツビーは、そんなデイジーの迷いが理解できず、その思い込みの強さがやがて悲劇を呼び込むことに。。

 本作はしきりにメロドラマとして紹介されていますが、私には甘さや切なさよりも大げさなシーンやコメディ度が目についてしまって。。第一、文学の香りはどこに行ってしまったのでしょう?

 富裕層と労働者階級との恐るべき格差やマネー至上主義が行き着いた先にもたらされる崩壊も、徹底した娯楽性の陰に印象が薄まってしまっているのも残念。
とはいえ、栄光を手に入れた野心家が愛する女性の本質を見ようとするどころか、その幻に思い入れたあまり、破滅へと突き進んでしまう姿を体現したディカプリオは一見の価値があります。

 個人的にはやっぱりレッドフォード版がお勧め。文学性もメロドラマ度もノスタルジー度も遥かにこちらに軍配があがると思えるのです。

 余談ですが、パリ7区、エッフェル塔の近くにあるバー・レストラン「ル・ギャツビー」は、ジョナサン(ジョナタン)・ザッカイ(「真夜中のピアニスト」や「マーガレットの素敵な何か」に出演)もお気に入りという1920年代のシックな雰囲気を再現した人気のお店。一度行ってみたいと願いつつ、未だ機会がありません。多分、来年こそ。。
Le Gatsby:64,avenue Bosquet, Paris
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# by cheznono | 2013-07-15 23:44 | 映画

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 マリーアントワネットが処刑前夜に子供達を頼むという遺書を書き残した9つ年下の義理の妹エリザベート・ド・フランス。悲しいことにその手紙は義妹や娘のマリー・ルイーズ(マダム・ロワイヤル)に読まれることはありませんでしたが、天使のような人柄だったというエリザベートには以前から関心がありました。
 今やフランスでも過去に埋もれ忘れられた人物像の一人に数えられるそのエリザベート姫をテーマにした初めての展示会がヴェルサイユで開かれています。

 場所は宮殿からほど近いマダム・エリザベートの館。ネオクラシック風の屋敷の中は思いのほかシンプルで、ヴェルサイユの華やかさに比べると質素と言えるくらい。人懐こい反面、宮廷でのディナーや派手な遊びを好まなかったエリザベートの人柄が彷彿とされる佇まいでした。
 華美なドレスや宝飾品に国家予算をつぎ込んだと批判されたマリーアントワネットとは対照的に、おしゃれに関心を示さなかったというエリザベート姫の地味ながら品のあるドレスも展示されています。

 エリザベートは19歳のお祝いに兄ルイ16世からプレゼントされたこの屋敷と領地をいたく気に入りましたが、兄王から25歳(成人とみなされる年)になるまではこの屋敷に泊まることや男性客を呼ぶことを禁じられため、毎日宮殿から馬でこの屋敷を訪れては、庭の手入れや田舎風の暮らしを楽しんだそうです。
 信心深く思いやりがあり慈愛に満ちていたというエリザベート。領地内で収穫された作物やミルクを貧しい農民や孤児、病人達に配ったりと何かと世話を焼いたので、地元の人々からも慕われていました。

 彼女が結婚しなかったのは、兄王一家のそばを離れたくなかったからと、当時エリザベートに見合う外国の王子が見あたらず(求婚者が現れなかった)、唯一の候補がマリーアントワネットの兄でオーストリア皇帝のヨーゼフ2世でしたが、既に妻二人に先立たれた皇帝とは親子ほどの年の差だったため、彼女はこの縁談を渋り、フランスにとどまらせてほしいと兄王に懇願します。
ちなみにエリザベートは、信仰深い王女が任命されることの多かった修道院長の職も断っています。

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 しかし、25歳を迎えた年にフランス革命が勃発、エリザベートはこの屋敷に暮らすことなく、兄夫婦と共にヴェルサイユからパリに連行され、チュルリー宮に軟禁されることに。
革命を恐れた兄のプロヴァンス伯やアルトワ伯がそれぞれ亡命し、幼い頃から多大な影響を受けた叔母たちもイタリアに亡命。兄や叔母たちと一緒にいくらでも国外逃亡する機会があったエリザベートでしたが、彼らを援助こそすれ、自らはルイ16世一家と行動を共にすることを選択。
心底兄を慕っていたのと責任感から兄夫婦の元にとどまることを決意した強い意思の持ち主だったと推察されます。
 そして、エリザベートは亡命先のアルトワ伯と頻繁に連絡を取って、王制維持とルイ16世救出の機会を探ったようです。

 14、5歳でお嫁に行くのが普通だった時代に25歳で成人というのは何とも遅い感じですが、ブルボン王朝のプリンセスから突如フランス革命の怒濤に巻き込まれ、生死に関わる選択を決心するには充分に若過ぎる年齢でしょう。
 エリザベートはチュルリー宮からヴァレンヌ逃亡の際にも兄一家に同行し、逃避行失敗後はテンプル塔に監禁されて、マリーアントワネット処刑の翌年1794年5月に革命法廷を経て、ギロチン台に送られます。享年30歳でした。

 屋敷内ではエリザベートに関連ある品々を、そに奥にあるオランジェリーでは、エリザベートの生涯を紹介しているこの展示会は7月21日まで。嬉しいことに入場無料です。
http://elisabeth.yvelines.fr/
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# by cheznono | 2013-06-18 14:35 | 不思議の国フランス

リンカーン

b0041912_2320962.jpg 泥沼化した南北戦争の中で再選されたリンカーン大統領の最後の数ヶ月間を公私共に描いたスピルバーグ監督の「リンカーン」。ダニエル・デイ=ルイスがまるでリンカーンの生まれ変わりのように難役を自分の物にしているので、例え歴史的背景がおぼろげでも充分見応えがありました。

 貧しい農民の息子がほぼ独学で弁護士資格を取り、やがて国政に身を投じて、ついには大統領に選ばれて、人々の信望を集めたエイブラハム・リンカーン。やや美化されているのは否めないものの、当時から合衆国にはこれだけの人物を排出する土壌があったのかと感心させられます。
 大変な犠牲を払って移民達が大国を作り上げる過程でこういう人物が傑出することが、アメリカ民主主義を築き上げて行ったのですね。フランスはナポレオン3世による第二帝政の時代。日本では新撰組が活躍し、幕府が長州征伐に乗り出した時代です。

 リンカーンが奴隷解放宣言をしたものの、南部では奴隷制が続き、南北戦争も4年目に突入した1865年。北軍の勝利が近い中、大統領は戦争終結の前にまず連邦議会で奴隷制度の廃止を定めた憲法修正法案13条の可決を目指します。
 しかし、民主党を初めお膝元の共和党内にも反対派が大勢いて、修正案成立はいばらの道。

 一方、家庭内では子煩悩なリンカーンですが、彼の良き理解者ながら、息子を病死で失った傷から情緒不安定となった妻メアリ(サリー・フィールド)からヒステリックに攻撃されることもしばしばです。
 反対派の懐柔策に疲れ、家でも孤独な大統領は、常に自分の感情を抑制しているかのようですが、修正案を通すためには独裁者のような一面をのぞかせることも。。
 そして、いよいよ連邦議会の朝が来ます。

 奴隷制の理不尽さを「ジャンゴ」(映画としては悪夢のようでした) で、「声をかくす人」(すごく見応えがあってお勧めです)でリンカーン暗殺事件とその後の裁判を観てから間もなかったので、「リンカーン」にも入り込み易かったですが、やはり南北戦争について予習かおさらいしておくとより楽しめることでしょう。

「息子を亡くした時、悲しみで胸が張り裂けそうだったのに、あなたは私と同じようには悲しまなかった」と責める妻メアリに「自分も全く同じ思いだった、君があんまり泣いて騒ぐから、僕まで一緒に泣き叫べなかっただけだ」とつぶやくリンカーン。
「君が悲しみに押しつぶされるか、悲しみを乗り越えて前に進むかはあくまでも君次第だよ」と一見突き放すかのような助言がこだまのように今も耳に響きます。
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# by cheznono | 2013-05-20 23:32 | 映画

愛、アムール

b0041912_1152130.jpgカンヌ映画祭でパルム・ドールを受賞した後、アカデミー賞で外国語作品賞に選ばれたミヒャエル・ハネケ監督の「愛、アムール」。フランスに比べて遥かに家庭で介護するケースの多い日本では、ここに描かれた老老介護の過程はまさに身近な現実です。
カップルであっても親子であっても一人であっても、身体が効かなくなる人生の終盤とどのように向かい合うか、改めて考えさせられました。

パリに暮らす音楽家夫婦のジョルジュ(ジャン=ルイ・トランティニャン)とアンヌ(エマニュエル・リバ)。悠々自適な引退生活を送る二人でしたが、ある時、アンヌが脳疾患で発作を起こします。
半身不随の車いす生活となったアンヌは、夫にもう病院には戻さないでと頼み、ジョルジュは妻との約束を守るべく自宅での介護生活に踏み切ります。
トイレもシャワーも夫の手を借りないと用を足せなくなったアンヌ。必然的にアパルトマンに引きこもりとなった二人の間にはこれまで以上に濃密な絆が育まれ、逆に時折ロンドンからやって来る一人娘(イザベル・ユペール)とは距離感が深まります。

ようやく介護のリズムに慣れた頃、アンヌに二度目の発作が襲い、アンヌの病気はいっきに進行、意思の疎通も難しい状態に。
しっかり者だった母親とまともな会話も成立しなくなってしまったことが受け入れられない娘と、頑に自宅での介護を続けようとする夫。孤立する老夫婦に容赦なく病状は悪化して行き。。

妻への愛や同情ゆえに、自宅で介護にかかりきりになるジョルジュが精神的に追いつめられて行く過程は、日本のあちこちで日常的に起こっている現実と重なる部分も多いでしょう。
確かに夫婦愛には打たれますが、北欧には及ばないにせよ、社会保障制度が恵まれているフランスで、ブルジョワの文化人カップルが選択した老老介護のあり方にショックを受けました。
例えば、訪問介護士を自費だけで雇い、契約も口約束だけどの個人取引で済ませるなんて、問題が起こるのは自明の理では?
とはいえ、家政婦さんを雇う時はもちろんのこと、住まいの賃貸契約も代理店を通さず個人契約する場合が多いお国柄では、さほど不自然ではないのかも知れません。

ケアマネージャーが訪問介護事業所を探してくれ、たとえ短期のヘルパーさん派遣であってもきちんと契約を交わし、ケアマネ立ち会いのもとに何枚もの書類に署名捺印する日本のシステムは、責任の所在もはっきりしていて素晴らしい。

ヨーロッパの街角でよく見かけるアンヌとジョルジュのような熟年カップルが、尊厳のある自立した生活を孤立することなく続けられる社会とは?難問を突きつけて来る作品ですが、ラストのイザベル・ユペールの仕草には不思議と希望が見えるようでした。
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# by cheznono | 2013-04-14 01:18 | 映画

冬のシャンティイ城

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  あけましておめでとうございます。
2013年が皆さんにとって、楽しいことに満ちた一年でありますように!
今年もどうぞよろしくお願い致します。

 パリから北へ列車で25分、競馬場を挟んで広大な森の中に現れるシャンティイ城。凍えるような12月の澄んだ空気の中で、その姿は想像以上に優雅でした。
 シャンティイはブルボン王家の傍系にあたるコンデ公の城。ルネッサンス様式の美しいグランシャトーはフランス革命時にたたき壊されてしまいましたが、19世紀に修復され、かつての姿を取り戻しています。
 この城は、17世紀にコンデ公がルイ14世をもてなした大パーティで腕をふるった宮廷料理人ヴァテールが、3日目に予約した魚が間に合わなかったために自殺した悲話でも有名。実はヴァテールがかの生クリームのホイップを創作したのはシャンティイではなかったそうですが、彼が誇り高い料理人として殉じた場所にちなんでクレーム・シャンティイの名を今に残しています。
 
