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グレートデイズ!夢に挑んだ父と子_b0041912_0515819.jpg 久々のブログ復帰です。今年、これまでに観たフランス映画の中でピカイチだった「グレートデイズ!夢に挑んだ父と子」。(まるでドキュメンタリーのような邦題なのは、ニルス・タベルニエ監督がバレエ・ダンサーの記録「エトワール」をはじめ、主にドキュメンタリー作品を手がけて来たから?)
今回は主演の車椅子の青年にフランス中の障がい者施設をまわって見つけたというファビアン・エローを起用。脳障がいを持つというファビアンですが、笑顔も感情表現も素晴らしく、父親役のジャック・ギャンブランとまるで本当の親子のよう。意志の強いジュリアンの成長の物語であると同時に、人生に疲れていた父ポールが自信や愛を取り戻す物語でもあるのがこの作品をより深みあるものにしています。

 アルプスのロープウェイ修理技師ポールが仕事をクビになって妻子の暮らす山荘に戻って来ます。けれどポールは、父親の帰宅を楽しみにしていた17歳のジュリアンには目もくれず、美容師の妻クレール(アレクサンドラ・ラミー)ともまともに向かい合おうとしません。
 夫の留守を守り、車椅子の息子を支えて来たクレールは、ポールの態度に不満炸裂。息子が誕生した時はとても喜んだポールでしたが、その子が歩けないと知った日からその現実を受け入れられず、全てを妻に任せて仕事に逃げて来たのです。

 一方、何とか父親の気を引きたいジュリアンは、昔ポールが数々の大会に出場したスポーツマンで、トライアスロンの鉄人レースにも参加していたことを知り、夢を膨らませます。父と組んで一緒にアイアンマンレースに挑戦したい!両親の説得を試みますが、即座に大反対されてしまいます。
 息子の提案を全く相手にしなかったポールですが、ついに頑固で熱心な息子に根負け。二人乗り自転車でレースの練習を開始します。お陰で父子の距離はこれまでになく縮まりますが、肝心のニースのアイアンマンレース審査会はジュリアンのハンディキャップを理由に父子のエントリーを却下。過酷なアイアンマンレースに参加を拒否され、ポールはむしろほっとするのですが。。

 タベルニエ監督は、アメリカの退役軍人の男性が脳障がいを持つ車椅子の息子と共に数々のマラソン大会やトライアスロンに出場し、アイアンマンレースも何度か完走したという実話にヒントを得てこの映画を製作。息子を乗せたボートをロープで結びつけて地中海を泳ぎ、更に猛暑の中を自転車で山越えするという想像を絶する過酷なレースに向けて、親子が初めて真剣に向き合い、難関に挑むことで絆を深めて行く。崩壊寸前だった家庭も二人の挑戦を応援し協力することでまた一つになり、再生するという過程が無理なく描かれていて、観客も明るい希望とパワーが貰えます。
 難しい気質で頑固なジュリアンに振り回されたけれど、だからこそ今の自分があるという、ジュリアンの姉が弟の誕生日ディナーの時に読み上げる手紙も感動的。 

 アルプスのふもと、アヌシー地方の山村の映像も目にしみるような緑が美しいし、後半のニースのシーンもかなり美化されていて嬉しくなりました。
アイアンマンレースはフランスが公式ヴァカンスに入った6月末に開催されます。我こそはという方は是非2015年の大会に挑戦あれ。参加申し込みは以下のサイトから。http://www.ironman.com/fr-fr/triathlon/events/emea/ironman/france-nice.aspx#axzz3DCmg2kL3

「グレートデイズ」公式サイト:http://greatdays.gaga.ne.jp/
# by cheznono | 2014-09-14 00:52 | 映画

アデル、ブルーは熱い色

アデル、ブルーは熱い色_b0041912_2385213.jpg 去年のカンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞した「アデル、ブルーは熱い色」。アブデラティフ・ケシシュ監督だけでなく、主演の二人の女優:レア・セドウとアデル・エグザルコプロスも共に表彰されて話題になりました。メディアが諸手を挙げて絶賛したこの映画、原作はフランスで人気のコミックです。

