ある秘密
2012年 05月 18日フィリップ・グランベール原作のベストセラー(高校生の選ぶゴンクール章受賞作品)の映画化で、今春亡くなったクロード・ミレール監督の最後の作品。2007年秋のフランス公開時に観た時はものすごい衝撃を受けました。
セシル・ド・フランスの相手役にパトリック・ブリュエル(歌手兼俳優でポーカーの名手でもある)、リュディヴィーヌ・サニエ(フランソワ・オゾン監督の秘蔵っ子)、マチュー・アマルリック、ジュリー・デュパルデューと豪華キャストで繰り広げられるヒューマンドラマは、息を詰めるような緊張感の漂う傑作です。
1985年パリ、戦後生まれのフランソワ(マチュー・アマルリック)が孤独で劣等感に苛まれた子供時代を振り返るところから物語が始まります。
スポーツマンの父マキシム(パトリック・ブリュエル)と水泳が得意な美しい母タニア(セシル・ド・フランス)というユダヤ人カップルの一人息子フランソワは病弱でスポーツが苦手、華やかな両親の陰でコンプレックスを感じながら成長します。
父が自分を見る目に不肖の息子であることを否応なく感じるフランソワは、空想の中でスポーツ抜群の「兄」を作り出し、両親の期待に軽々と答える理想的な子供の「兄」を密かな心の友にしていました。
ある日、自分に兄が実在していたことを知って愕然とするフランソワ。両親が自分にひた隠しにし、周囲にも封印していた過去に迫って行きます。
実は父マキシムには戦前、アンナ(リュディヴィーヌ・サニエ)という妻がいました。なのに二人の結婚式の当日、タニアに初めて会ったマキシムは一目で惹かれます。けれど、タニアはアンナの弟の奥さんでした。
マキシムとアンナにはシモンという息子が生まれ、みんなに可愛がられます。シモンは運動神経抜群で父親の自慢の息子でした。やがて、ヒットラーの台頭が始まり、第二次大戦が勃発。フランスにもナチスのユダヤ人弾圧が暗い影を落とします。
ナチスのユダヤ人狩りから逃れるため、マキシムは入念に計画を練ります。一方で、ユダヤ人迫害への恐怖に加え、夫のタニアへの気持ちに気づいたアンナは精神的に追い詰められて行くのでした。
繊細で線の細い妻アンナと穏やかな家庭を営みながら、気が強くて華やかなタニアを諦め切れないマキシム。危うい均衡を保つマキシムの一家が否応なく戦争とユダヤ人弾圧の暗い世相に巻き込まれて行き、やがて悲劇につながる様子がサスペンス調に描かれます。
両親に引け目を感じているとはいえ、今も熱々の両親のもとで平和に暮らしていた少年が、今の穏やかな暮らしやひいては自分の誕生までも、両親がひた隠しにしている過去の出来事と大きな犠牲の結果としてそこにあるということを知り、内省的な大人への成長を遂げるきっかけとなるプロットが実にうまく構成されていて、忘れがたい印象を受けた作品です。
公式サイト http://www.eiganokuni.com/meisaku5-france/
フィリップ・グランベール著「ある秘密」新潮クレストブックス