 何より圧巻は、このお城の持つ約550点の絵画コレクション。ニコラ・プサンの作品やラファエロ、アングルを初め、美男王ルイ15世の肖像画やフランソワ=ユベール・ドルーエによる若きマリーアントワネットの肖像画もここに。ピエロ・ディ・コジモの「美しきシモネッタ」はその小ささにびっくりです。
 この城の最後の住人だったオーマル公(王政復古後の最後の王ルイ・フィリップの息子)の遺言により、数々の絵画はオーマル公の好みで配置したままに保たれ門外不出のため、また同じ絵を観たくなったらシャンティイまで行かないといけません。
 
 広大な庭園はヴェルサイユ同様ル・ノートルによるデザイン。季節外れのため、人影もまばらな庭の散策は気持ちよかったのですが、イギリス庭園も英国-中国庭園もいったいどこが?という感じのシンプルさ。同行の友人いわく、おそらく一度もイギリスや中国に渡ったことのない庭師が、想像だけで作ったからに違いないとのこと。
 広過ぎて繊細さに欠ける代わりに緑のシャワーを思いっきり浴びてリフレッシュ、満ち足りた思いになれました。「ヴェルサイユの庭よりずっと心地良いわ」とは友人のママンの感想。いつか、ヴォー・ル・ヴィコントの庭園と見比べれてみたいものです。

シャンティイ城:http://chateaudechantilly.com/
宮廷料理人ヴァテール http://www.amazon.co.jp/%E5%AE%AE%E5%BB%B7%E6%96%99%E7%90%86%E4%BA%BA%E3%83%B4%E3%82%A1%E3%83%86%E3%83%BC%E3%83%AB-DVD-%E3%82%B8%E3%82%A7%E3%83%A9%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%83%89%E3%83%91%E3%83%AB%E3%83%87%E3%83%A5%E3%83%BC/dp/B00005J50K
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# by cheznono | 2013-01-03 00:41 | フランスの四季

王妃に別れを告げて

b0041912_0232.jpg フランス革命勃発時のヴェルサイユ宮殿で、蜂の巣をつついたように右往左往する宮廷人たちを尻目に王妃マリーアントワネットへの忠誠を貫くうら若い朗読係シドニー。彼女から見た緊迫の3日間を描く「王妃に別れを告げて」。 
 ベテラン、ベノワ・ジャコー監督は、シドニーの王妃への思慕と王妃のポリニャック夫人への寵愛という三角関係を軸に、沈むタイタニック号のようなヴェルサイユの様子を映画にしたかったと語っています。
 フランスメディアがこぞって絶賛したこの作品、観客の感想は賛否両論でかなり分かれましたが、私もいまひとつピンと来ませんでした。グザヴィエ・ボーボワ(「神々と男たち」の監督です)のルイ16世もさることながら、一番違和感があったのは、ダイアン・クルーガーの王妃役。加えて、怪しく美しい同性愛的関係の強調です。キルスティン・ダンスト(ソフィア・コッポラの「マリーアントワネット」の主役)の方がまだ雰囲気が実像に近かったのでは?

 突然のバスティーユ陥落で今後の身の振り方を苦慮する貴族やさっさと逃げ出す宮廷人の中で、王妃の朗読係シドニー(レア・セドウ)は、敬愛するマリーアントワネットに忠誠を誓います。
 故郷オーストリアに避難したいのはやまやまの王妃でしたが、ルイ16世がヴェルサイユにとどまる方を選んだため、王と行動を共にすることに。
 王妃は大のお気に入りであるポリニャック公爵夫人(ヴィルジニー・ルドワイヤン)が自分と同様、革命派のギロチンリスト上位に載っていると知り、即座に亡命を勧めます。王妃の本音は、そうはいっても自分を見捨てて行かないで、という思いだったでしょうが、ポリニャック夫人はあっさりと逃亡を承諾。
 最後まで王妃に仕えるつもりだったシドニーは、その身代わりを頼まれ動揺します。それは、命がかかった危険な使命。けれども、孤児のシドニーに選択の余地はありません。 
 かくて、ヴェルサイユを後にしたシドニーはポリニャック夫妻と共に、革命派が目を光らせる国境へと向かうのでした。

 宮殿での外ではオーストリア女、浪費家、レズビアン(その前は浮気女と呼ばれていた)等々と中傷され、目をかけた取り巻きたちに去られて孤立する王妃に、変わらぬ純真な思慕を寄せる朗読係に扮したレア・セドウが光っています。
  王妃のポリニャック夫人への過度な思い入れにジェラシーを感じるシドニーが、「あなたを見捨てないわ」と言ってくれた王妃から、ポリニャック夫人の身代わりを命じられて、その場で彼女の衣装を身にまとい、死を覚悟して階段を降りて来る時の凛とした表情が忘れられません。
 しかし、気に入った使用人にはとても思いやりがあったというマリーアントワネットが、朗読係にこういう任務を課したとは信じ難い気が。。

 原作はフェミナ賞に輝いたシャンタル・トーマの同名小説。原作者も映画と小説は別物と言っていますが、設定や解釈がかなり違っていたため、ちょっと戸惑いました。でも、華やかなヴェルサイユで、貴族と使用人を合わせると3000人余りの人々が、住む部屋も足りずにひしめき合って暮らしていた様子は、まさにこの映画の通りだったに違いないそうです。

「ヴェルサイユ宮殿に暮らす優雅で悲惨な宮廷生活」ウィリアム リッチー ニュートン (著), 北浦 春香 (翻訳)
映画を観てから、ヴェルサイユ生活の舞台裏が詳しく記されているこの本を読むと、当時の宮廷事情がより興味深く感じられるかも知れません。
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# by cheznono | 2012-12-26 00:03 | 映画

b0041912_22562419.jpg 6月末にフランス映画祭で観た「ミステリーズ 運命のリスボン」。フランスでロングランしただけあって、4時間半近い長編大作にもかかわらず会場は満員で、前評判の高さが感じられました。
 チリ出身でパリ在住だったラウル・ルイス監督が遺言のつもりで撮ったという本作は、気合いを入れて観ないと各エピソードのつながりや時制が呑み込めなくなりそうでしたが、超複雑な構成を上手く料理した手腕はさすが。
 19世紀のポルトガルの文豪カミロ・カステロ・ブランコによる原作は相当読み応えがありそうです。

 ベースとなる舞台は19世紀のポルトガル。過去と現在が交差する物語は、修道院で成長する少年ジョアンと彼の後見役であるディニス神父(アドリアヌ・ルーシュ)を軸に繰り広げられます。
 14歳になるジョアンはディニス神父から自らの出生の秘密と、伯爵夫人である母アンジェラ(マリア・ジュアン・バシュトゥシュ)の悲恋を知らされて動揺しますが、ディニス神父は全てをジョアンに打ち明けた訳ではありません。
 「もの食いナイフ」と呼ばれた凶暴な男に暗殺されそうだった生後間もないジョアンを救ったディニス神父にも出生の謎があり、神父になる前はフランスでかなわぬ恋に身を焦がした過去が。

 成長したジョアン(アフンス・ピメンテウ)はフランスに留学。そこで出会った年上の未亡人エリーズ(クロチルド・エム)に惹かれますが、彼女はブラジル帰りの成金アルベルト(リカルド・ペレイラ)に失恋して以来、引きこもり状態で、アルベルトへの復讐を企てます。
 エリーズはディニス神父のかつての想い人ブランシュ(レア・セドウ)と親友ブノワとの間にできた娘でした。 一方、羽振りの良さでリスボン中の話題をさらったアルベルトは、その昔「もの食いナイフ」と呼ばれた男で、彼はジョアンの実母アンジェラの夫の元愛人を妻にしています。
 ジョアンはエリーズのためにアルベルトに決闘を申し込むのですが。。。

 巧みに織られた糸のように時空を超えた人間関係が交差する物語は見応え充分。でも、4時間半の間ストーリーを追うことに精一杯集中したせいか、意外に見終わった後の余韻が残らなかったのが残念です。見事な構成と美しい画像に終始引き込まれたのは確かだけど、それ程心に残るものが無かったのは、これが文学作品でも歴史大作でもなく、運命の不思議と偶然を駆使したストーリーテリングに近いからでしょうか?

 しかし、なんと言っても嬉しかったのは、上映後にメルヴィル・プポーが登場して、亡き監督の思い出や映画作りについて語ってくれたこと。
 11歳でルイス監督に見出されて以来、監督の11作品に出演したというメルヴィル・プポー。婚約者に振られ、傷心の思いでルイス監督のアパルトマンに泊めて貰った日、夜中にトイレに起きたら、書棚だらけの廊下に迷って自分の寝ていた部屋がわからなくなり、仕方ないからそのまま廊下の本棚の隙間で眠ったとか。
 その時のフィアンセとは、16歳の頃婚約してたというキアラ・マストロヤンニかな?なんて想像してしまいました。
 因みにこの映画でプポーは「ナポレオン皇帝万歳!」と叫ぶだけのゲスト出演です。
公式サイト : http://www.alcine-terran.com/mysteries/
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# by cheznono | 2012-10-28 22:57 | 映画

そして友よ、静かに死ね

b0041912_0311048.jpg 男の友情を描いたフレンチノワール「そして友よ、静かに死ね」をやっと観て来ました。監督は警察映画の傑作「あるいは裏切りという名の犬」のオリヴィエ・マーシャル監督。今回も実話を元にした作品で、寡黙で思慮深い主人公モモンに扮したジェラール・ランヴァンの表情が目の裏に焼き付くような映画でした。

 70年代初めに、警察も一目置くほどの鮮やかな手口で銀行強盗を繰り返した伝説の強盗団“リヨンの奴ら”を率いたモモン。25年前にきっぱり足を洗い、今は還暦を迎えたモモン(ジェラール・ランヴァン)は、たいていの人が人生に期待するもの:成功、財産、愛する家族に信頼できる友人仲間などを全て手に入れ、穏やかな毎日を送っていました。
 そこへ13年前に姿を消した親友セルジュ(チェッキー・カリョ)がリヨンに舞い戻ったものの、張っていた警察に逮捕されたから、何とか脱獄させようという連絡が入ります。
 幼い頃、ジプシーのキャンプ出身のために学校でいじめられたモモンを守ってくれたセルジュ。以来、二人は無二の友人となり、19歳の時にさくらんぼを盗んだ罪で収監された時も一緒でした。
 
 やがて、自らの強盗団を結成した二人は、警察によるギャング一掃作戦で捕まるまでの数年間、銀行強盗で稼ぎまくり、フランス中にリヨンのギャングたちの名を轟かせる存在に。
 逮捕され服役した後、足を洗ったモモンに対し、セルジュは麻薬取引にのめり込み、今回その親分を裏切ったため命を狙われる身となり、たとえ刑務所に入っても中で暗殺される可能性が高いという危機に直面していました。
 「家族のことを考えて」と願う妻ジャヌー(ヴァレリア・カヴァッリ)には、セルジュは自業自得だよと言い切るモモンでしたが、やはりセルジュは兄弟のような存在。長年苦労をかけた妻には打ち明けずに、若い連中を使ってセルジュを脱獄させます。
 お陰でモモンは、警察と麻薬取引の組織との両方から目を付けられ、脅される身に。しかも、セルジュが裏切った麻薬組織の陰には大物がいる気配が。しかし、セルジュは自分を救い出してくれたモモンにも真相を話そうとしません。
 荒っぽい麻薬組織はセルジュの娘を狙い、モモンの自宅にも危険が迫って。。

 男同士の強い絆というテーマは「最強のふたり」と同じでも、こちらは生きるか死ぬかの綱渡りギャング人生を送って来た仲間同士なので、友情を貫くにはかなりきわどい道を歩まざろう得ず、最後には哀感漂う結末を迎えることになります。
 
 原作は主人公エドモンド・ヴィダル(モモン)による自伝「ひとつかみのサクランボのために」。ジャン・バルジャンではないけれど、閉店した八百屋から盗んだサクランボのために、半年(実際には63日)の刑務所暮しを余儀なくされたのは、モモンがフランス国籍はあるものの社会的に厳しい差別の対象にされているジプシー(ロマ族)出身だから。
 上告不可、執行猶予なしで収監されたその刑務所でモモンは強盗の極意を学び、出所後はドゴール大統領の闇組織に誘われ、本格的に強盗の道に入って行く、という運命の皮肉。
 