 物語は「17歳」と同じく、高校生のアデルの性の目覚めから始まりますが、こちらは女性同士の純愛ストーリー。カンヌで審査委員長を務めたスティーブン・スピルバーグは、「今世間を賑わしている空気は関係ないよ、僕たちは彼女達の愛の物語に心打たれたんだ」とこの映画を讃えましたが、そこは政治色や社会問題が焦点となるカンヌ、とても言葉通りには受け取れません。メディア票は満場一致でも、観客の感想は真っ二つに分かれた作品です。

 舞台はベルギー国境に近い街リール。映画はドキュメンタリー風に高校生アデル(アデル・エグザルコプロス)の日常を描きます。上級生の男の子と親しくなり、ベッドを共にするものの何かもの足りず満たされないアデル。
「17歳」で高校生に朗読させるのはランボーの詩ですが、ここでは伯爵夫人のアバンチュールを描いたマリヴォーの古典「マリアンヌの生涯」が登場して、思春期の恋愛感情を触発します。(原題はこの作品タイトルにかけています。)
 ある日、偶然出会った美大生エマ(レア・セドウ)に強く惹かれ、二人はたちまち恋仲に。アートの世界に通じる大人びたエマに夢中になったアデルは、肉体的にも彼女にのめり込みます。長々と実写で繰り返される二人のベッドシーンのそれは濃厚でエロティックなこと。

 芸術家の卵仲間に囲まれ、画家として自立する道を探るエマに対して、文学少女で家庭的なアデルは大学を出て幼稚園の先生に。アデルの両親にとって同性愛は別世界のお話。人生に大切なのは確実に食べて行ける職につくことという典型的な保守派ですが、エマの実家はリベラルでレズビアンの娘を温かく見守り、アートに囲まれた暮らしを楽しんでいる様子。
それぞれ典型的なフランスの家庭ですが、トマトソースにまみれたスパゲッティ・ボローネーゼがアデルの育った家庭の象徴で、エマの家では食感がエロティックと言われる生牡蠣が並びます。どちらも月並みな人気料理だけど、この両者に二人の生い立ちや感性の違いを反映させているところがミソ。

 教養あるアーティストの世界にいるエマは、アデルに文学の世界を広げることを望み、自分のために家事や料理にいそしむアデルが次第に物足りなくなります。あれほど親密だった関係に隙間風が吹き始め、アデルは寂しさに負けて男性の同僚との火遊びに走ります。
 それに気づいたエマは、唐突にきっぱりとアデルを自分の住まいから追い出すのでした。

 互いに一目惚れで始まった大恋愛のときめきから終焉までの数年間を頻繁な表情のアップによる心理描写とリアルなベッドシーンで描いたこの映画、二人の間に通った愛情は心打つものがあるにせよ、3時間は長過ぎる。二人が同性愛であること以外はよくある恋愛の顛末で、それ以上の深みが感じられません。

 ではなぜパルムドールを獲得したか?折しもちょうど一年前のフランスでは同性愛者同士の結婚が国会で承認されたばかり。パリや大都市ならゲイカップルが珍しくないお国柄なのに、この結婚法案に対する保守派の国民の抵抗はあっけに取られるほど強く、連日のようにあちこちで過激な反対デモが行われていました。
 隣のイギリスでは同性愛結婚がすんなり公式に認められたのに、なぜフランスでこんなにも反対が強いのか?普段は隠れている保守的な農業国の伝統が思いっきり顔を出したことに戸惑う人々も多かったようです。なので、スピルバーグ審査員長がどう言おうと、この映画の受賞には明らかなメッセージ性を感ぜずにはいられません。
 個人的には、同性である女性に対してここまで強い恋愛感情と欲望を抱けることに軽いめまいを覚えました。映画で男性ゲイカップルのベッドシーンを観てもこうした違和感を感じないのは、やはり自分が女性だからなのでしょうね。 
公式サイト:http://adele-blue.com
# by cheznono | 2014-04-21 02:41 | 映画

17歳

17歳_b0041912_17203577.jpg 「危険なプロット」に次ぐフランソワ・オゾン監督の話題作「17歳」。確たる理由もなく売春に走る女子高生の話は、思春期の不安定さよりも、頭が良くメランコリックなヒロインの本人も説明のつかない心の闇が印象に残った作品でした。
 主演のマリーヌ・ヴァクトの妖艶な美しさは特筆すべきで、原題の《jeune et jolie(若くてきれい、あるいはかわいい)》が皮肉に聴こえるくらい。jeune et jolieなんて、フランスではたいていの若い女性や若く見える女性に使われる形容詞ですが、ものうげな表情が似合う23歳のマリーヌ・ヴァクトは belle、あやしいまでに美しく、まさに dame de beauté(美貌の女性)。
 フランスではリアリティに欠ける信じられない話と言う感想が目立ったのも、彼女の美しさがヒロインの行動の唐突さや不透明さをより非現実的に見せているからではないでしょうか?あえて現実味を薄くしたのはオゾン監督の作戦かも知れませんが。