 サルコジ前大統領に目の敵にされたジプシーのロマ族は、キャンピングカーでルーマニアやブルガリアから流れて来る“旅する人々”で、同じヨーロッパ人でもフランス国内での就業などが著しく制限されている受難の民。未だに水道も電気も通わない劣悪な条件のスラムやキャンプ場で暮らし、仕事がないため犯罪に走る率も目立って高いため(この2年間でロマ族による犯罪は70%近くも増加)、フランスにとっては悩ましい存在です。
 政府は断続的に彼らの不法キャンプを強制的に排除しては、わずかなお金や羊を与えて、故郷にお戻り頂くよう国境まで送って行くのですが、しばらくするとまたフランスに戻って来てしまう、といういたちごっこが繰り返されています。
 ロマの人々は故国に戻っても、やはり激しい民族差別とより惨めな生活が待っているだけなのだとか。

 まるで非行の温床のように忌み嫌われるジプシーのキャンプから、モモンのような伝説のギャングが生まれ、今もリヨンの豪邸で家族や仲間を大事にしながら、穏やかに暮らしているというのはどこか感慨深いものが。
 この夏もリヨンを含むフランス各地で不法キャンプが強制撤去され、泣き叫びながら追い出されるロマ族の様子が放送されたのをモモンはどんな思いで観ていたでしょうか?
公式サイト:http://soshitetomoyo.com/
エドモンド・ヴィダルの自叙伝: Pour une poignee de cerises
http://www.amazon.fr/Pour-une-poignée-cerises-Itinéraire/dp/2749914876/ref=sr_1_1? s=books&ie=UTF8&qid=1349537149&sr=1-1
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# by cheznono | 2012-10-07 00:40 | 映画

最強のふたり

b0041912_1311013.jpg オードリー・トトウの「アメリ」の記録を抜き、過去20年間に世界中で一番ヒットしたフランス映画となった「最強の二人」。昨年末から今春にかけてフランスでロングランした時は、まさに社会現象となるほど話題をさらった作品で、実話を元にしたとは容易に信じられないくらい映画らしい展開が楽しめる、それは愉快なコメディかつみごとな人生讃歌に仕上がっています。
 
 パリの豪邸に暮らす障害者のフィリップ(フランソワ・クリュゼ)は、首から下が麻痺してしまった自身の介護者を募集。多数の応募者の中からこともあろうに移民街出身の粗野な青年ドリス(オマール・シー)を採用します。
 教養あふれるインテリ大金持ちのフィリップに対して、介護の経験はおろか真面目に仕事を探す意思さえなかったドリス。自分の邸宅内に治療室を設け、秘書はもちろんのこと専属の看護士や理学療法士を抱えるフィリップと、貧しい移民街の団地で子だくさん一家に育ったドリスとではピンキリに近い格差があり、二人の会話が噛み合わないこともしばしば。
 介護の方法も周りがハラハラするほど乱暴なドリスの、しかし、雇い主に媚びることもなく、中途半端な同情や憐憫のかけらも見せない態度にフィリップは何とも云えない居心地の良さを感じ、二人は障害者と介護補助者という関係を超えた友情を築いて行きます。
 ドリスが実は窃盗罪で服役して、刑務所から出てきたばかりと聞いてもフィリップは全く動揺しません。 初めは傍若無人なドリスに辟易していた屋敷の雇い人たちも、次第に本音で生きるドリスのユーモアや心根の優しさに魅了され、フィリップの豪邸には久々に笑いと明るさが戻って来た感じでした。 
 しかし、それもつかの間。ドリスの家族に問題が生じたことで、フィリップは住み込みのドリスを家族に戻すことを決意。 みんなに名残りを惜しまれつつ、ドリスは屋敷を後にします。
それぞれが元の自分の世界に戻ったかのようでしたが、ある夜、ドリスの携帯が鳴って。。

 診療室も医師も看護士も全て自前という主人公の金持ちぶりには目を見張りますが、実在のフィリップもコルシカ島の古くからの貴族の家柄で、幾つかの高級な不動産を相続した上、自らはシャンパンの会社で実業家として活躍。愛する妻と子供に囲まれ、理想的な生活を送っていました。怖いものなしの幸せな毎日に影がさしたのは、奥さんに乳がんが見つかってから。 
 そして、42歳の時、出張の帰りに趣味のパラグライダーを楽しんだ際、落下事故にあったフィリップは九死に一生を得たものの、四肢が麻痺して車椅子生活を余儀なくされ、辛いリハビリを受けることに。
 加えて、3年後、闘病生活を送っていた妻の一縷の望みをかけた最後の手術が失敗に終わり、最愛の人を失ったフィリップはうつ病を発症、孤独に苛まれます。
 何とかこの辛い毎日を変えたいと思っていた矢先に出会ったのが、尊大で粗野だけどとても人間的なアルジェリア系の青年だったそうです。

 フィリップは今、モロッコで現地で知り合った奥さんと二人の養子を育てながら、穏やかな日々を過ごしているとか。やっぱり人生って塞翁が馬、本当にすごい!と思わせてくれます。
 フィリップが綴った自伝を元にしたドキュメンタリーを観たのをきっかけに、映画化を成功させたのが脚本と監督を手がけたエリック・トレダノとオリヴィエ・ナカシュ。常に一緒に映画を作ってきたという彼らもやはり堅い絆で結ばれているのですね。
 
 文句なしのこの作品、惜しむらくは邦題がちょっと喰い足りないことかな?誰も立入ることができない友情を日本語のタイトルにするのは確かに難しいので、じゃあもっと良い題をつけてみてと云われると困るけど、「最強の」はちょっとニュアンスが違う気がするのです。
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# by cheznono | 2012-09-21 01:31 | 映画

b0041912_142714.jpg ナチスドイツ占領下のポーランド、アウシュビッツ収容所で出会い、手に手を取って脱走した若い男女。しかし、逃亡生活の中で生き別れになり、互いに相手の死を告げられたため、それぞれの道を歩んだ二人が39年後に再開したという実話を元にした映画「あの日 あの時 愛の記憶」。事実の重さに圧倒されるラブストーリーです。

 1976年のニューヨーク。研究者として成功した夫(デヴィット・ラッシュ)の大事なホームパーティの日、ハンナ(ダグマー・マンツェル)はBBCのインタビュー番組を偶然観かけて、愕然とします。
 テレビで強制収容所時代の恋と脱走の経験を語っていた人こそ、ハンナをアウシュビッツから救い出してくれたかつての恋人トマシュ(マテウス・ダミエッキ)でした。
 今は優しい夫と娘とブルックリンで何不自由ない暮らしを送るハンナですが、20代の初めにユダヤ系ドイツ人のためアウシュビッツへ収容され、過酷な強制労働に耐えた過去が。
 ハンナ(アリス・ドワイヤー)が奇跡的に脱走できたのは、政治犯として収容所で働いていたトマシュのお陰でした。一時はトマシュの家族にかくまわれるハンナですが、レジスタンス運動のパルチザンとして任務に戻ったトマシュとは離れ離れに。
 トマシュの母親(スザンヌ・ロタール)に息子に災いをもたらす存在として忌み嫌われたハンナは、身重の身ながら一人で厳寒のポーランドを彷徨い始めるのでした。

 映画は30数年前に亡くなった筈の命の恩人で恋人だったトマシュが生きていると知り、動揺と混乱の中、ホームパーティを打っちゃってトマシュの連絡先を捜し始めるハンナを焦点に、過去の壮絶な体験が挿入される形で進行します。  
 ハンナを心配する夫と娘を拒絶し、トマシュとの遠い記憶をたどりながら、ひたすら彼の連絡先を問い合せるハンナがじっくりと描かれますが、印象深いのはむしろ強制収容所という極限状態の中でハンナを見初め、大いなる危険を冒して関係を持ち、ひいては命がけで彼女を守る政治犯トマシュの若い情熱と機知に富んだ脱走作戦の方でした。

 トマシュと共にレジスタンス活動に投じた兄夫婦に起こったことに象徴されるように、ソ連に侵攻され、ナチスドイツに占領された当時のポーランドの厳しい状況を踏まえると、ポーランド語を話せないハンナが一人生き延びて、米国に渡ったのはまさに奇跡としかいえません。
 しかし、何度も強調されるハンナが身籠ったトマシュの赤ちゃんはどうなったのでしょう?推して知るべし、という演出なのでしょうが、トマシュの母親や義姉がハンナの妊娠に気づかなかったとは思えないし、30数年後にハンナからその事実を打ち明けられるトマシュの気持ちにも触れられないのはちょっと不思議です。

 とはいえ、壮絶なストーリーと長い時の流れを、わずか2時間弱に収めたパメラ・カッツの脚本はたいしたもの。うら若き娘時代に悲劇的な運命を背負わされたハンナが、トマシュと夫という二人の卓越した男性の深い愛情に恵まれたことは、観客にも強い希望をもたらしてくれるように感じました。 
監督はアンナ・ジャスティス、公式サイトは http://ainokioku.jp/
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# by cheznono | 2012-09-06 01:06 | 映画

b0041912_0395895.jpg これもすぐ終わっちゃうのかなって思っていたら、意外にロングランしているケベック映画「ぼくたちのムッシュ・ラザール」。アルジェリア出身の劇作家による戯曲の映画化で、あちこちで賞を獲得した佳作です。
 ナンニ・モレッティ監督の「ローマ法王の休日」も観たかったのですが、映画通の知人が「時間のムダ。観ることないわよ」と言うので、ミシェル・ピコリのローマ法王は見送ってしまいました。

 モントリオールの小学校。朝の牛乳当番のシモン(エミリアン・ネロン)が、教室で縊死している担任のティーヌを発見。学校中がパニックに陥ります。動揺する生徒たちのためにカウンセラーが派遣され、代用教師にはアルジェリア出身のムッシュ・ラザール(フェラグ)が採用されます。
 ラザール先生は、故郷アルジェリアで19年の教職経験の後、カナダに渡り、既に永住権も持っていると説明。愛情深く子供たちにも人気があった故マルティーヌとはかなり異なる授業に戸惑いを感じた生徒たちも、やがてラザール氏の暖かさや真剣さに信頼を寄せ始めます。

 子供たちの動揺を まるでマルティーヌの自死をなかったかのように、一日も早く平常を取り戻そうとする学校側。

 しかし、マルティーヌに反抗的だったシモンは、先生の自殺の原因が自分にあるのではないかと悩み、利発な同級生アリス(ソフィー・ネリッセ)は授業中に容赦なくシモンの責任を問いただして、クラスメイトを更に動揺させてしまいます。

 一方、ムッシュ・ラザールは実は難民で、国外追放の瀬戸際に立っていました。

 家庭に問題があるせいで、何かと話題を提供してしまうシモン。アリスへの淡い思いを抱きながら、担任を自死に追いやったのではないかという呵責に苛まれる姿が演技とは思えないほど自然で驚くばかり。その孤独な表情には胸を締め付けられます。

 原作の戯曲ではかなり重きを置いていると見られるムッシュ・ラザールの過酷な経験。映画でも痛ましい過去を持つ彼の内的描写があれば、作品に深みが増したのではと思うとちょっと残念ですが、最後の授業でラザール先生が語る「木とさなぎ」の話は示唆に富んでいて、子供たちにも観客にもいろいろなことを問いかけているよう。

 ケベック映画にしては仏語が聴き取り易いのも助かりました。カナダ映画は英語も仏語もかなり独特の発音が飛び交うので、フランスで公開される時も、わかりにくい人のセリフには字幕が入ることがあるくらい。この作品でも、教員会議のシーンでは、あっけに取られるような発音の男性教員がいて、地域性を強く感じさせられました。
監督はカナダ出身のフィリップ・ファラルドー。
公式サイトは http://www.lazhar-movie.com/
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# by cheznono | 2012-08-28 00:52 | 映画

屋根裏部屋のマリアたち

b0041912_23571057.jpg 猛暑を吹き飛ばしてくれるような爽やかな気分が味わえる「屋根裏部屋のマリアたち」。古き良き60年代が舞台のコメディとあって昨年前期のフランスでロングランした、それは楽しい映画です。ストーリーの展開はオーソドックスだけど、フランス映画らしい魅力が光るこの作品、中年男性には憧れの《真夏の夢》に近いかも知れません。

 1960年代初頭のパリで、妻シュザンヌ(サンドリーヌ・キベルラン)と二人の息子と模範的な家庭を築き、いささか格式張った生活を送っている株式仲買人ジャン=ルイ(ファブリス・ルキーニ)。シュザンヌがスペイン人の若い家政婦マリア(ナタリア・ベルベケ)を雇ったことから、これまで知らなかった世界に触れ、人生が変わり始めます。
 ジャン=ルイのアパルトマンの屋根裏部屋では、フランコ政権のスペインから逃れて来た家政婦たちが、力を合わせて仲良く暮らしていました。
 つましいながら同郷の家政婦たちと助け合って、生き生きと働くマリアの率直さやエスプリの利いた受け答えに惹かれたジャン=ルイは、次第にマリアとその仲間たちと親しくなり、その紳士的な態度で、家政婦たちからも信頼される存在になります。

 家政婦たちのパーティに呼ばれ夜遅く帰宅したジャン=ルイは、シュザンヌから思いがけず女性客との浮気を疑われ、部屋から追い出されたため、屋根裏部屋に直行。暖房もない粗末な小部屋に落ち着いたジャン=ルイは、生まれて初めて自分だけの空間を持った自由を味わいます。
 親の家業を継いだジャン=ルイは、仕事も義務でこなす毎日で、スノッブなブルジョワ的マダムのシュザンヌとの生活も形式ばかりが優先され、自分の意志で思い切り自由を味わった経験がなかったのです。

 陽気なスペイン女性たちに囲まれて、屋根裏部屋暮らしを楽しむジャン=ルイはついにマリアの愛も獲得。しばし幸せな時が流れますが、ある日突然、マリアが姿をくらましてしまうのでした。

 地方出身で、中産階級のパリジェンヌの家庭はこうあるべきという意識が強いシュザンヌと、聡明で飾り気がないマリアを初め、貧しいながら異国でたくましく暮らすスペイン女性たちのコントラストは、今も変わらぬフランス人とスペイン人の気質の違いに通じていて面白いです。

 私の南仏体験は、バラ色の街と呼ばれるトウールーズから始まるのですが、その時に滞在した屋敷で働いていた親切な家政婦さんもスペイン出身のマリアでした。既に21世紀だったので、そのうちマリアも定年を迎えたのですが、代わりの家政婦が見つからないからと、雇い主のマダムに拝まれて、週3日だけ通う契約にしていました。
 彼女もフランコ軍事政権から逃れるため、ピレネー山脈を超えてフランスに亡命した家族の一員で、私の好きなトルティーヤやスペイン風ケーキを焼いてくれたのが懐かしいです。
 トウールーズはピレネーに近いため、60年代にたくさんのスペイン人が流入し、今なおスペイン系が多い街ですが、この映画のマリアのように親戚を頼ったり、仕事を求めてパリに渡ったスペイン人も少なくなかったのですね。
監督は脚本家歴も長いフィリップ・ル・ゲー。
公式サイト:http://yaneura-maria.com/pc/
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# by cheznono | 2012-08-05 23:57 | 映画

プレイ-獲物-

b0041912_0322510.jpg 演技派俳優アルベール・デュポンテルがハリウッドアクション並みのタフな役に挑戦している「プレイー獲物ー」。フランスとベルギーをを震撼とさせた実在の変質的殺人犯からヒントを得て制作されたサスペンスで、目を覆うようなシーンもあるため誰にでもお勧めできる映画ではないけれど、猛暑に観るにはぴったりのよく出来た作品です。

 エクサン・プロヴァンスの銀行強盗容疑で服役中のフランクは、早く出所して美人妻アナ(カテリーナ・ムリーノ)と言語障害のある幼い娘アメリとの暮らしに戻ることを目標に、看守や囚人仲間のイヤがらせに耐える毎日です。
 なにせ、銀行強盗で奪った金の隠し場所を知っているのはフランクだけなので、刑務所の連中は何とか彼に金の在り処を口割らせようと躍起になっていました。
 そんな中、フランクと同房の未成年者レイプ犯モレル(ステファン・デバク)の容疑が晴れて、釈放が決定 。これまでの経験から他人を信用しないのを信条にしているフランクでしたが、気弱で真面目そうなモレルにふと気を許し、アナへの重要な伝言を頼みます。

 しかし、面会に来た元警官から、冤罪で釈放された筈のモレルは、実は少女ばかりを狙う連続暴行殺人犯だったと知らされたフランクは、塀の中で身悶えすることに。しかもモレルは、出所前にフランクの所有物からDNAを収拾していて、自らの犯行の濡れ衣を着せるつもりです。

 ある日、千載一遇の機会を得たフランクは脱獄を決行。妻子の住む団地に駆けつけますが、既に二人の陰も形もありません。敏腕女性刑事(アリス・タグリオーニ)の追っ手が目の前に迫る中、やっとのことで金の隠し場所にやって来たフランクを待っていたのは、冷たくなったアナでした。
 妻も金も失ったフランクの怒りは頂点に達し、さらわれた娘アメリを救うため、モレルを捜す危険な旅が始まります。

 近年フランスで社会問題化している刑務所内での受刑者の自殺。あまりに増加しているため、各刑務所で受刑者の生活の改善が目標となっていますが、この映画のような看守によるいじめや虐待が横行しているなら、受刑者の自死が増加するのもむべなるかな。フランスの刑務所には絶対に入りたくないですね。
 でも、面会に来た家族と水入らずで過ごせるダブルベッド付きの寝室があるのもさすがフランス。もしかして、日本の刑務所にもこんな気の効いた配慮があるのかしら?

 凶悪指名手配犯と見なされ、モレルを追いつ警察には追われつの命をかけたフランクの追走劇は、コートダジュール地方の鷲ノ巣村でクライマックスに。地中海の風が間近に感じられるようなラストのニースの映像も印象的。
 不死身のアルベール・デュポンテルに乾杯したくなるような上出来サスペンスの監督は、最近注目されているエリック・バレットです。
 公式サイト  http://www.alcine-terran.com/prey/
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# by cheznono | 2012-07-24 00:37 | 映画

星の旅人たち

b0041912_1285457.jpg ブログに書けないうちに終わってしまうかと思ったら、意外にロングランしている「星の旅人たち」。エミリオ・エステヴェスが実父マーティン・シーンのために制作したというこの作品、映画としての面白さは「サンジャックへの道」にかなわないけれど、リアリティ度は断然こちらに軍パイが。
 いつかサンチャゴ・デ・コンポステーラへ巡礼の旅に出てみたい人にはもちろん、聖地巡礼に参加した気分になりたいだけの人にもお勧めです。

カリフォルニアの眼科医トム(マーティン・シーン)は、40歳間近の一人息子ダニエル(エミリオ・エステヴェス)がピレネー山中で急死したという報せを受け、急いで渡仏します。
 ダニエルが南仏に旅立ったことも秘書から聞くまで知らなかったトムですが、息子がなぜサンチャゴ・デ・コンポステーラを目指したかったのか、自ら巡礼の道を辿ることで少しでもダニエルに近づこうと決心します。
思えば最後まで何を考えているのか理解できなかった息子。しかし、自分は彼に自身の価値観を押しつけていなかったか?父子の距離を縮める機会もないまま、あっけなく息子は逝ってしまった。

トムはダニエルのリュックを背負い、道すがらダニエルの遺灰を要所要所に置きながら、自戒の思いも込めて息子が歩こうとしていた800kmの道程を進みます。
 途中、人の良いオランダ人(ヨリック・ヴァン・ヴァーヘニンゲン)、ヘビースモーカーでシニカルなカナダ女性(デボラ・カーラ・アンガー)、アイルランド人の旅行ライター(ジェームズ・ネスビット)に出会い、互いに共感したり、反発し合ったり、うんざりしたりしながらもやはり旅は道連れ、4人は共に聖地を目指すことに。
 昔も今も800kmを一月余りかけて徒歩で打破するのは過酷な旅。トムは所々で、亡き息子の穏やかな視線を感じながら、一歩一歩巡礼路を歩んで行くのでした。

 いつかわかり合えると思っていたダニエルのまさかの事故死に動揺し、胸の中で亡き息子と対話しながら一人静かに巡礼するつもりだったトムが、思わぬ旅の同伴者たちをうっとうしく感じながらも次第に彼らと固い連帯感を紡いで行く過程が自然で、無理がありません。
 取り立ててドラマチックなことは何も起こらず、巡礼途中のエピソードも実際にありそうなことばかりで、自分がそこにいても違和感なく溶け込めそうな現実感が心地良いです。
 4人がついに大聖堂にたどり着いた時の達成感も実に爽やか。長い巡礼で、身体も心も浄化されたような気分を観客にもお裾分けしてもらえる感じで、気持ち良く家路に着くことができました。

 「アーティスト」でハリウッドを湧かしたジャン・デュジャルダンが企画して、ジル・ルルーシュと主演した浮気者の映画「プレイヤー(les infideles)」。はて、日本で受けるかなあ?と思ってたら、やっぱりあっさり終わってしまいましたね。確かにフランスではヒットしたし、面白い映画ではあるけれど、ちょっとやり過ぎのような。
 ともあれ、この10年ノリに乗ってるジャン・デュジャルダン、才能あふれる彼の次回作に期待したいです。 
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# by cheznono | 2012-07-15 01:39 | 映画

b0041912_033335.jpg 去年のカンヌ国際映画祭でオープニングを飾った時はぼちぼちの受けだったのに、劇場公開された途端、多くのフランス人が魅了された映画ミッドナイト・イン・パリ。アカデミー賞では最優秀賞脚本賞を受賞。
 ベルエポックからデザネ・フォルにパリに集った芸術家達の活気ある会話にわくわくさせられる映画で、とりわけ、ロストジェネレーションの作家達の小説に夢中になった経験のある人にはたまらない魅力を放つ作品だと思います。

 しかし、この邦題はちょっと耳ざわり。真夜中のパリの方がしっくりするのでは?パリのミッドナイトならまだしもミッドナイト・イン・パリだと何というかオー・ド・トワレのような違和感が。(eau de toiletteはオー・ド・トワレットが近い発音なのに、なぜか日本ではオー・ド・トワレで定着。トワレットだとトイレをイメージしてしまうから?単数系のトワレットは身支度とかお化粧の意なのですが。)

 ハリウッド映画で脚本家として成功したギル(オーウェン・ウィルソン)は、婚約者イネズ(レイチェル・マクアダムス)とその両親と共に大好きなパリにやって来ます。
 ギルは映画のシナリオから卒業して、本格的な作家への道を模索中。でも、せっかくのパリ滞在なのに、ロマンティストの文学青年ジルと実業家の娘で典型的なマテリアルガールのイネズとは価値観のずれが目立ち始めます。

 深夜、一人でホテルに戻ろうとしたジルは道に迷ってしまい、たまたま通りかかった黄色いプジョーに拾われます。行き着いた先は、なんとジャン・コクトーを初め、スコットとゼルダ・フィッツジェラルド夫妻やヘミングウェイが集う1920年代のクラブでした。
 翌晩もタイムトリップしたギルは、モディリアーニやピカソのミューズ的な謎の美女アドリアナ(マリオン・コティアール)と出会い、惹かれて行きます。
 小説家を目指すジルは、尊敬する作家たちの会話に多いに刺激されますが、ピカソとうまくいっていないアドリアナと心を交わした途端、一緒に19世紀のベルエポックまで遡ることに。

 過去の著名なアーティストたちとアドリアナに刺激され、ジルはこれからの人生に向けて大きな決断を下します。

 ウッディ・アレンの魔法で、文化と歴史を彩ったアーティストたちのサロンに紛れ込む楽しさは映画ならではのもの。
 夜な夜ないなくなるギルの行動を怪しんだイネズの父親が、ギルにつけた探偵(なんとガド・エルマレ)が、タイムスリップし過ぎてブルボン王朝のヴェルサイユに紛れ込んでしまうのもご愛嬌です。
 