 思春期の揺れる心理というよりも、かの東電OL事件を彷彿させるヒロインの心の闇と社会の隠れたひずみが印象的な映画です。

 インテリの母親(ジェラルディーヌ・ペラス)義理の父親(フレデリック・ピエロ)、そして弟と暮らすイザベルはカルチェ・ラタンにある名門校に通う17歳。家族で夏のヴァカンスを過ごす海辺でナンパされたドイツ青年と初体験を経験し、何の未練もなくパリに戻って新学期を迎えますが、同時にネット上に自らのセクシーな写真を載せて、客を募ります。
 普通の女子高生と放課後の売春という二足のわらじを履くイザベル。ある日、いつもの高級ホテルで常連の年配客ジョルジュ(ヨハン・レイセン)と会っていると、《お仕事中》に相手が心臓発作で急逝してしまいます。急いでその場を去るイザベルでしたが、これをきっかけに彼女の行動が両親に知られ、母親は半狂乱に。イザベルは精神分析医の元に通わされます。彼女は少しづつ自分の行動について精神科医に語り始めるのですが。

 途中、イザベルの高校の同級生達によるアルチュール・ランボーの詩「物語 Roman」の朗読が入りますが、これがとても良い。際立って早熟だった詩人の青春にヒロインの不可解な振る舞いを重ねていて効果的です。

「 性に目覚めた思春期の向こう見ずな行動」という解釈は私にはあまりピンと来なくて、東電OL事件との共通性が強く感じられた作品ですが、映画としてはかなり面白く鑑賞できました。
 イザベルの行動に一番理解を示したのは、馴染み客だったジョルジュの妻アリス(シャーロット・ランプリング)だったというのもオゾン監督らしい皮肉な、あるいはむしろ粋な演出と言えるのかも知れません。

「17歳」公式サイト:http://www.17-movie.jp
ランボーの詩:http://poetes.com/rimbaud/roman.htm
# by cheznono | 2014-03-24 17:21 | 映画

はじまりは5つ星ホテルから_b0041912_1174531.jpg 心身ともに絶不調で何もする気になれない毎日。引きこもっていてはいけないよと友達が誘ってくれたのが「はじまりは5つ星ホテルから」。ちょっと身につまされるイタリア映画です。
 欧州を中心に格式高い5つ星ホテルでの撮影が売りの映画ですが、意外に地味なお話でした。申し分ない仕事に生き甲斐を感じている独身女性が、家庭を築いている妹や、築こうとしている元カレに揺さぶられ、自分の孤独と向き合って人生を見直す、というさして目新しくないテーマをありがちな安易なラストに持って行かなかった点により現実感が感じられ、好感の持てる作品です。

 イレーネ(マルゲリータ・ブイ)は高級ホテルのベテラン覆面調査員。パリを初め、ある時はトスカーナ地方、その次はマラケシュと出張して一流ホテルに体験宿泊してはミシュランの格付け調査員よろしく、ホテルの星の数がサービスに見合っているかどうかをチェックします。
 仕事に生き甲斐を感じるイレーネですが、かつて結婚まで考えた元カレのアンドレア(ステファノ・アコルシ)から新しい恋人が早くも妊娠したと聞かされ、動揺を隠せません。
 一方、夫と二人の娘がいるイレーネの妹シルヴィア(ファブリツィア・サッキ)は、独身の姉の行く末が気がかり。姪っ子達はかわいいけれど、今の自由を手放してまで子供がほしいとは思わないイレーネは、ことあるごとにシルヴィアとぶつかりがちです。

 ある日、ベルリンの一流ホテルでイギリス人の人類学者ケイト(レスリー・マンヴィル)と意気投合したイレーネ、自立したケイトの独特な発想にすっかり共感しますが、ケイトの急逝により激しく落込むことに。身寄りのないおひとりさまの老後を意識せずにはいられません。
 イタリアに帰ったイレーネは、アンドレアに不安をぶつけますが。。