 映画の公開当時は大統領夫人だったカーラ・ブルーニ・サルコジが出演しているのも話題になりました。モデル出身の歌手カーラ・ブルーニは、ベテラン女優ヴァレリー・ブルーニ=テデスキ(脚本家と監督の経験もあり)の父親違いの妹なので、演技の才能も期待されたのですが、意外に出番はわずか数シーンだけ。
 噂では、カーラ・ブルーニの演技があまりに拙く、ウッディ・アレンは何度も撮り直した挙げ句にやむなく彼女のシーンを大幅に削ることにしたとか。
 華麗な恋愛遍歴が何かと話題になるカーラ・ブルーニ、昨秋は念願の女の子を出産してますます注目されました。本当に大統領との間の赤ちゃん?という囁きも何のその、落選後は普通の人に戻ってお金儲けを目指したいという前大統領とモロッコに超豪華な別荘を物色中らしいです。
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# by cheznono | 2012-06-22 00:45 | 映画

ル・アーブルの靴みがき

b0041912_0135749.jpg 静かにロングラン中の「ル・アーブルの靴磨き」。レビューが大幅に遅れてしまったので、ジョージ・クルーニーの「ファミリーツリー」について書こうかなと迷いましたが、「ファミリーツリー」はDVDで充分という気もするので、やっぱり「ル・アーブル」の方を選んでみました。

 アキ・カウリスマキ監督によるノルマンディ地方らしい下町人情劇と詩情あふれる美しい映像を使って、静かに政府の移民政策を批判している佳作です。

 若い頃はボヘミアン的作家だったマルセル(アンドレ・ウィレム)ですが、今は港町ル・アーブルで靴磨きをしながら、北欧出身の妻アルレッティ(カティ・オウティネンと)と愛犬ライカと共に、つましくも穏やかな日々を送っています。
 ある日、アフリカから密航して来た少年イドリッサに遭遇。不法移民を厳しく取り締る政府の意向で、躍起になって少年を追う警察の手からイドリッサを守るべく、マルセルの生活は一変します。

 そんな折り、妻アルレッティが不治の病で入院。医師から余命宣告を受けたアルレッティは、夫には事実を隠すよう願うのでした。

 イドリッサの母親がロンドンにいることを知ったマルセルは、密かに彼をロンドンに送り出そうと資金集めに奔走します。それまでお金にシブいマルセルを煙たがっていた近所の人達も、少年の苦境を知るや驚くべき連帯感を発揮して、マルセルの努力に支援を惜しみません。
 しかし、人好きのしない敏腕刑事(ジャン=ピエール・ダルッサン)が、マルセルたちの動きを察してさぐりに現れ、追っ手が迫っていることを匂わせます。

 ほぼ同じテーマを扱って大ヒットした「君を想って海をゆく」のリアリズムに対して、「ル・アーブル」は下町の人情ドラマをファンタスティックに料理した作品ですが、それでも現実にこういうことが起こり得るかもと思わせる力が秘められています。

 何より、ノルマンディの港町の片隅で地道に生きる人々の暖かいつながりと1つ1つのシーンが絵画のような美しさが印象的で、観る者の心を捉えます。「キリマンジャロの雪」のような役が多いお馴染みジャン=ピーエル・ダルッサンが、癖のあるやり手刑事を難なく自分のものにしていて、この映画に何とも言えない味を添えているのも魅力的。

 自身もハンガリー移民の父とイタリア人妻を持ちながら、極右政党をしのぐほどの強弁な移民政策を取って来たサルコジ大統領が去り、移民問題に穏やかなオランド大統領に変わった今、イドリッサのような難民の置かれた苦境が少しでも改善されることを祈らずにはいられませんが、時は欧州危機の真っただ中。失業率が高止まりするフランスで、移民に対する国民感情もこれまで以上に複雑なものがあるのは否めないかも知れません。

 ちなみにマルセルの愛犬ライカは去年のカンヌでパルム・ドッグ審査員特別賞を受賞。パルムドッグ賞そのものは「アーティスト」のあの芸達者ジャックラッセル:アギーが受賞。アギーはアカデミー賞の金の首輪賞も受賞しているから、ダブル受賞ですね。
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# by cheznono | 2012-06-11 00:24 | 映画

ある秘密

b0041912_021729.jpg 去年のカンヌでグランプリに輝いた「少年と自転車」では、母国ベルギーを舞台に養護施設から預かった男の子に類いまれな母性愛を発揮していたセシル・ド・フランス。そのセシル・ド・フランスの美しさが輝いている映画「ある秘密」が、東京のシアター・イメージフォーラムでフランス映画未公開傑作選の1つとして公開されています。
 フィリップ・グランベール原作のベストセラー(高校生の選ぶゴンクール章受賞作品)の映画化で、今春亡くなったクロード・ミレール監督の最後の作品。2007年秋のフランス公開時に観た時はものすごい衝撃を受けました。

 セシル・ド・フランスの相手役にパトリック・ブリュエル(歌手兼俳優でポーカーの名手でもある)、リュディヴィーヌ・サニエ(フランソワ・オゾン監督の秘蔵っ子)、マチュー・アマルリック、ジュリー・デュパルデューと豪華キャストで繰り広げられるヒューマンドラマは、息を詰めるような緊張感の漂う傑作です。

 1985年パリ、戦後生まれのフランソワ(マチュー・アマルリック)が孤独で劣等感に苛まれた子供時代を振り返るところから物語が始まります。
 スポーツマンの父マキシム(パトリック・ブリュエル)と水泳が得意な美しい母タニア(セシル・ド・フランス)というユダヤ人カップルの一人息子フランソワは病弱でスポーツが苦手、華やかな両親の陰でコンプレックスを感じながら成長します。
 父が自分を見る目に不肖の息子であることを否応なく感じるフランソワは、空想の中でスポーツ抜群の「兄」を作り出し、両親の期待に軽々と答える理想的な子供の「兄」を密かな心の友にしていました。
 ある日、自分に兄が実在していたことを知って愕然とするフランソワ。両親が自分にひた隠しにし、周囲にも封印していた過去に迫って行きます。

 実は父マキシムには戦前、アンナ(リュディヴィーヌ・サニエ)という妻がいました。なのに二人の結婚式の当日、タニアに初めて会ったマキシムは一目で惹かれます。けれど、タニアはアンナの弟の奥さんでした。
 マキシムとアンナにはシモンという息子が生まれ、みんなに可愛がられます。シモンは運動神経抜群で父親の自慢の息子でした。やがて、ヒットラーの台頭が始まり、第二次大戦が勃発。フランスにもナチスのユダヤ人弾圧が暗い影を落とします。
 ナチスのユダヤ人狩りから逃れるため、マキシムは入念に計画を練ります。一方で、ユダヤ人迫害への恐怖に加え、夫のタニアへの気持ちに気づいたアンナは精神的に追い詰められて行くのでした。

 繊細で線の細い妻アンナと穏やかな家庭を営みながら、気が強くて華やかなタニアを諦め切れないマキシム。危うい均衡を保つマキシムの一家が否応なく戦争とユダヤ人弾圧の暗い世相に巻き込まれて行き、やがて悲劇につながる様子がサスペンス調に描かれます。

 両親に引け目を感じているとはいえ、今も熱々の両親のもとで平和に暮らしていた少年が、今の穏やかな暮らしやひいては自分の誕生までも、両親がひた隠しにしている過去の出来事と大きな犠牲の結果としてそこにあるということを知り、内省的な大人への成長を遂げるきっかけとなるプロットが実にうまく構成されていて、忘れがたい印象を受けた作品です。

公式サイト  http://www.eiganokuni.com/meisaku5-france/
フィリップ・グランベール著「ある秘密」新潮クレストブックス
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# by cheznono | 2012-05-18 00:08 | 映画

b0041912_1652046.jpg 早くも一ヶ月余りが過ぎましたが、今日は3月に4日間に渡りパリで開かれた本の見本市サロン・デュ・リーブルについて。
 私が行った日はあいにくの冷たい雨だったにもかかわらず会場入口は長蛇の列で、ダフ屋もたくさん出ているほど。その人気ぶりにはびっくりです。
 さすがはポルト・デ・ヴェルサイユ、アルベール2世公園で開かれるニースの本の見本市とは規模が桁違いで、半日程度では見切れないほどのブースの数に、思いっきり圧倒されました。パリってすごい!
 とはいえ、ニースやカンヌの書籍見本市もお勧めです。青空見本市だから参加作家たちがリラックスしていて、皆さんとてもサンパ、こじんまりしている分、ゆっくり全部を見て回れるし、入場無料です。パリは10ユーロ近くかかるというだけで一瞬ひるんだ私ですが、十二分に元が取れる内容で大満足でした。

 何せ参加した出版社(フランス国内はもちろん世界中から)やメディアの数も半端じゃない上、今をときめく人気作家の面々がキラ星のごとく並んでいるので、ファンにはたまりません。今年は日本が特別招待国ということもあって、日本に関するイベントも催され、日本の書籍の仏訳本コーナーも繁盛していたし、生け花のデモンストレーションも人気を呼んでいました。

 今年参加された日本人作家や漫画家は、角田光代さん、江國香織さん、島田雅彦さん、萩尾望都さん、ヤマザキマリさんなどなど22人。原発再稼働の反対を訴えたノーベル賞作家の大江健三郎さんを初め、討論会や対談に臨まれた作家も多く、多いに来場者の関心を引いた模様です。

 サロン・デュ・リーブルの魅力はなんと言っても話題の本や愛読書について、著者からじかに話を聴けること。中には贔屓の作家の全著作を持ち込んで、作家が悲鳴を上げるまで次から次に本を出してはサインをもらう男性も。
 作家たちにとってもサロン・デュ・リーブルはだいじな営業活動なので、それぞれブースに座り、通りかかった来場者に対して熱心に自らの著作の説明や宣伝をしてくれます。自分が全く知らない小説家でも、最新刊のあらすじを情熱をこめて話してもらったり、絵本作家や漫画家に目の前でイラストを描いてもらうと、つい本を買ってしまうのは、自然な成行きでしょう。
 作家から直接作品の魅力や著書への思い入れが聴けるコミュニケーションの場だからこそ、サロン・デュ・リーブルが多くの来場者(今年は19万人)を惹き付けるのもむべなるかな。
 実際、旅行鞄や大きなキャリーバッグを持ち込む人も少なくなく、会場内で買い込んだたくさんの本や雑誌などでパンパンに膨れたバッグを片手にタクシーで帰宅する姿も目立ちました。

 写真はこのブログでもご紹介した「恋は足手まとい」や「夏時間の庭」に出演した売れっ子俳優のシャルル・ベルラン。(「皇帝ペンギン」でも声の出演)
 ひときわたくさんの人が並んでいるブースが気になって横から覗いたら、シャルル・ベルランがいてその隣には人気ロックバンド:ディオニソスのボーカルで作家でもあるマティアス・マルジョ、その手前にはやはり俳優で作家のリシャール・ボーランジェが。思わず大興奮。特にシャルル・ベルランは、来場者一人一人に時間をかけて丁寧に応対していて、暖かい人柄が感じられます。
 既に歩き回って疲れていたため、これからまた列に並ぶのもなあと思い、ぶしつけに横からカメラを向けた私ににっこり微笑んで挨拶してくれたシャルル・ベルラン、なんてサンパで親切なんでしょう!
 昨年、モロッコ出身の母親の生涯について本を出版し、作家デビューも果たしたシャルル・ベルランは、歌手としての活動も開始して、この春にはアルバムをリリース。マルチな才能を発揮しています。
 最近、カーラ・ブルーニ・サルコジらと一緒にコンサートも開いたシャルル・ベルランですが、大統領選では社会党候補のフランソワ・オランド氏を支持。因みに彼と同世代の人気俳優ヴァンサン・ランドンも積極的にオランド氏の支持に動いています。大統領選の決戦投票まであとわずか。オランド氏優勢とはいえ、刻々と変わる投票予想からは目が離せないGWです。
 
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# by cheznono | 2012-05-01 16:45 | 不思議の国フランス

別離

b0041912_20224289.jpg ベルリン映画祭で金熊賞、米アカデミー賞で外国語映画賞など数々の映画賞を獲得したイラン映画「別離」。 イランと言えばアッバス・キアロスタミ監督の「友達のうちはどこ?」や「桜桃の味」の世界と思い込んでいたけれど、時代は着実に変わっていたのですね。
 パリ在住というファルハディ監督の話題作は、イランに対する私の先入観を180度変えてくれました。 

 テヘランに住む銀行員ナデル(ペイマン・モアディ)と妻のシミン(レイラ・ハタミ)が離婚調停を申し立てます。
 一人娘テルメーの教育ために海外移住の準備を進める妻に対して、夫はアルツハイマーの老父を置いてイランを出るわけには行かないと反対。夫婦は別れる決心をしたものの調停は却下され、とりあえず二人は別居することに。

 妻が出て行ったため、ナデルは父親の介護のために敬虔なイスラム教徒の女性ラジエー(サレー・バヤト)を雇います。幼い娘を連れてナデルの父親の世話に通うラジエーですが、この仕事を引き受けたことを無職の夫には内緒にしていました。

 ある日、帰宅したナデルと娘テルメーは、意識不明で転がっている父親を見つけます。ラジエーがある用事のため、無断で外出した間に起きた出来事でした。
 父親思いのナデルは激怒してラジエーを追い出そうとします。ともかく仕事の報酬を貰いたいと強く要求して食い下がるラジエーと口論になった末、ナデルが彼女を玄関から押し出すと、はずみで階段に倒れ込むラジエー。

 その夜、彼女は流産してしまいます。 
 ラジエー夫妻は、ナデルを胎児の殺人罪で訴えますが、ナデルはラジエーが妊娠していたことも知らなかったと主張。逆に父親の扱い方についてラジエーを告訴します。

 果たしてラジエーはなぜナデルの父親をベッドに縛りつけて外出したのか?ナデルは本当にラジエーの妊娠を知らずに彼女を手荒く押し出し転倒させたのか?
両者の思惑が絡む中、さまざまな疑問が交差する後半は、スリリングな展開に釘付けになりました。

 宗教の束縛が根強い中、中産階級の進歩的なシミンは、夫と別れてでも外国を目指し、信心深いラジエーは、稼ぎがない上、横暴で保守的な夫に隠れて、家族を養うため慣れない介護の仕事に通う。対照的とも言える二人。
驚嘆したのは彼女達イラン女性の強さです。離婚してまで海外で娘を育てようとするシミンはもちろんのこと、イスラム教の戒律に従順なラジエーも決して泣き寝入りせず、雇い主に対して真っ向から対立する姿に、イスラム女性の強い自己主張を見て圧倒されます。
加えて、格差社会、老人介護、離婚に伴う子供の親権など、社会的背景や宗教観の違いはあるものの、問題の普遍性にも目からうろこ。ブッシュ政権に《悪に枢軸》と名指しされたイランは、決して別世界ではなく、市民は先進国でも持て余している社会問題に直面しながら、より良い毎日を模索しているということがよく伝わって来る映画です。

 それにしても、民主党の某首相経験者はいったい何が目的でイラン訪問を強行したのでしょうね?
別離:公式サイト:http://www.betsuri.com/
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# by cheznono | 2012-04-22 20:32 | 映画

ドライブ

b0041912_136527.jpg「別離」「アーティスト」「少年と自転車」など、昨年フランスで高く評価された映画が目白押しですが、まずは早春にフランスメディアが絶賛した「ドライブ」から。
 確かにハリウッド映画とは異なり、どちらかと言えばフレンチノアールに通ずるものが感じられるハードボイルド系サスペンスで、懐かしきウィリアム・アイリッシュの世界を彷彿とさせるような作品ですが、原作はジェームス・サリスの同名小説とか。そして、カンヌ国際映画祭で監督賞を受賞したのは、デンマーク出身のN・W・レフン監督です。

昼間は自動車修理工場で働く一方で映画のカーアクションのスタントマンを務める孤独な天才的ドライバー(ライアン・ゴズリング)。時に彼は、夜中に強盗犯の逃走を助ける仕事も引き受けています。その場合、彼の役目は強盗犯を車に乗せて疾走するだけ。自分の手を犯罪に染めることはありませんでした。
ある日、同じアパルトマンに暮らす子連れのアイリーン(キャリー・マリガン)と知り合い、どこか陰のある彼女に惹かれます。互いに無口で不器用ながら、徐々に距離を縮める二人でしたが、服役中だったアイリーンの夫スタンダード(何という名前!)が出所してきたことで、これまで極力 他人と深くかかわらずに生きて来たドライバーの人生が大きく変わることに。
実はスタンダードはアイリーンにも内緒で多額の借金を抱えていて、それを種にマフィアの手下に脅され、質屋を襲うよう強要されます。逆らえば妻子に危害が及ぶことを恐れるスタンダードを見かねたドライバー、アイリーン親子を守りたい思いと相まって、質屋強盗の際の逃走援助を買って出ます。
 しかし当日、事態は思わぬ方向に転がり、ドライバーはスタンダードがマフィアにはめられたことに気がつくのですが。。

 ライアン・ゴズリング扮するドライバーのキャラクターが特異で、それがいっそうアイリーンへの純愛を切ないものにしています。寡黙なドライバーがどう育ち、どこから来たのか誰も知らず、映画も彼の背景を全く語りません。明白なのは、彼が天才的な運転技術と修理のテクニックを持っているということだけ。

 強盗犯の逃走の助っ人はしても、決して犯罪自体にはかかわらないで来たドライバーが後半、アイリーン母子を守るためには凶暴は暴力も厭わなくなる変化には目を見張ります。
 その反面、アイリーンに見せる繊細な心遣い。孤独でデリケートな心と、隠れた凶暴性。人間の二面性のコントラストが強烈な印象を残します。
 残酷なシーンに目を覆う場面もありますが、不思議な魅力を放つ作品でした。
 ドライブ公式サイト:http://drive-movie.jp/
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# by cheznono | 2012-04-15 01:35 | 映画

戦火の馬

b0041912_13583790.jpg 久しぶりに大スクリーンでスケールの大きい映画らしい映画を観た感じで満足できた「戦火の馬」。波瀾万丈の馬ジョーイの半生とジョーイと若者アルバートとの堅い友情の物語で、同時に第一次大戦に大きな働きをし、兵士と共に犠牲となった夥しい数の軍馬に向けてのオマージュとも取れる作品です。

 第一次大戦直前の英国デボンシャー、気性の荒いサラブレッドが貧しい農家に競り落とされ、一人息子のアルバート(ジェレミー・アーバイン)がかいがいしく面倒を見ます。
 アルバートは農耕馬に向かないジョーイを苦労しながら畑仕事に従事させるのですが、悪天候で農作物はめちゃくちゃ。加えて第一次大戦が開戦。暮らしに困ったアルバートの父親は、やむなくジョーイを軍馬として将校に売り渡します。
 アルバートのジョーイに対する思い入れに感じ入った将校は、終戦したら馬をアルバートに返すと約束。フランス北部の戦場に赴いたジョーイは、将校を乗せて野営のドイツ軍を奇襲する作戦に参加することに。

 その後、ジョーイはドイツ軍の手に渡り、フランス人の少女にかくまわれ、またドイツ軍に酷使されて、ついには第一次大戦きっての激戦地ソンムの戦いに駆り出されます。
 その頃にはアルバートも英軍に従軍していて、奇しくもジョーイはドイツ軍と互いに知らぬ間に敵味方に分かれていたのでした。

 冒頭から目にしみるような美しい画面に圧倒されます。のどかなイギリス南部の田園風景と見事な馬、一途でハンサムな少年アルバート。この映像が過酷な戦場の状況との対比を極めます。
 とはいえ、貧しい農村で地主に搾取される生活は、とても楽なものではありません。生活の苦しい農民が今度は下級兵として戦場で悲惨な環境に置かれる点は英独仏とも共通で、涙を誘います。

 何事が起きても、運に見放されず力強く生き抜く奇跡の馬ジョーイには励まされますが、そこはスピルバーグ監督、どうしても「プライベートライアン」に通じるあり得なささが否めません。すっきりまとめた感も残るけど、各エピソードはとてもよくできています。

 しかし、兵士や大砲を運ぶのも全て馬に頼っていた第一次大戦に比べて、わずか20年後の第二次大戦では飛躍的に兵器や戦い方が進歩?したのですね。空軍ができたことも大きかったのでしょう。この映画では「戦場のメリークリスマス」に描かれたような荒廃した戦場でドイツ軍と英軍の兵士たちが交流する場面もあり、ちょっと救われる思いがしました。
公式サイト:http://disney-studio.jp/movies/warhorse/ 
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# by cheznono | 2012-03-14 14:01 | 映画

昼下がり、ローマの恋

b0041912_0353069.jpg  ローマを舞台に繰り広げられる三つの恋模様をイタリアらしいコメディタッチで描いた「昼下がり、ローマの恋」。深みには欠けるけど、経済危機もどことやら、自分の欲望に忠実に、泣いて笑って毎日を謳歌する人びとを温かい目で見つめるオムニバスで、楽しい気分になりました。

 新米弁護士のロベルト(リッカルド・スカルマチョ)は、恋人との結婚に向けて用意周到。新婚生活を楽しみにしています。
 そんな折り、トスカーナの田舎町に出張したロベルトは、村きってのセクシーガール:ミコルと知り合い、あっという間に恋仲に。出張中もローマの恋人とスカイプで愛を確かめ合いつつも、ミコルにぞっこんとなるのですが。。

 良き夫で良き父であるはずのTVキャスター:ファビオは、パーティーで出会った情熱的な女性エリアナに誘惑され、一夜限りの約束で一線を越えてしまいますが、その後が大変。情が濃くてリビドー過剰なエリアナに、仕事も家庭も引っ掻き回され、人生が狂う羽目に。

 そして、いよいよロバート・デ・ニーロとモニカ・ベルッチの登場。
心臓移植をしたアメリカ人歴史学者のエイドリアンは妻と別れ、今はローマで引退生活を送っています。彼の住むアパルトマンの管理人オーグストは頼れる飲み友達。
 ある日、パリで成功したと聞くオーグストの娘ヴィオラが帰国。ゴージャスながらどこか陰のあるヴィオラに惹かれるエイドリアンですが、実はヴィオラは借金取りから逃れる身でした。

「明日のパスタはアルデンテ」のリッカルド・スカルマチョが、愛する婚約者がいるにもかかわらず、知的な彼女とは正反対のギャル風美女に夢中になり、板ばさみに葛藤する青年を好演しています。
 今ひとつ結婚に逡巡していたローマの婚約者が、ロベルトと3日離れたことで彼の大切さに気づき、二人の将来に前向きになるのと対照的なロベルトの浮気で、男と女の違いが浮き彫りに。

 とりを務めるデ・ニーロとベルッチの存在感はさすが。それだけに、物語の単純さが惜しいけど、人間幾つになっても明日はどういう出会いが待ち受けていて何が起こるかわからない、というメッセージに元気を貰いました。

 ただ、せっかくオムニバスなのだから、たまたま同じアパルトマンに住む住人というだけでなく、三つのストーリーにもう少し関連性があれば、いくらか作品に深みが出たのではないかしら?
 ともあれ、やっぱりイタリア、毎日楽しそうだし住みやすそうで羨ましくなるような映画でした。
公式サイト: http://hirusagari-roma.com/
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# by cheznono | 2012-03-06 00:51 | 映画

人生はビギナーズ

b0041912_0553717.jpg ニースで半ばお付き合い気分で観たマイク・ミルズ監督の私小説的映画:人生はビギナーズ。地味ながら、笑って泣かせてくれる意外な掘り出し物で、死について、とりわけ肉親を失うことに関していろいろと考えさせられます。アメリカ映画ですが、フランス映画を思わせるような作品です。