 保守的なイタリアでは、かなりの高学歴でもキャリアを積んで行く女性は少数派。そもそも女性の就労率がヨーロッパの中では抜群に低いため、イレーネや音楽家の妹は恵まれている存在でしょう。
 そのわりにイレーネの私生活は地味で、同業の夫と二人の子供という正統派の家庭を持つシルヴィアにしても夫婦間にはセックスレスの問題が横たわっています。 
  別々の生き方を選んだイレーネとシルヴィアは互いに相手が少し羨ましく、ちょっと疎ましく、それでも愛しいかけがいのない姉妹。それぞれの問題を抱えながら、より良き明日を信じて前に進もうとする姿に勇気を貰いました。

 ちなみに魅力的なステファノ・アコルシ、フランスのトップモデルで女優のレティシア・カスタとの間に二人の子供がいてお似合いの美男美女カップルと思っていたら、いつの間にか別れていて、今は20歳も年下の女優さんがパートナーなのだそうです。

「はじまりは5つ星ホテルから」公式サイト:http://www.alcine-terran.com/fivestar/
# by cheznono | 2014-02-17 01:21 | 映画

皇帝と公爵

皇帝と公爵_b0041912_0425725.jpg 「ミステリーズ・運命のリスボン」のラウル・ルイス監督の遺したプロジェクトを、長年のパートナー:ヴァレリア・サルミエントが完成させた「皇帝と公爵」。名匠ルイス監督にゆかりのあるフランスの俳優陣が参加している歴史絵巻と聞き、公開を楽しみにしていました。

 今回も舞台はポルトガル。1810年、ナポレオンからポルトガル征服を命じられたマセナ元帥(メルヴィル・プポー)は、大軍を率いてブサコを目指します。既にポルトガル国王はブラジルに避難していて、フランス軍の進軍を迎え撃つのはウェリントン公爵(ジョン・マルコヴィッチ)率いる英国軍でした。(イギリスは対フランス同盟軍に加わっていて、当時商業的に利用していたポルトガルを守るため)
 マセナ元帥率いるフランス軍は圧倒的な数の力で進軍。素行が悪く、略奪や婦女暴行を躊躇わなかったためにポルトガル市民から憎まれ、ポルトガルの兵士達は必死の抵抗を試みます。

 一方、ウェリントンはフランス軍との決戦を避けて撤退したと見せて、実際には防衛のためにリスボンの手前に広大な砦:要塞トレス線を建設させていました。
映画の中のウェリントンはゆうゆうと構え、ひたすら画家レヴェック(ヴァンサン・ペレーズ)に士気を鼓舞するための戦争絵画を描かせます。
ナポレオンにいたってはいっさい姿を見せません。

 映画は、フランス軍の侵攻で傷つきながらも祖国を守るため、果敢に前線から離れまいとする兵士たちやその周りの女性達、砦建設に従事する若者、戦乱の巻き添えをくらう一般市民などなど、視点を主にポルトガル側に向けて、戦争の世の理不尽さをあぶり出します。ゴヤがナポレオンのスペイン侵略時について描いた絵をもじったシーンも。
 
 ナポレオンの侵略命令のお陰で、いかにポルトガル市民や兵士が傷つき、悲喜劇に翻弄されたか、は丁寧に描かれているので、その意味で観て良かったと思います。

 ただ、カトリーヌ・ドヌーヴ、ミシェル・ピコリ、イザベル・ユペールを初め、肝心のメルヴィル・プポーも152分中わずかに顔を出すだけなのは、何とも残念。せいぜいマチュー・アマルリックのマルボ男爵のナレーションが引き立つくらいで、ルイス監督へのオマージュのための友情出演とはいえ、そうそうたるフランス俳優陣がおまけのようなのはちょっと肩すかしです。
重点的に描かれたポルトガル側の俳優がみんな良い味を出しているのだから、世界的に名の売れた俳優達をわざわぜちょい役に使わなければ、もっと印象に残る映画になったのではないでしょうか?
ちなみにフランスメディアはこぞって好評価、でも観客評はイマイチでした。

 ナポレオンにその手腕を買われたマセナはニース出身。軍師としては優秀でしたが、粗暴で女好き、このブサコの戦いにも愛人ユサルド(キアラ・マストロヤンニ)を男装させて同行したほど。ニースの中心、あのマセナ広場はこの人の名前を冠しているそうです。
# by cheznono | 2014-01-18 00:46 | 映画