 米国西海岸に暮らす38歳のイラストレーター:オリヴァー(ユアン・マクレガー)は、幾つかの恋を経て、今は父から譲られた愛犬アーサーがパートナーの内気な青年。
 その父と44年連れ添った母親が他界し、落込んでいる筈の父親ハル(クリストファー・プラマー)から、実はゲイであることを告白されたオリヴァーは、動揺を隠せません。父にとって母との結婚生活はいったいなんだったのか?
 一方、75歳のハルはそんな息子の複雑な心境も何のその。残りの人生を楽しむべく、積極的にパーティに顔を出し、若い恋人を作って愛を育みます。

 しかし、ハルの身体は末期がんに蝕まれていました。余命を知りながら、気持ちを明るく保ち、人生を謳歌することに積極的なハルに、オリヴァーも父への理解を示し、同時に人間関係に臆病だった自らの姿勢を見直し始めます。

 ハルの最後を看取ったオリヴァーは、喪失感に打ちのめされますが、フランス生まれの風変わりな女性アナ(メラニー・ローラン)と出会ったことで恋愛の楽しさを再発見、二人は仲を深めて行きます。
 思い切って同棲に踏み切る内気なオリヴァーと変わり者のアナ。でも、いざ共同生活を始めたら、二人はどこかしっくり行かなくなってしまい。。。

 長い間、自分の性癖を抑制して働き者の良き夫を演じて来たハルが、内なる葛藤を経て、人生の終幕に自分本来の生き方を実行する姿をクリストファー・プラマーがユーモアたっぷり、楽しそうに演じています。
 そんな父にとまどいながらも理解しようと務め、勇気を持って不治の病に向き合う父親と気持ちを通わして行くオリヴァー。死を意識した父との語らいが、今ひとつ不器用な自分の私生活も勇気づけてくれて。

 映画の最後にタイトルの「ビギナーズ」の意味が生きて来ます。でも、邦題の「人生は」は明らかに余計では?

 何はともあれ、愛犬アーサーを演じるジャックラッセルテリアが最高です。犬のアカデミー賞にノミネートされるのもむべなるかな。有力候補の「アーティスト」のアギーもジャックラッセルだし、そもそもジャックラッセルは芸達者な犬種のかしら?
公式サイト:http://www.jinsei-beginners.com/
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# by cheznono | 2012-02-14 00:58 | 映画

ミラノ、愛に生きる

b0041912_0504275.jpg 確かに映像美が楽しめる作品でした。50歳を超えているとは思えないイギリス人女優ティルダ・スウィントンのクールな美貌とイタリアの資産家の暮らしぶり、ミラノからサンレモにかけての自然美、そして腕によりをかけた料理の数々。
しかし、かくもあっさりと性愛が母性愛を凌駕するものでしょうか?説得力に欠ける展開には今も首をかしげています。

ロシア出身のエンマ(ティルダ・スウィントン)は若い頃、ミラノの実業家レッキ家の御曹司タンクレディに見初められて結婚。三人の子供を育て上げ、今は大きな屋敷を取り仕切り、ディナーの采配を振るうような毎日です。
ある日、息子エドアルド(フラヴィオ・バレンティ)から親友の料理人アントニオ(エドアルド・ガブリエリーニ)を紹介され、彼の作る料理に魅了されます。
以来、アントニオのことが頭から離れなくなったエンマは、娘の展覧会を見にニースに向かう途中、サンレモで偶然アントニオと再会、動揺します。
アントニオがエドアルドの出資でレストラン経営を予定しているサンレモ郊外の山荘に案内されるエンマ。
その日から、二人は急速に親しくなって、逢引きを重ねるのですが、エドアルドが母親と親友の関係に疑問を持ったことから、思いがけない悲劇が一家を見舞うのでした。

 結婚のためロシアからイタリアに渡って以来、自分の感情を抑えて、裕福なレッキ家にふさわしいイタリア人になり切ろうと努力をして来たエンマ。洗練された服に包まれ、メイドやお手伝いさんにかしずかれるような前時代的なゆとりのある暮らしを送りながら、どこか表面的な上流社会に違和感を感じていたのでしょう。
子供が独立し、レッキ家の事業も先代から夫と息子に譲られた今、エンマに突然訪れた出会いは、彼女をこれまでの抑制的な生活から開放し、性への新たな目覚めへと導きます。

 これはひょっとしてかの名作「レディ・チャタレー」に描かれた世界を意識しているのかも?しかし、完成度は雲泥の差。官能度は「レディ・チャタレー」を凌ぐにせよ、ヒロインの心の動きの描写が物足りず、アントニオの心理にいたっては殆ど描かれてないのが残念。
とはいえ、繊維業で名を成した一家の優雅な暮らしぶりと、イタリアらしい風景など、美しい映像と音楽がたっぷり楽しめる作品です。
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# by cheznono | 2012-01-24 00:53 | 映画

善き人

b0041912_0435236.jpg ひっそりとスバル座で公開されている「善き人」。どうしようかなって迷いましたが、観に行って正解でした。
 ナチス政権下で翻弄される人間の姿をフランス側から描いた「黄色い星の子供たち」や「サラの鍵」に対して、当時のドイツに暮らす普通の人びとがどのように行動したかを知る格好の作品、現代にも通じる普遍性があります。
 あの名作「善き人のためのソナタ」とはまた違った角度で、危険な独裁政権下に身を置いた人間の心理と行動を考えさせられました。
 原作は英国の劇作家C・P・テイラーの戯曲で、世界的に知られた舞台劇とか。監督は新鋭ヴィセンテ・アモリン。BBC製作で英語版なのも嬉しいです。

 1937年のベルリン。文学部の教授で小説も書くジョン・ハルダー(ヴィゴ・モーテンセン)ですが、家では家事をしないピアニストの妻に代わって、幼い子供たちの面倒を見る善きパパ、同居する老母の介護もしなければいけません。
 ある日、総統官邸に呼び出されたハルダーは、ヒトラーが《人道的な死》をテーマにした彼の小説を気に入ったので、ナチスのために論文を書いてほしいと依頼され、とまどいます。
 それまで、ナチス政権を覚めた眼で見ていたハルダーでしたが、これがきっかけでナチスに取り込まれて行きます。しかし、ハルダーにはユダヤ人精神科医のモーリス(ジェイソン・アイザックス)という親友かつ戦友がいたのです。
 大学では教え子のアン(ジョディ・ウィテッカー)が積極的にハルダーに近づき、家事と介護に追われる家庭生活に疲れていたハルダーの心の隙間に入り込んで来ます。

 今やすっかりナチスのお気に入りとなってしまったハルダーは、幹部から入党を迫られて困惑します。迷いながらも勢いに流されてナチス党員となったハルダーは、大学でもいっきに学部長に昇進。裏切られた思いのモーリスに非難されても、時代の趨勢だからと気弱に言い訳するだけでした。
 私生活でも、アンの情熱に押され、妻子と別れてアンと同棲を始めるハルダー。一方、ナチスがユダヤ人への迫害を強化させたことに身の危険を感じたモーリスは、パリへの亡命を模索して、ハルダーにパリ行きの切符を買って来てほしいと頼みますが、ハルダーには外国行き切符の購入に必要な出国許可証がありません。
 モーリスと共に第一次大戦を戦ったハルダーは、ドイツのために従軍したユダヤ人は安全だと親友の不安を打ち消すのでした。

 しかし、フランス駐在のドイツ人書記官がユダヤ人によって暗殺される事件が発生。これに憤慨したナチスがユダヤ人一斉検挙を始めた夜、モーリスの身を案じたハルダーは何とかパリ行きの切符を手に入れるのですが。。

 ナチス政権下で、身を挺してユダヤ人を助けた人のドラマは多いけれど、この作品は、ヒトラーに抵抗を感じながら時代に流され、意に反して取り返しのつかない呵責を背負うことになった一介の善人を描いている点がポイント。
 善き友、善き家庭人だったインテリのハルダー、小説家でもある彼の洞察力にはしかし限界があり、人間の弱さも充分に持ち合わせていたわけで、その彼の優しさと良心をあてにしていた妻子も老母も親友も、それぞれが予期せぬ形で裏切られます。
 
 ヒトラー独裁体制下だったゆえにことは悲劇性を高めますが、自分も含めて恐らく多くの一般人が、こうした状況において無意識のうちに似たような選択してしまうのでは、と思うと深く考えさせられます。
 「君しか頼れる人がいない」とプライドを捨ててハルダーに懇願するモーリスの涙が、映画館を出た後も脳裏から離れませんでした。
公式サイト:http://yokihito-movie.com/
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# by cheznono | 2012-01-16 00:48 | 映画

灼熱の魂

b0041912_044359.jpg 新年明けましておめでとうございます。2012年が穏やかな良い一年となることを心から祈っております。

 2011年の観納めは、ケベックとフランス合作映画「灼熱の魂」。ニースの大のシネマ好きの友達が、「これまで観てきた中で、一番とも云える映画」と絶賛していた作品なので、気合を入れて観に行きました。
 原題は「炎上」。ひりひりするような激情の意味もあるこのタイトル、冒頭でなくラストに作品タイトルが現れる映画を観たのは初めてかも知れません。

 2010年カナダ。双子の姉弟ジャンヌとシモンの母親ナワル・マルワン(ルブナ・アザバル)が、急逝に近い形で世を去ります。中東出身のナワルは、双子に奇妙な遺言と2通の手紙を遺していました。
 手紙は、内戦で死んだと聞かされていた父親と、存在さえも知らなかった兄宛て。二人を探し出して手紙を届けるようにという母親の遺志を尊重するジャンヌは、若き日の母ナワルの過去をたどるべく中東へと旅立ちます。

 1970年、中東の田舎。キリスト教徒のナワルは、異教徒の青年と恋に落ち、密かに赤ん坊を産み落とします。しかし、青年はナワルの家族に殺され、赤ん坊は孤児院に。村の面汚しだと糾弾されたナワルは、都会に逃れて大学に進学。仏語を習得します。
 やがて、キリスト教vsイスラム教の対立激化から内戦が勃発。大学も封鎖されたため、今こそ愛児を取り戻すチャンスと思い込んだナワルは、軍の包囲網をくぐって、ひたすら山あいの孤児院を目指します。
 けれど、やっとの思いでたどり着いた孤児院は、キリスト教徒によって焼き払われた後でした。子供たちはどこへ?

 孤児たちが連れ去られたという難民キャンプに向かうため、イスラム教徒に紛れて長距離バスに乗ったナワルですが、バスはキリスト教徒たちに襲われて炎上、ナワルも危うく焼き殺されそうになります。
 この強烈な体験が平和主義のナワルを大きく転向させ、クリスチャンだったはずがイスラム勢力に手を貸すことに。しかし、彼女のこの決断はとてつもない代償と犠牲を伴うものでした。

 20代の双子の姉弟が、想像もしなかった母親の若き日を、わずかな手がかりを頼りに少しずつたぐり寄せて行きます。
 まるで十字軍を思わせるような宗教対立の根深さと女性蔑視の中、はがねのような強い意思で運命に立ち向かった母親の壮絶な過去をたどる双子の気持ちの揺れが、観ている者にも痛いように感じられました。

 国内事情や歴史的背景などの説明を極力排除しているため、ややわかりにくい部分があるのは否めませんが、宗教対立による激しい憎しみの連鎖による悲劇を経験したナワルが、恩讐を越えて綴った最後の手紙には衝撃と感動が凝縮されています。
 ラストに現れる映画タイトルが、ずしりとそれはそれは重く迫って来る作品です。

 監督はドゥニ・ビルヌーブ、原作はレバノン系カナダ人の劇作家による舞台戯曲だそうで、ギリシャ悲劇を彷彿とさせるショッキングなプロットも舞台劇ならまた少し違った印象を受けるのかも。とはいえ,この作品がもたらすメッセージはいささかも変わらないでしょうが。 
 公式サイト:http://shakunetsu-movie.com/
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# by cheznono | 2012-01-02 01:04 | 映画

サラの鍵

b0041912_23175294.jpg 昨年フランスで公開が続いたヴィシー政権下のパリでのユダヤ人一斉検挙の悲劇を扱った映画の一つ「サラの鍵」。検挙され収容所送りとなった少女と、60年の歳月を経て現代に生きるジャーナリストの人生を交差させつつ、さまざまな疑問にぶつかりながら、過去の発掘を通して自らの人生をも大きく変えて行く女性の姿を描いた秀作です。
 「黄色い星の子供たち」を観た方なら、当時の様子がよりリアルに迫ってくるでしょう。
 
 1942年早朝のパリ。フランス政府によるユダヤ人検挙の命令に従って、少女サラのアパルトマンにも警官が押しかけ、一家は冬季競輪場に収容されます。
 その直前、10歳のサラは弟を納戸に匿い、鍵をかけました。サラはまたすぐに家に帰れると思っていたから。

 60年後、フランス人の夫と娘とパリ在住のアメリカ人記者ジュリア(クリスチャン・スコット・トーマス)は、ナチのユダヤ人迫害に協力したヴィシー政権によるユダヤ人迫害について取材をする中で、夫(フレデリック・ピセロ)が祖父母から相続したマレ地区のアパルトマンが、1942年の一斉検挙でアウシュヴィッツに送られたユダヤ人一家の住まいだったことを知り、愕然とします。

 すし詰め状態の冬季競輪場から収容所送りとなったサラは、弟を閉じ込めた納戸の鍵を握り締め、なんとしてもパリのアパルトマンに戻るべく命がけで脱走を図ります。

 夫と暮らすアパルトマンがユダヤ人検挙のお陰で手に入ったのではと疑うジュリアに夫の家族は口を閉ざし、夫も過去を蒸し返すなと不快さを隠しません。
 加えて、45歳にして妊娠したジュリアに、夫は今さら子供に振り回されたくないと生むことを歓迎していない様子。妊娠を喜ぶジュリアは多いに失望させられます。
 
 果たして、サラはホロコーストを生き延びたのでしょうか?サラが納戸に隠した弟の運命は?
 周囲の戸惑いをひしひしと感じながら、少女サラの存在を知ってしまった以上、彼女のその後を突き止めずにはいられないジュリアは、真実を求めてパリから出身地ニューヨークへ、そしてイタリアのトスカーナ地方へと取材を続けるのですが。。

 前半は幼い弟を助けたい一心で納戸の鍵を閉めたまま収容所送りとなってしまったサラの苦悩が痛いほど伝わって来て、サラの行方を心配するジュリアと心を1つにする思いでした。
 今になって忌まわしい過去を掘り返してほしくない周囲との摩擦を感じながら、真実を明らかにしたいという欲求に正直なジャーナリストの宿命をベテランのクリスチャン・スコット・トーマスがおさえた演技で体現しています。
 ジュリアの探究心が、埋もれていたサラの人生にはっきりとした輪郭を与え、やがてそれがジュリア自身の人生にも大きな意味を持って来る過程が、この作品の醍醐味。歴史の波にもまれ悲惨な体験を経ながらも、命の輪が連綿とつながっていることが、静かな喜びとして伝わって来る映画です。

 原作は世界的に大ヒットしたタチアナ・ド・ロネの「サラの鍵」(新潮クレスト・ブックス)。
公式サイト:http://www.sara.gaga.ne.jp/  
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# by cheznono | 2011-12-18 23:18 | 映画

b0041912_17291862.jpg やっと観ました、ソフィー・マルソー主演の「マーガレットと素敵な何か」。マザー・グースから採った甘ったるいキャッチコピーにはひるみましたが、さすが「世界で一番不運で幸せな私」のヤン・サミュエル監督、ひねりの利いた不思議な魅力のある映画で、男性にもお勧めです。
 しかし、この邦題は何とかならなかったのでしょうか?こんな題をつけられたら、ソフィー・マルソーファンの男性陣は観に行きにくいでしょうし、そもそもクールでかっこよい自分になりたくて、英語名マーガレットを使って来たヒロインが、本名のマルグリットに戻って行く過程を描いているのだから、原題の「物心つく頃」の方が平凡でも良かったと思うのに。
 
 マーガレットは、アレバを思わせる原子力産業でトップの座を狙うほどの切れ者キャリアウーマン。お金と出世が優先の人生ですが、プライベートでは英国人の同僚マルコム(マートン・コーカス)と結婚目前。
 40歳の誕生日、原子力プラントを中国に売る交渉に没頭するマーガレットの元に、生まれ故郷のプロヴァンスから公証人(ミシェル・デュショーソワ)が訪ねて来ます。
 既に引退した公証人が携えたのは、マーガレットが7歳の時に未来の自分に宛てた手紙でした。
 少女マルグリットが、幼いながらあらゆる工夫を凝らして綴った手紙と同封の古い写真に、手紙も公証人の存在も忘れていたマーガレットはひどく動揺します。
 物心つく頃、家が破産し、父親が出て行ったため、残された母と弟と共に食べ物にも困るような貧しい生活を余儀なくされたという辛い記憶がいっきに蘇る一方で、女の子らしい将来を夢見たり、幼なじみと過ごした甘酸っぱい思い出がマーガレットの胸を去来し、肝心な商談さえもうわの空に。
 遠い昔、いつの間にか少女マルグリットの目標は、勉強を頑張って、仕事で成功することとなり、そのために過去を封印し、名前も英語名に変えて突っ走ってきた筈だったのですが。。

 自分が本当にしたかったことは、鉄の意志で原子力発電プラントを世界中に売りまくることだったのか?次々に届く7歳の自分からの手紙に、仕事と出世レースに追われ、心の潤いをなくしていたマーガレットは、今の自分を否定したくない反面、その胸中に現状に対する強い疑問が生じ始めます。
 この辺りの心の葛藤と変化を、幼なじみとの初恋のエピソードを交えながら、テンポ良くユニークに描きつつ、ほろりとさせられる演出がにくいです。

 マーガレットからひどい言葉をぶつけられ、何度拒否されても、子供の頃の彼女の純粋な気持ちを知っているから平気と言わんばかりに余裕の包容力で、マーガレットの存在を肯定し、その生き方の修正を暗に促す元公証人役のミシェル・デュショーソワが秀逸。
 因みにマーガレットの故郷で、隠居の公証人がペタンクを楽しむプロヴァンスのソー村は、ラベンダー畑で知られ、8月にはラベンダー騎士団によるお祭りで賑わいます。
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# by cheznono | 2011-12-06 17:39 | 映画

ハートブレイカー

b0041912_22555076.jpg ロマン・デュリスとヴァネッサ・パラディ主演で、フランスでは大ヒットしたコメディ「ハートブレイカー」が、有楽町でひっそりと公開されています。70人ちょっとしか入らない部屋での公開されているため、サービスデイは毎回満席。驚いたのは同時上映されている「エンディングノート」の人気ぶりです。ヒューマントラストシネマは珍しく老若男女さまざまな世代であふれていました。

 策士の姉夫婦と組んで、プロの別れさせ屋を営んでいるアレックス(ロマン・デュリス)。娘がしようもない男に夢中で困りきっているとか、妹が破滅的な恋愛にのめりこんでいて何とかしたい、といった依頼主から仕事を請けては、持ち前のお茶目な魅力でターゲットに近寄り、相手の関心が自分に向いてめでたく彼氏と別れたら、はいさようなら、という生活を送っています。
 アレックスのポリシーでは、別れさせるのは不幸せな恋愛をしている女性だけ。仕事である以上、相手に深入りは禁物。女性が不毛な恋愛に気づいて彼氏と別れれば、彼の役目は終了です。

 モロッコでの仕事を終えて、姉夫婦とパリに戻ったアレックスを待っていたのは金持ちの娘ジュリエット(ヴァネッサ・パラディ)と婚約者の英国人実業家ジョナサン(アンドリュー・リンカーン)との結婚を阻止すること。依頼主であるジュリエットの父親から法外な謝礼を提示されます。
 でも、モナコでの結婚式は10日後に迫っているし、ジュリエットとジョナサンはお似合いのカップル。熱々の二人を何ゆえ別れさせなくてはいけないのか?

 実は多額の借金を抱えているアレックス。お金のために原則を曲げてジュリエットの結婚式を中止させるべく、モナコに向かいます。
 ひとまずボディガードとしてジュリエットに接近したアレックスですが、気が強く、どこか屈折しているジュリエットは、いっこうに隙を見せません。あの手この手で彼女の気を引こうとするアレックスチームの努力は空回りするばかりです。
 しかし、別れさせ成功率100%のアレックスチーム、ここで引き下がるわけには行きません。
 そこへ、予定より早く婚約者ジョナサンがモナコに到着。しかも、急遽予定を変更して、式はラスベカスで挙げると言い出したため、さすがのアレックスはお手上げ状態に。。

 母親の死後、10年間も不仲だったジュリエットと父親。裏の世界にも通じている父親が、なぜ大金持ちでイケメン、理想的に見える娘の婚約者を嫌って、アレックスに肩入れするのかちょっと不思議ですが、不安定な隙間稼業に生きるアレックスに自分と共通する心意気とヤマっけを感じたからかも。
 
 突っ込みどころは満載でも、気の利いた会話とユーロ危機とは別世界のバブリーなシーンがふんだんに楽しめます。そしてもちろんロマン・デュリスの魅力が映画の要と言えましょう。ダンスシーンが圧巻です。
 ただ、モナコを舞台にしたコメディは、どこか似通った雰囲気が漂うのも否めません。オードリ・トトウが金持ちの援助交際相手を探す「プライスレス」もしかり。
 なんかかんか言ってもアメリカ文化が大好きなフランス人。ハリウッド的なロマンチックコメディをフランス風に仕上げた作品は、若い世代を中心にこれからますます増えて行くのでしょうね。  
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# by cheznono | 2011-11-26 23:26 | 映画

ウィンターズボーン

b0041912_047138.jpg 今週の1本は久しぶりのアメリカ映画「ウィンターズボーン」。沢木耕太郎氏のレビューを読んで興味を持ちました。フランスメディアもこぞって絶賛、観客評もかなり高い作品です。
 しかし、レアリズムには圧倒されるものの、これが今のアメリカ中西部の山村の現実とはとても信じられません。ウォール街を占拠せよのデモに参加している人たちは、まだ恵まれた米国民なのでしょうか?
 
 舞台はミシシッピー川沿いにあるミズーリ州の山あい。あばら家に暮らす17歳のリー(ジェニファー・ローレンス)は、心を病んで言葉を話さない母親と幼い弟と妹の面倒をみながら、かつかつの暮らしを送っています。
 食べる物にも困るようなある日、保安官がリーの家に立ち寄って、麻薬の密造で捕まった父親が保釈中に失踪したため、もし裁判にも現れなければ保釈金の担保になっている自宅を差し押さえると警告します。
 家を追い出されたら、家族の生活を守ることができなくなってしまう。何が何でも父親を見つけ出す決心をするリーですが、親戚や心当たりを頼っても、相手にされません。
 これといった産業や仕事のない貧しい土地で、どうも住民達は見えない掟の下にまっとうでない方法で日銭を得ている模様。でも、必死で父親を探すリーに協力しようとしないのはなぜなのか?
 初めはリーの父親探しをあきらめさせようとした麻薬中毒の伯父も、覚悟を決めて行動するリーの強い意志に自らの血筋を感じて、彼なりの方法で手を差し伸べるのですが。。

 カンサスシティーやセントルイスといった観光都市を抱えているミズーリ州。所得も全米の中で真ん中辺りで特に貧しい地域ではないようです。が、この映画では、土地も人の心もあまりにすさんでいるため、果たして希望の見出せる展開になるのかどうか、終盤まで不安でした。

 こんな環境で育ち、17歳にして家族の世話が両肩にかかっているリーの強さ、一途さには感嘆させられます。一方で、今の生活を守るためにここまでしなくてはいけないのかという思いと、行政はどうなっているのだという疑問を抱えたまま映画館を出たら、外は冷たい雨。昼間見た天気予報は夜まで晴れマークだったのに。しばらく雨宿りしても小やみにならないので、仕方なく雨の中を濡れながら帰る羽目となりました。 
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# by cheznono | 2011-11-18 00:57 | 映画